ドタバタの後はシリアス展開でした。
伯爵はお喋りだった。
…
いや、20年間、溜まりにに溜まったストレスを、俺という恰好の獲物に対してぶつけている感じだった。
王国の今の様子や政治、経済、市民の動向など矢継ぎ早に質問をしてくるのだけれど、俺自身、この国に来たばかりで何も知らない。
それを伝えると伯爵は諦めるどころか
では男爵の国はどこでどんな国だ?ととにかく喋りたがった。
いちいち作り話をするのも面倒なので正直に異世界からの転生者だと打ち明け、伯爵が知りたい情報は持っていないと暗に伝えたつもりだったのだが、逆に『異世界からの転生者』というワードに反応してしまったようだ。
ということは勇者とかと同じ感じか? とか 20年前に来た勇者は強かった、君は知っているか? とか あの勇者の出身地は『日本』という国だそうだが知っているか? とか もう途切れることなく質問攻めにあってしまった。
時代はどうか知らないが同じ日本出身ですとか民主主義っぽい国だとか色々答えていたら、
「伯爵、もう夜も更けてまいりました。今日のところはこの辺で」
と執事が言ってくれたので、やっと解放されたのが夜の10時過ぎだった。
それでも話し足りない伯爵は
「何? 何故止める。まだまだ話は終わっておらんぞ」
と駄々を捏ねたので
「男爵は明日もここにいらっしゃいます。それにお腹も減っていることでしょう。続きはまた明日ということで」
とちょっと強めの言葉で伯爵の言葉を遮った。
これには伯爵も俺もビクッとしてしまった。
俺は主人に対しての執事の態度が怖かったのがビクついた理由だが、伯爵の方の反応は、まるで親に叱られた子供、という感じだった。
何となく、二人の関係性が見えたような気がした。
伯爵から解放された俺は、執事に案内され食堂へと導かれ、そこでパンとスープという質素な食事にありついた。
「男爵様にお出しするにはあまりにも貧相ではございますが、保存の棚も流石に生肉や野菜などは20年も持ちませんでした」
そう言ってガツガツとパンを齧りスープを啜る俺に頭を下げてくる。
「そんなこと全然気にしなくていいって」
腹の減っている俺は本当にそんなことは気にならない。
正直、20年前の肉や野菜を使った料理を出されるよりは、干し肉のスープとカピカピのパンでも今の俺にはご馳走だ。
……
いや待て? 20年前の干し肉とパンって… 大丈夫なの…か?
何とか腹も壊さず食事を終えた俺は、執事の案内で隣の建物へと移動した。
外観は大きめのアパートって感じだが、造りはしっかりしてるっぽい。
20年ほったらかしにしてたはずなので正直、外壁などの汚れは結構目立つ。が、穴があいていたりとか壊れているような箇所は見当たらない。
なんでもここを更地にして他の貴族の屋敷を建て直そうという話はあったのだが、この国の業者でそれを引き受けるところはなかったそうだ。
理由の一つは皆ここの幽霊を恐れたこと。
そしてもう一つが伯爵が実は陰謀で消されたという話が結構な人たちの噂になっており、この国の多くの人たちはそれを信じていたからだった。
ここの伯爵は、この国の民衆たちにはかなり人気があったようだ。
執事に鍵を開けてもらい、早速中に…
と思ったところ
「では、私はここでお暇させていただきます」
と言って執事が深々と頭を下げた。
てっきり中まで同行してもらえるもんだと思っていた俺は
「え? 案内してくれないの?」
と率直な言葉を吐いた。
「申し訳ございません男爵様。ここは我々使用人の最後の場所。そこに入った場合、この状態が消え本体に取り込まれてしまいます」
……?
「ん? どういうこと?」
「20年前、殺された我々使用人たちは自害したご主人様のお導きでこの状態を保っていられるのです」
!!!
今、さらっと重要なこと、言ったよね?
殺された?
……聞いてないよぉーーー
「殺されたってこと、俺、聞いてないんだけど」
聞かれた執事は
「はい。では詳しいお話をさせたいただきたいと思います」
と言って俺を再び本館の方へと誘う。
来た道を戻ってさっきの食堂で椅子を勧められる。
「さて…何からお話しすれば…」
なんて呟きながら執事は考え込んでいる。
「じゃあ、君の知っている範囲で構わないんで、伯爵の身に起こったことから教えてくれ」
俺からそう言われた執事は
「では」
と言って20年前に起こったことについて淡々と話し始めた。




