幽霊屋敷にいざ行かん!
さて、一夜明けて宿も引き払い、今、貴族街へと望む門の控え室っぽところで座らされております。
それにしても、宿屋の晩飯、美味かったわぁ…
女将の説明、ちゃんと聞いてなかったけど、なんかの肉と野菜を煮込んだスープに固いパン。
これが結構俺の舌に合う味付けで、お腹が減ってたのもあって2回もおかわりしちゃったよ。
宿屋の親父が「食い過ぎだ!」って笑ってたけど、こんな美味いのこっちに来て初めてだからね。
あれ? そういえばあの空間にいた時って俺、何食ってたっけ?
…全然思い出せん。
あ、夜、寝た後、夢であの見習い神様に会えるかと思ったけど出てこなかったわ。
そう簡単には会えないのか?
それとも向こうが嫌がって出てこなかったのか?
そこんところは謎だけど、今度会った時に聞くことが増えてくだけだからちょくちょく出てきた方がいいのにね。
「すいません。お待たせいたしました!」
なんてことを勝手につらつら考えてたら昨日も俺の対応をしてくれた衛兵さんが扉を開けて部屋に入ってきた。
さっきも言ったんだけどやっぱり敬語は使うのね。
「他の衛兵との整合制が…」とか「規則は規則ですので…」とか言われちゃったらもう反論しづらいし逆に迷惑かけちゃうことになるからってことで〝敬語〟で話すことに決まりました。
…
そう言えば、こっちの世界でも〝敬語〟ってあるんだね。
日本特有のものだと思ってたわ。
……
いや待て、これも日本から転生した先輩たちの仕業か?
あぁ、また見習いくんに聞くことが増えたわ。
「いやいや、そんなに待ってないから」
俺は〝謙虚〟と〝おざなり〟が混ざった感じでそう応える。
それを聞いた衛兵くんはなんか複雑な顔をしてるけどさ、しょうがないじゃん! 昨日まで庶民だった俺が急に貴族っぽく喋れるわけないじゃん。
「もう、俺の言葉遣いのことはいいから例の幽霊屋敷の場所、早く教えて」
「…分かりました。……本当にここを貰ったんですか?」
顔を上げた衛兵くんは苦笑いを浮かべながらそう聞いてくる。
「本当だって。今も渡した書類見てるでしょ? 貰えるものは貰っておこうって感じで受け取っちゃったんだけどさ。まさか幽霊屋敷だと思わないじゃん」
衛兵さん、俺の説明を聞いてもなんか納得いかないっぽい感じで考えてる。
しょーがねーじゃん、知らなかったんだから! 俺だって嫌なんだって!
いやホント、マジ嫌だわ。
俺、霊感ないけどこの世界って普通に〝骸骨兵〟とか〝死霊使い〟とか居るって勉強したもん。
で高位の魔導師や神官が〝不死〟になったりするって言ってたっけ。
こっちじゃ『リッチ』とか呼ぶんだっけ?
お金持ちなのか?
そりゃ死なないんだから長年お金を稼ぎ続ければリッチになるよね。
ってそういうことじゃないのね。
…
あーもー鞄の精が相手してくれないから馬鹿みたいなこと一人でグルグル考えちゃうわ。
…
ホント、人がいると黙っちゃうよね? まぁ、どこで誰が俺たちの念話を聞いてるかわかんないけどさ。トラウマ深過ぎでしょ!?
…
ここまで言っても出てこないか。
なんて〝空間を司る精霊〟さんを煽っていたら
「わかりました。案内は私がやります。ただもう少しお待ちいただけますか?」
とちょっとだけ考え込んでた衛兵さんが喋り出した。
「え? まぁいいけど、大体の場所を言ってくれればいいのに…」
面倒なんでこっちで適当に探すよ?って言ってみたんですが…
「すみません。貴族の方に道案内を頼まれた場合、ちゃんとしかるべき場所をわかりやすくご案内しなくては規則違反になりますので」
とお堅い返事をされてしまった。うーん、面倒臭い。
「…すみません、貴方なんでぶっちゃけてしまうとですね、噂の幽霊屋敷を貰った人にみんな興味がありますんで、俺が代表して直接案内して事の顛末を見てみたいってのも正直、あります」
衛兵さんはそう言ってちょっと照れ笑いをした。
あーまーそうだよね。
今までずっと手付かず状態だったお屋敷にこの新人貴族様はどう対応するのか! 興味津々ってことは俺にも理解できるわ。
……
正直、どうしようか…な? 幽霊対策。
聞いた話じゃ会話は成り立つらしい。
毎回、玄関で年長っぽいメイドさんが対応してくれるそうで、大抵はそこで門前払いか押し問答の末、訪問者側の白魔法による攻撃などが行われて…結局は追い出されるみたい。
実際はみんな何があったかは詳しく語らないんで謎に包まれてるんだけどね。
そりゃ自分の失敗談を堂々と語って広めようって人はいないよね。
でも何年か前の除霊では、4、5名の教会関係者の魔法行使でメイドさん達を除霊しかかったのに、後ちょっとというところで壮年の執事さんっぽいのが登場してかなり激しいやり取りがあり結局教会側は這々の体で逃げ帰って来たそうだ。
…
わからん。
まずは会話から入るか。
そんなことを考えていたら、衛兵さんの交代時間が来たみたいで今は並んで貴族街のメイン通りを歩いている。
「で、その幽霊屋敷の元の所有者はマシュー・ディゼル・フォン・シュバルツロート伯爵という方だったんですが20年ほど前に〝反逆罪〟の罪に問われ極刑に処されているんだ、です」
「あー…そのー…反逆罪って何したの?」
「ちょうど魔王討伐の最中だった王国の乗っ取りを画策したとかなんとか…はっきりとしたことは我々庶民には知らされることはないんですよね」
ほぉー、国家を転覆させようとするなら絶好のタイミングじゃん!
でも、バレちゃったらなかなか難しいか…
「ふーん」
「…でも…シュバルツロート伯爵って結構庶民には人気だったんですよ。まぁ俺はまだ駆け出しの衛兵でしたから? ちゃんとした貴族の評価や評判なんかの正確なもんは分かりませんけどね」
「…誰かにハメられた?」
「うーん…どうでしょうか…伯爵の領地は特にいい土地だっていう噂は聞いたことがありませんし…後を継いだ貴族様はこの20年で何人か変わってますしねぇ…誰かが伯爵を亡き者にして甘い汁をって感じでもないし」
おっと、衛兵さん、だんだん喋り方がフランクになってきたね。
いい感じだわ。
「んーじゃあ誰も得してないって感じ?」
「そうですねぇ…我々が分かる範囲ではそうなりますか」
そんな会話を続けること数分、衛兵さんが右手を前に出し
「ここです」
と言った。
そう言って指差す先にあったのは想像とはちょっと違うこぢんまりとした屋敷だった。




