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執事の話は興味深いが長かった。

……

彼の語る話はなかなかな…だった。

なんというか…とびっきりゲスでくそな物語だ。

まぁ、多少は執事の想像も入っているとは思うが、これはほぼ事実なんだろうな。

衛兵との雑談で得た知識と合わせて考えてみても、20年前に行われた権力闘争の一部ということだろう。

ただ、現在の王は伯爵を気に入っていたし正直、兄のように慕っていたそうだ。

それがどうにも引っかかる。

思い返せば俺に「この屋敷を」と言った時の王の顔は何とも複雑な顔をしていたっけ。

……

となると、現王には黙って行われたか? または、現王とは関係ない派閥の権力闘争に巻き込まれたってところか?

考えすぎだろうか…


事件は、勇者一行がこの大陸の全国家の軍隊とともに〝魔王討伐〟を行っている最中に起こった。


20年ほど前、魔王討伐のため、当時の王の命令で長男である王子を指揮官とし、近衛兵500名と騎士団約1万5000名が王国を出ていた。

国に残っていた戦力は近衛兵100名と騎士団員約5000名と予備役兵約2500名だけだった。

まぁ周辺国も同じ感じで〝魔王討伐〟に参加していたので他国から侵略を受けることはないはずだった。

大陸中の全国家で魔王討伐が終わるまでの〝不可侵条約〟もしっかり締結されていた。

そんな中、王都で貴族街の門を武装した集団が襲い、衛兵と近衛兵に撃退されるという事件が勃発した。

そしてその翌日、伯爵の屋敷に近衛兵20名ほどが訪れた。

何事かと対応すると近衛兵の一人が書状を広げ大声で言った。


「マシュー・ディゼル・フォン・シュバルツロート伯爵に反逆罪の疑いあり! 身柄確保のため押し通す! 抵抗しないよう!」


対応にあたったメイド長は何の話をされているのか一瞬理解が追いつかなかった。

が、言い終わるや否や、近衛兵たちは小走りで屋敷内に突入し5名ほどが奥の伯爵の私室へと行き、残りの兵は執事やメイドなどに向かい

「使用人館へ行き絶対に出ないように!」

と言い渡しながら部屋を全て見回り伯爵以外の者を隣の館へと押し込め軟禁した。

と、ここまでが執事たち使用人が伯爵について知っている事実だ。


執事としても、伯爵が反逆などするはずもなく、疑いはすぐに晴れるだろうとは思っていたが、一抹の不安はあったという。

実際、執事の嫌な予感は当たってしまう。

その後、伯爵は身に覚えのない叛逆罪という罪で自害に追い込まれ、領地に残っていた家族や親戚は皆投獄され、ほぼ全員獄中で命を落としているそうだ。

ただ、伯爵の妻と娘の行方は未だ不明ということだそうだ。

これは俺自身が衛兵から聞いた噂話や、執事たちが霊体になってから集めた情報を元にしての話だけどね。

実際問題、伯爵が王国を裏切る理由が見当たらないし〝魔王討伐〟という一大事業が進行中の最中に国家転覆を図ったところで〝火事場泥棒〟呼ばわりされるのが関の山だ。

他の貴族や市民が賛同するとは思えない。

それでも伯爵は〝反逆罪〟で自死に追い込まれ、一族は皆投獄されたのだ。


そして、この屋敷の使用人たちの末路だが、これも悲惨極まりない。

近衛兵が強引に、使用人全員を使用人館に〝幽閉〟した。

そしてそれは、ことの顛末を知らされることなく三日間に渡ったそうだ。

で、三日目の夜、悲劇が起こった。

一人のメイドがたまたま夜中にトイレに起きた時に異変に気付き、すぐにメイド長へ報告した。


『外の衛兵がいなくなった』


『これで解放される』という考えが頭を過ったが、こんな夜中に見張りが撤収するなどおかしいと、メイド長は執事に報告する。

と同時に使用人館での惨劇が始まった。


どこからともなく侵入した族に使用人たちが次々と殺されていったのだ。

しかもその手口は奇妙だったそうだ。

メイドの一人の証言では、部屋に押し入ってきた白装束の数人の男たちは、同室のメイド全員をまず魔法で動けなくした。

そしてその後、一人づつに何か長めの呪文を唱えていった。

そのメイドはその時、彼らは何かの実験をしているような感じだったと思ったそうだ。

実際そうだったんだろう。

で、その呪文をかけられた者は、徐々に身体から白い煙のようなものを出し突然動かなくなったそうだ。

しばらくして自分の番になって理解したそうだ。

あれは身体から魂を抜く呪文だったんだと。

実際、自分は天井から自分が横たわっている姿を見つめて『あぁ、これが〝死〟というものか』と悟ったそうだ。


…うーーん、厳密にはちょっと違うけどね…


そうやって使用人館のほとんどの人間が、魂を身体から分離されてしまったそうだ。


腕に多少の自信があった執事ではあったが、多勢に無勢で結局は分離されてしまったそうだ。

その際、何人かは道連れにしてやったと自慢していたが…

思った以上に時間がかかってしまったのか、身体と魂の分離が終わった時点で夜が明けてしまった。

侵入者たちは渋々撤収していったそうだ。

魂だけになった者たちはそれをただ見ていることしか出来なかった。


魂だけになった執事たちはただ時間が過ぎていくことを感じ続けるだけの存在となっていた。

自らの意思で動くことはできず、だからといって消えてしまうこともなく、ただその場に居続けたのだ。

メイドの一人は同じ部屋に何人かの魂を感じてはいたが意思疎通のやり方が分からずただただ浮遊していたそうだ。


衛兵も来ず、軟禁を行った近衛兵も全く現れず、一週間ほどたったある日、執事は何やら大きな気配が近づいてくることを感じ恐怖した。

動くことができないことがこれほど恐ろしいことである、という事実を知った瞬間だった。

自室の天井の中央あたりで漂っていた執事は、使用人館の中にその存在が侵入してきたことを感じた。

やがてその気配が徐々に自分の方へと近づいてきたのを感じ、何が起こるのだろうという恐怖心と、これでこの世から解放されるという安堵感を感じたそうだ。

が、すぐにその考えに被さって、このまま自分の存在が消えてしまうことへの恐怖と怒りが沸々と湧き出てきた。

このままこの身に起こった出来事の真相を知らずに消えていくことにどうしても納得がいかなかったのだと執事は力説した。


俺はうーんと唸ることしか出来なかった。


一度死んだ経験のある俺としても、執事のような死に方をしたことがないので何とも言えない。

俺自身は割とあっさりと自分の死を受け入れてしまったので…


で、そんな考えをグルグルと巡らせていた彼の目の前に現れたのが伯爵の霊だったそうだ。

見た目はガス状の灰色の塊だったのだが、なぜか執事にはそれが伯爵であると感じたのだそうだ。

実際、灰色の塊は部屋を見渡し天井で浮遊している執事を見つけると

「やはり、お前か」

と声をかけてきたそうだ。

「伯爵様!」

と声をかけたのだが、伯爵には伝わっていないようだった。

そのため、伯爵は

「他の部屋をいくつか見て回ったが、君のように皆フワフワと漂っているだけで誰も私の声に反応する者がいないのだよ」

と言ってはぁーっと深いため息を吐いた。


「申し訳ございません!」

そう執事は叫んだが、これも届いていないようだった。


「じ様よ。何か言ったか? 何か言ったようには感じるが何も聞こえん。これでは不便だ」

伯爵はそういうとほんのりと淡く光だした。


「この身体になってから面白い術を使えるようになったんだ。それを今からじ様にかける。ちょっとだけ待て」


やがて灰色のガス体の中心が輝き、一瞬だけパッと強く光る。


「じ様よ。もう大丈夫なはずだ。こちらへ降りてきたまえ」

じ様と呼ばれた執事は何のことかわからなかったが主人の言いつけに背くことなど出来る訳もなく、下に降りるように念じてみた。

すると今まで全くコントロールできなかった自信の幽体がスーッと、音もなく床に向かって降り始めたのだ。

「こ、これは…?」


「ふふふっ どうだ? じ様よ。このマシュー・ディゼル・フォン・シュバルツロート伯爵は、死して尚更なる進化を遂げたのだよ!」

伯爵はそう叫ぶと身体の中心を赤く光らせたのだ。


「伯爵、死んでしまっては進化も何もありません」 

執事は冷静に突っ込んだ。

「そうはいうが、死んでしまったが故に得られたこの能力を活用しないなど考えられんであろう!」

「…」

執事には反論する気持ちの余裕ができていなかった。

魂だけになってからの一週間、いろいろなことが頭をよぎったがこの後どう自分で行動しようか、とは考えられなかった。


このまま消えるのか?

それは嫌だ。

ではどうする?

…どうしようもない。


この考えの繰り返しだったのだ。

今の伯爵のように、これからどうしようなどとは考えもしなかったのだ。

(さすがは伯爵様、我々とは違う)

執事はそう思い伯爵への忠誠心をさらに高めたのだった。

それからはメイド長やメイドたち、調理人などの浮遊霊に伯爵の〝隷属の術〟をかけまくったのだが、調理人など一部の者は隷属できずに成仏していった。

結果、残ったのは執事とメイド長とメイド3人だったそうだ。


「他の人たちは?」


俺は湧いて出た疑問を執事にぶつける。

多分、この館の規模から言えば使用人だけでも10人以上はいたはずだ。

なのに残ったのが5人だけ。

何があったんか、素朴な疑問が湧いてきたのだ。


「門番や屋敷の衛兵は皆拘束されてその後はわかりません。調理人やメイドの数名は、おかしな集団の術が失敗し死んだものが10名ほどおりました」


執事はそう淡々と語る。

が、言葉は固く感情を切り離してしゃべっている感じだった。

うーん、その集団のやった行為は、まさに実験だったんだろうな。

覚えたて、習得したての魔術を行使するにはうってつけの…いや、この実験も含めての陰謀だったんかも。

となると、そういう感じの魔術って俺の知ってる感じじゃ〝白魔法〟もしくは〝黒魔法〟の類なはずだ。

生物の生に対する魔術が〝白〟で、死に対するものが〝黒〟だ。

さらに言えば、〝白〟は時間を進めるもので、〝黒〟は時間を戻すものだ。

俺はそう習った。

そう考えると……身体から魂を引き剥がす魔法って…どっちだ?


いやまぁ、今は考えなくてもいいか。

……

おっと、執事の話を聞いてたら、結局夜が明けてしまったね。

窓の外がほんのり明るくなってきちゃったよ。

はぁ…、貴族になって屋敷まで貰ったのにブラック企業の下っ端社員みたいな1日だったわ。

……

さて、今日はどうしようか…


2024年、最後の投稿となります。

来年もよろしくお願いします。

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