実験は、成功です。
門をくぐり本館の玄関扉を開け
「ただいまぁー」
と言って奥の方へと向かうが、なんか違和感。
…
そう、いつも出迎えてくれる執事やメイドが出てこないのだ。
俺はもう一度
「ただいまー」
と少し大きめの声で言ってみた、が、やっぱり反応がない。
…
あ、と思い、サッと振り向き玄関を出て使用人館へと急ぐ。
出入り口を開けそのまま小走りで地下室へと廊下を進もうとすると何やら女子たちのキャイキャイ言う楽しげな声が聞こえた。
声は2階の方から聞こえる。
ここに至り早くも自分の考えたことに確信を得た。
そう。
ホムンクルスが出来上がったのだ。
俺はそう確信し廊下を急ぐ。
すると廊下に面した地下倉庫への入り口の扉が開けっぱなしだ。
そのまま俺は地下倉庫へ行く。
俺は確かにここの扉は閉めておいたはずだ。
てことは今2階にいる女子たちが開けっぱなしで出ていったことになる。
これは相当に浮かれているんだろうと俺は思った。
喜んでもらえるのはやぶさかではないがこれほどかと改めて思い直す。
案の定、地下2階への扉も開けっぱなしだ。
あれほどマナーにうるさい執事やメイド長ですら扉の開け閉めを忘れるくらい浮かれているのだ。
ふふふ。あのクールダンディな執事は一体どんな顔をしているのか非常に興味深い。
階段を降りていくと正面の地下2階の実験室の扉はしっかりと閉められている。
俺はその前に立ち耳を澄ます。と扉の向こう側からは
「おぉっ!」とか呟く男性の声が聞こえた。
俺は少し間を空けてから右手で扉をコンコンとノックする。
「ただいまー!」
俺はわざとらしく大きめの声でそう言って反応を待つ。
すると声が消えた。
そして数秒後にゆっくりと扉が開きその隙間から執事の顔がこちらを覗いた。
「やあ、俺の作った君の身体の具合はどうかな?」
俺はちょっと戯けた感じでそう言ってニッコリと笑った。
「す、すこぶる快適でございます。ご主人様」
執事はそう言って弱々しいが晴々とした笑顔を浮かべる。
うーん、いきなり〝ご主人様〟に格上げされたか。
良い気分ではあるがちょっとねぇ…まぁしょうがないか。
改めて執事の顔を見てみる。
…出来立ての肌は真っ白でどう見ても病人顔にしか見えない。
しかも…髪の毛も髭も伸び放題。
その上、彼の首から下を盗み見ると肩から胸にかけての肌がしっかりと露出している。
そう、裸だ。
…あー、しまった。
みんなの服を揃えてなかったわ。
「違和感とかはどう?」
「いえ、全く」
執事の顔にほんのり赤みが加わり柔らかい笑顔になる。
こりゃ相当良い感じっぽいな。
「すまんね、服を用意するのを忘れてたわ」
俺はそう言って頭をかきながら苦笑いを浮かべる。
「とんでもございません! 服など、この使用人館内を探せばどこかにあるはずでございます」
あぁそうか。
それで2階から女子の声がしてたんだ。
ってことは女子が先に服を探しにいってこの後は執事が行くって感じかね。
「…タイミング、悪かったようだね。俺はこのまま本館に行ってるから服探し、頑張って」
俺はそう言って右手を軽く上げクルリと回れ右をして階段を上がって行った。
「お気遣い、ありがとうございます!」
執事の声が俺の背中に響く。
俺は本館に戻り自分で勝手にお茶を入れてみんなの帰りを待つことにした。
が、お茶を淹れようと厨房で立っていると背中に何やら気配を感じた。
「男爵、今回の君の働き、シュバルツロート伯爵家としてお礼を言わせてくれ。ありがとう」
俺は慌てて振り返り両手を前に出しフルフルと振り
「とんでもございません! これはただの私の個人的な実験での結果に過ぎません。しかも伯爵のお体をご用意できず申し訳ございません」
と言ってさらにペコペコと頭を下げた。
そう、残念ながら伯爵の亡骸は手に入らなかったためホムンクルスの作成のための素材が揃えられなかったのだ。
彼の自室のカーペットにあるシミはそのほとんどが毒ワインのもので伯爵の血液ではなかったのだ。
肝心の遺体は燃やされ森に撒かれてしまったそうだ。
「良いのだ、男爵よ。私はこの今の自分を誇らしく思っているのだよ」
あ、これは…
そう思ったのも束の間、伯爵は立板に水の如く捲し立てる。
「死んだはずの私がこの世に留まりしこの意味を20年に渡り考え尽くしてきた。そう! これこそが神が私に与えたもうた運命なのだと!」
やばい。ここは狭い厨房だ。逃げ場がない。
この〝運命話〟。長いんだよね。
ここに来た初日にはいろんな話も含めて一晩中話しをして…
「伯爵様、男爵様、お話なら貴賓室にてお願いいたします。すぐにお茶をご用意いたしますので」
グッドタイミングでメイド長様が来てくれた!
…でも、伯爵の話しは止めないのね。
「おぉ! エリーザベト! 君のその姿を再び見られる時が来るとは…私は、私は感動で生き返りそうだ!!」
「伯爵様、ありがとう、ございます」
メイド長も感動しているのか…涙ぐんでいる。
…それにしてもメイド長の名前、エリーザベトというのか…初めて知ったわ。
メイド長、話していた感じでは老婦人という印象だったのに…若い!
一応〝死亡した年〟に戻すという術式で魔法陣を描いたはずなのに…
魔素液での〝再生〟とか〝成長〟にかかった時間が短かったせいかなのか?
それともホムンクルスが再生時に意思を持って…いやいや、そんなこと…アリエタリシテ…
ま、まぁ、本人が満足してれば俺が口を挟むことではない、よね?
あのあと厨房から貴賓室、そして食堂に移動し復活した使用人たちと伯爵も交え一晩中話し続けてしまった。
喜んでいただけたのは嬉しいんだけど、俺、最近ちゃんと寝てない気がするんだが…




