人生、いろいろだね。
というわけで、奴隷を数人手に入れたんだが、なんか奴隷商人がブツブツ言って上下左右に身体を動かしてる。
…なんか踊ってる感じ?
「な、なんなんだ?…なんでうまくいかないんだ? 私が悪いのか? なんで私みたいなちっぽけな男を神様は苦しめるんだ? 奴隷商が悪いのか? そんなのたくさんあるじゃないか… いやいや、そもそもはある日突然教皇様の鶴の一声で『小さい奴隷商は合併か廃業か』ってなって…なんでだぁってなって、大勢の同業者たちと一緒に教会に陳情に行ったけど『教皇様の声は絶対である』の一言で全て終わり。じゃあってんで、売れ残った奴隷と街で拾った子供を連れて聖王国を出て一旗あげようとしたわけ。んで、たまたま手に入れた〝声の出なくなる首輪〟でうまいこと資金集めをし、いい感じでお金が溜まって来たんでじゃあ他の国の大きな町に移動しようとここまで来たのに……」
あー、苦労してるんですねぇ…
とはいえ、こういうアコギなことをして金儲けをしてると結局はどこかで跳ね返ってくるんだよ、それが世の中ってもんだ。
それにしても〝売れ残った奴隷〟と〝街で拾った子供〟ってのがなんか引っかかるんだけど…
『アレじゃね? 売れないってことは何かあんだよ、きっと』
おっと、また急に来たね。
『だな。顔はまあそこそこだし体の欠損もないしなぁ』
『てことは!』
『てことは?』
『わからんってことだねぇ』
『…じゃあ黙ってろ』
『おー怖い怖い! 人生の先輩としての僕の忠告を無視するなんて地獄に堕ちちゃうよ?』
『ふん。あの白い空間を経験したらその地獄ってところにもいってみたいって思うわ』
『え? 何? そんなとこあんの? 行ってみたーーい!』
『あれ? お前もいたぞ? なんで覚えてないんだ?』
『え? …僕、いたの? マジ?』
あれ? いたよね? いたはずだよね? ほら、あの空間で実体化してたじゃん? エルフっぽいやつ。
……ドユコト? 幻ですか? それとも…あそこで現れるのは〝別人格〟?
『ごめん…勘違いかも…お前に似たお喋りがいたんでさ』
『へぇ〜 僕みたいなお喋りな精霊がいたんだ。ま、基本、精霊はお喋りだよ?』
『へ? なんで?』
『だって普段は人なんかと喋る機会がないしさ。精霊に近い存在の森人とか山人は基本お喋りが好きじゃないんだよ』
『森人とか山人とかって…あれか、エルフとかドワーフってやつだろ?』
『あぁそれって召喚された勇者たちも言ってたよ。でも彼らにそう言っても通じないよ』
そうなの?
『それって、向こうの世界の言い方じゃん? そんなのわかんないって。ただ、昔、勇者と交わりのあった人たちは覚えてるかもね』
『ふーん…』
『そんなことより! 白い空間!! 何そこ? まさか天国ってとこ?』
『そんな大層なところじゃないと…思う…ぞ? 多分』
『うわぁ! すげー行ってみたい! よしっ! 大将に聞いてみよっと』
急に静かになった。
ほんと勘弁して欲しいわ、急に喋り出すし急に静かになるし。
情緒不安定なんだろな、あいつは。
それにしても…あの〝空間を司る精霊〟って言ってたヤツ。
絶対こいつだったはず…なのになぁ…あの空間には何らかの制限があるのかも…
ま、考えてもわからんことは放っておこう。
で、もういいかな? 奴隷商さん、正気に戻ったかな?
「もしもーし。ちょっといいですかぁ」
一応、優しく声をかけてみたんだが、まだブツブツ言ってて全然反応がない。
気がつくと周りの野次馬たちはほぼいなくなっていたし、いつの間にかさっき成功したガタイのいい男も獲得したはずの奴隷を連れて隣に立っていた。
男も奴隷も着替えて来たようで一般人っぽい感じだ。
「えーと…どうしたらいい?」
思い切ってサクラ役の男に聞いてみた。
「あー…店主がこうなったら小一時間は戻ってこねーぞ? ま、いつかはこうなるだろうとは思ってたけどさ。しょーがねーよな」
「そうね。王都はやめた方がいいって言ったのにねぇ」
なんかみんなが女の言葉を聞いて頷いている。
「そうそう、こういうおっきな街はちゃんとした実力者がいるからって言ったのにさ」
獣人の女も愚痴ってきた。
「オメー、大丈夫か? 腕、折れたんじゃねーの?」
獣人の男はなぜか俺の腕の心配をしている。
みんながうんうんと頷いている。
…何? こいつら? 本当に奴隷?
「君たち、全然奴隷っぽくないけど?」
一応、聞いてみた。
「あぁ、こいつらはみんな聖王国を出た時点で奴隷契約を破棄してるんだよ」
俺の問いにガタイのいい男が答える。
「なんで?」
「いやね、奴隷契約って国単位の契約になるんだわ。だから国外に移動する時は一旦契約を解除して次の国に入ってからまた新たに契約をするんだ」
「それがさ、高いのよ。契約だけで一人金貨1枚だってのよ? 無理無理無理。うちにそんな金はないって」
「そう、だから店主がこういうギャンブルを考えたんだけどさ。いざお金が貯まるともったいなくなったんじゃない?」
「俺は国に入る前に何か金になる素材を採取して」
「んなもん、大した金になんねーって!」
「でもよぉ、その結果がこれだぜ? 俺ら奴隷契約してないのに奴隷として売られちまったんだぞ?」
なんか俺のこと、忘れてない?
店主のことも。
みんなでやーやーやり合ってるけどさ…
奴隷契約してないってんじゃこの取り引き自体無効ってこと?
いやいや、それじゃ俺の出した大金貨2枚は?
ん? いや、待てよ。
「お前ら奴隷じゃないっていうんなら、普通に俺のとこで働く気ない?」
皆が一斉に俺の方を見た。
「あー、屋敷の使用人を探しててさ、どう? やる?」
「きゅ給金はいくら貰えるんだ?」
「腕っぷしには自信があるゼェ!」
「どんな仕事? 私にもできる?」
「屋敷って…」
「夜は任せて」
「お料理、できます」
「働くの…」
「…」
皆さんの食いつきが良すぎる。
なので、店主さんをほっといて俺の話をした。
実は昨日なったばかりの貴族で使用人がいない。
屋敷はデカいが20年手付かずだったんでそれの修復や掃除をお願いしたいこと。
庭もそれなりにやって欲しい。
何より食材などの買い出しをお願いしたい。
だたし、本館は幽霊屋敷でほんとに幽霊がいる。
働くのは主に本館ではなく使用人館だから大丈夫。
などなど…
「…」
みんな黙ってしまった。
あれ? なんかみんなの雰囲気が変わった?
もしかして…信じてない感じ?
……
そりゃいきなり「私貴族です。ウチで働いてください」って言われて信じる方が変か。
うーん…どうしよう…
ていうか腹減ったわ。
「とりあえず、腹が減ったから誰か商店街に行って食いもん買って来てくんない?」
そう言って俺はバッグから金貨を3枚出しみんなの顔を見る。
「んじゃあ俺とこいつで言ってくるわ」
そうガタイのいいニイちゃんが言い、着替えた女性に目配せをした。
「人数分だとかなりの量になるから俺も行こう」
そう言って座っていた獣人の男がヨッコラセと立ち上がった。
俺はガタイのいいニイちゃんに持っていた金貨を渡し
「いろいろ買ってきてよ、飲みもんとかも含めて」
と言った。
「オッケー」
にいちゃんはそう言って3人で出かけて行った。
「ずいぶん簡単に信用するんだねぇ」
公園を去る3人の背中を見送っていると獣人の女が俺に声をかけてきた。
なので俺は
「いやいや。たかが金貨3枚ぽっちで貴族を敵に回すなんてこと、しないでしょ? しかも王都で」
と言いおどけて見せた。
「いやいやおっさん。あんたどう見てもお貴族様には見えねぇって! さっきの話だって、だーれも信じてねーから」
あれ? やっぱり?
「そうよぉ。偽るにしたって貴族はないわぁ。せいぜい大魔導師くらいにしときなさいって」
お、おねーさんまで…
「ま、まぁ、魔導師であることは否定しないけどさ」
メシが来るまでの間、なんとかみんなと話をして時間を潰した。
なんで奴隷なんかになったのかとか、どんなことができるのか、とか。
獣人の女性は戦士だそうだが、まだ見習い訓練中に頭数を揃えるために戦場に駆り出された上に最初の戦場で何にもできずに捕虜になったそうだ。
ちなみに飯を買いに行ってる男の方はあのガタイで同じ隊の炊事係だそうだ。
人は見た目で判断しちゃいけないね。
てっきりもの凄い戦士とかかと思ってたわ。
で、おねーさんはやっぱりというか見た目や言動で感じた通り〝風俗〟系のお仕事をしていたそうだ。
お店の女主人がアコギな商売をしていたため摘発されてなんだかんだで奴隷落ちしたそうな。
まぁ、犯罪者として投獄されるよりはマシって感じらしい。
…なんか軽くね?
あと、買い出し中のおねーさんは戦士だそうだ。
え? 見た目はごく普通のおねーさんだけど…
なんでも彼氏が浮気をしてそれに怒ったおねーさんが半殺しにしたところ、彼氏の実家が結構なお家だったらしく、冤罪をかけられ奴隷落ちしたそうだ。
元々は闘技場とかで戦う女戦士だったそうで、そこそこ人気の戦士だったらしい。
…そんな職業もあるんですね、多分だけど日本で言うところのプロレスラーみたいなもんかな?
残りの子供3人はなんかはっきりしない。
おねーさん曰く、聖王都を引き払おうと店の整理をしていた時にフラッと現れ「一緒に連れて行ってほしい」と言われ連れて来たそうだ。
なんか訳あり感満載だけどねぇ、ここの奴隷商さん、どっか抜けてるよね。
基本はいい人なんだろうけどさ。
絶対損な人生をずっと歩んできたんだろうって感じがするよ。
みんなの身の上話を聞いてたらあっという間に時間が過ぎてた。
で、気がついたらメシを買いに行った連中が帰って来てた。
なのでみんなでわいわい言いながら昼メシにした。
ボリューム満点のなんかの肉の串焼き。
野菜がたっぷり入ったスープ。
カッチカチだが麦の味が濃いパン。
30センチくらいあるソーセージ。
見たことのない紫色の果物っぽいもの。
みんな満足してくれたらしい。
俺にしてみれば、肉の串焼きは味が薄いし肉も硬かった。
スープもやっぱり味が薄くて、塩って高級品なんだなって実感した。
でも、パンも肉も硬いからスープがないと飲み込むのも一苦労だったよ。
腹も膨れてひと段落ついた感じになったんで、真面目にウチで働いてもらうためにどう説明しようかと考え始めた時、ふと思い出したことがあった。
…そう、ウチの使用人館、あの事件の当日のまんま、誰も手をつけていないんだってこと。
簡単に言えば、殺人事件現場が遺体もそのままの状態で20年間ほっとかれていたってこと。
死んだ執事やメイド達の遺体がそのまま白骨化して放置されているんだわ。
そこにこいつらを連れて行って…絶対断られるでしょ! ここの掃除からお願い、なんて言えないわ。
…いや、本当の貴族ならそういう感じなのかもしれないけどよ、俺には無理だわ。
俺がそれを言われたら絶対に嫌だし、何かの契約で縛り付けて働かせたところで嫌々働かれてもねぇ…
途中で逃げられたりしても面倒だしさ。
それに、さっき屋敷を出るときにいいことを思いついちゃったんで、それを実行するためにはそれらの素材が必要になるわけだし。
ここは黙って俺が使用人館の掃除をちょっとした改装をしてから働いてもらおう。
俺は正気に戻った店主と、みんなで俺の屋敷で働かないかと話をした。
やはり最初は信じてもらえなかったが、
「どうせ今からこの街で商売を始めるにしたって出ていくにしたって、すぐにはできないでしょ? 明日、昼過ぎにまたここに来るから、とりあえず一晩、考えてみてよ」
と言ってみんなと別れた。
ま、明日、会えなくてもしょうがないよね。
また探せばいいだけだし。




