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屋敷は想定外にキレイでした。

「じゃあ」

と言って俺は衛兵と別れて屋敷の敷地に足を踏み入れる。

草ぼうぼうの荒れた庭、今にも朽ち果てそうなボロボロの建物…を想像していた俺の目には、綺麗に整えられた庭とピカピカとはいえないが全く古さを感じさせない屋敷が写っている。

「……」

何というか……いい物件ですねと、もし隣に不動産屋でもいたら俺はそう言っただろう。

門から玄関までのアプローチには整然と平石が敷かれ、その周りには芝生と色とりどりの花が咲いている花壇としっかりと選定された庭木が来訪者を迎えてくれる。

これってみんなこの家の幽霊さん達がやってるってこと?

…だよね? だって20年、手付かずって言ってたし。

そう考えると悪い霊ではなさそう。

とはいえ…どうしようか…

なんて考えてたら玄関に着いてしまった。

とりあえず…このドアノッカーを使えばいいのかね?


ゴンゴン


当然、人の気配はない……と思ったら扉の向こう側に何やら気配が…

そしてゆっくりと扉が内向きに開くと、中には老齢のメイドさんがひとり、佇んでいる。


「いらっしゃいませ。当家はマシュー・ディゼル・フォン・シュバルツロート伯爵様のお屋敷となりますが本日はどのようなご用件でのご訪問ございましょうか?」


メイドさんは静かにそう言って微動だにしない。

俺は懐から例の証書を取り出し彼女に渡す。

「王よりこの屋敷を譲り受けたクルト・ドライフェルト男爵を申します。伯爵へのご挨拶を兼ねご説明をさせていただきたいのでお取次をお願いします」

俺がそう言った途端、彼女の左目の瞼がピクリと反応する。


「少々お待ちください」

そう言って彼女は後ろに振り向き軽く手を2回叩いた。

「今、主人にお伺いを立てて参ります」

彼女は深々と頭を下げると霧のように消えていった。


「よろしくお願いします」

俺は誰もいない空間に軽く会釈をする。


うおっ! 怖っ!

そういうの急に見せないで!

と心の中で叫んでいたら

「こちらへ」

と急に横から声をかけられた。


「うおっ」


今度は完全に声に出てしまった。

見ると俺の横にはいつの間にか老齢の黒い背広…いやこれはモーニングってやつか?の姿の男性が立っていた。

彼は頭を下げた状態で立っているのでどんな顔をしているのか分からないが、もしかしたらニヤリと笑っているのかもしれん。

はぁ……

心の準備はしていたつもりだったが、こういう視界の外からの攻撃は避けづらいわ。


「今後は脅かすのはなしでお願いしたいね」


「今後、ですか?」


そう言って顔を上げた執事は、まさに執事然とした顔だ。

オールバックの白髪を綺麗にまとめ、口髭も白い。

右目にはモノクルが光り、額と目尻には数本の深い皺。

全体的には細いが四角い顔だ。

これで名前がセバスチャンなら完璧だわ。


「あぁ、ここのご主人、あーシュバルツロート伯爵が許可すれば俺とここに同居することになるんだからね」


「同居? ですか?」


執事さんの目が鋭さを増す。

そうなんだよね、確か、王様に貰った証書には「屋敷を与える」と書いてあったけど『除霊』とかは書いてなかったんだよね。

だったら俺が我慢して幽霊さん達と同居すればいいだけじゃんかとついさっき結論づけたんだけど……

受け入れてもらえるだろうか……


「……そういったことは後ほど。とりあえず、こちらへ。お茶のご用意をいたしますので」


うん。脅かされた仕返しは出来たかな?

何となくいつもとは違う感が向こうに伝われば、まずは成功ということにしよう。

玄関ホールの横にある扉に案内され、中に通される。

そこはこぢんまりとした部屋で、中にはシンプルなデザインの棚やテーブル、椅子が並んでいる。

で、真ん中のテーブルの横には、ティーテーブルでお茶を入れている若いメイドさんが立っていた。

執事さんが引いた椅子に座りお茶が運ばれるのを待つ。

……

あれ? これって20年前のお茶っ葉だよね。

飲んでも大丈夫?


目の前に置かれたお茶……これは…紅茶? 赤く綺麗な色合いだ。

香りも…いい。


「我が伯爵家には保存の魔法が施された貯蔵棚がございますので、風味などは損なわれていないと思いますが?」


なかなか手をつけない俺に対して突っ込んでくる執事。

はいはい飲みますって!

別にビビってるわけじゃないっての!

……

いや、多少はビビってるかも…

だって、いろんな意味で想定外なんですよぉ〜。

こんな丁寧な対応、ちょっとは考えてはいましたけど本当にそう来られると、実際、戸惑うっての。


…あ、紅茶、美味しい…


美味しい紅茶に甘いお菓子。

あ、こっちに来て初めての甘いお菓子だ。

うーん、ちゃんとしてて逆に困るわ。


なんて思って紅茶とお菓子を堪能してたらさっき玄関で対応してくれたメイドさんがスゥッと現れ

「主人、シュバルツロート伯爵がお会いになりたいとのことですのでご案内させていただきます」

と言って俺をまっすぐに見つめてくる。


「わかりました。案内、よろしくお願いします」


俺はそう言って立ち上がり


「お茶とお菓子、おいしかったよ、ありがとう」

と執事に言ってメイドの方へと進んだ。


言われた執事が横で頭を下げているが、特に反応せずにお茶の部屋を後にした。


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