前世も今世もモテそうにないっぽい。
ランチ…なんて思ってた自分が恥ずかしい…
城門を出て空を見たらすでに陽が傾きかけているではありませんか。
俺、そんな長い時間お城の中にいた感じじゃなかったんだけどね。
でもまぁ、よく考えたら宿屋を出た時点でもうお昼だったっけ。
てことはもうオヤツの時間かぁ。
……
さてどうしようかと考えながら貴族街をひたすら進んでいく。
よく見るとお貴族様のお屋敷だけじゃなく、飲食店や衣料品店、薬屋や…おっと喫茶店っぽいのまであるぞ。
あーでも市民街?なんかにあった串焼きの屋台とか立ち飲み屋っぽい店は流石にないね。
こっちのお店はみんなこぎれいでお洒落な作りだわ。
街中を歩いている人は少ないけどご立派な馬車がゆっくりと移動してたりとか、着飾った貴婦人たちがお店の前で雑談してたりする。
しかも街の角角に衛兵っぽい奴らが立ってて街の治安を守ってるっぽい。
そいつらみんな俺のこと、ジッと見つめてくるんだよね。
俺ってそんなに怪しい?
…怪しいか。
こんな格好で貴族街を歩いてる奴なんて〝怪しい奴〟一択でしょ!
それでも職質とかはしてこないからいいか。
それにしても貴族街って綺麗だわぁ。
庶民の街とは違い、こっちの道は歩道と車道に分けられててどっちも石畳で綺麗になってるわ。
いやもう日本の街とそう変わらない感じだね。
で、そんな他愛のない事を考えながら進んでいたら、貴族街と庶民街の境の門に到着。
立ってる衛兵に許可を、と思ってたら入る時に対応してくれた男を見つけたんで、そそくさと近づいてみる。
するとすぐにあっちも俺に気付いたようでニコリと笑って手招きをする。
「先ほどはお世話になりました」
俺はそう言って鞄からさっき受け取った通行許可証なるもんを取り出し提示した。
「おーっ と、さっきより綺麗になったな。ローブがなきゃ分かんなかったぞ」
と衛兵さんはおどけた調子で応える。
「で? その格好だと用事は無事に済んだ感じか?」
俺が見せた許可証を確認しながらそう問いかける衛兵さん。
「まぁ…無事に、とは言いづらいけどね」
と言って頭を掻く。
…髪の毛があるって実感するのがこんなに嬉しいことだとは…
「どんな用事だったか聞いても大丈夫か?」
衛兵さん、渡した許可証を俺に返しながらそう聞いてきた。
「あー……男爵になって家も貰った」
俺の答えを聞いた衛兵さん、目を見開いてのけ反った。
「マジか…って申し訳ございません!」
衛兵さん、急に謝ったかと思ったらその場に片膝ついてきた。
「なんで?」
と言ったがすぐに理解した。
そう、俺はもうお貴族様なんだわ。
そんなお貴族様にタメ口きいちゃったんで慌てて謝罪したってことか。
うーん、面倒くさい。
俺は片膝をついて固まっている衛兵さんに
「別に気にしてないし、さっきなったばかりだから今のはノーカンね」
と耳打ちし
「わりーね、落とした許可証を拾ってもらっちゃって!」
とちょっと大きめの声を上げた。
「す、すまん、いいや、申し訳ない」
「もう。面倒だから普通にタメ口でいいって。こっちも数時間前まで庶民だったんだから」
俺はそう言って衛兵に笑いかけ
「じゃ」
と言ってその場を離れた。
…うーん…面倒くさい。
これは宿屋の親父には貴族になった事は黙ってたほうがいいな。
というわけで、特にどこにも寄り道せずに宿屋に帰って参りました。
半日ほど離れていただけなのに、なんか懐かしい…
「ただいまー!」
と言って宿屋に入る。
……
あれ? 反応が…
よく見ると宿屋の受付っぽいカウンターのとこで店主が固まって俺を凝視してた。
あー、やっぱりね。
髪の毛とか髭とか綺麗になっちゃったからなぁ。
で、さっきの衛兵さんと一緒で、こいつ誰だってなってからローブを見たら見たことあるぞ…って感じかな?
俺はニコニコ顔でカウンターの店主に近付いて行った。
「汚いからってお風呂に入れてもらってついでに髪やら切ってもらったよ」
と言いながら俺はあからさまにローブを広げて見せる。
もうね、変わってない服装見せて説明的なセリフ入れないとわかんないでしょう? 俺って。
「お、おう、意外と早かったな」
と言って俺を迎え入れる宿屋の親父。
なんとか俺を認識して貰ったっぽいけど、なんかやっぱりぎこちない。
「いやぁ…いろいろあってさ」
と適当な返事をしてみる。
で、一応貴族街の貴族の家に行ってお話をして、汚いからお風呂に入れて貰ってとかの話をした。
やっぱりお城に行ったなんて言っても信じてもらえなさそうだし、あんまり詳しいこと言っても藪蛇になりそうだしね。
「お? そういやぁ確かにこざっぱりとしてんじゃねぇか。あー、お貴族様のお屋敷のお風呂ってのはやっぱすげーんかい?」
なんとか通常営業に戻った感じかな?
そういやこの宿屋に入った経緯、全然覚えてないわ。
感じとしてはリックくんの行きつけか知り合いって感じだったけど。
……
ま、そんなこと、今考えても答えは出ないし。
「スゲースゲー! お湯はいくら使っても減らないし。まさに湯水の如くって感じだったわ。タオルなんかもマジ柔らかいのなんのって!」
俺はさっき体験したばかりのことを自慢げに説明する。
「はー!? お湯が減らねぇ? 贅沢の極みじゃねぇかよ! 俺らが行く街の銭湯なんて夜に行ったらもうお湯が汚ねぇのなんのって! 今度銭湯の親父に、お湯が減らねぇ風呂にしろ!って文句言ってやるわ!」
いやいやいや。
親父さん、それ、めっちゃ高いって!
コストもすげーと思うわ!
「無理無理無理! 絶対買えないって!」
「あっはははー! 冗談だって! で? 今夜も泊まってくんだろ?」
「おう、今夜もお世話になります」
「わかった! 部屋は一緒だ、晩飯は…あと2時間後、くらいだな」
「了解」
俺はそう言って片手を上げながら2階へと行こうとしたのだが、宿屋の親父の視線を感じ立ち止まった。
「ん? 何?」
俺はそう言って親父の方へ向き直った。
「いやぁー、おまえさん、そんな顔してたんだなぁって思ってさ」
あー、そうね、来た時もお昼に出かける時も髪の髭もボーボーだったからね。
「どうだい親父、俺ってこっちじゃモテそうかい?」
「そうだなぁ…悪いってことはねーが…モテるかって言えば…うーん」
歯切れ悪過ぎ!
「もうそれってモテないって言ってのと一緒じゃん!」
俺は思わず心の声を漏らしてしまった。
「あっははは! ワリーワリー嘘はつけねぇ性格なんでな」
そう笑われた。
「はぁ…こっちでもモテないのかぁ…」
俺はそう言って俯く。
「い、いやいや! お前さんだって捨てたもんじゃねぇって! め、珍しい見た目が好きな女もいるって!」
「え? 俺って珍しいの?」
聞き捨てならない言葉を聞いた。
「そりゃその黒髪、こっちじゃマジ珍しいって! あ、そういやぁ20年前の勇者って『黒髪の暴れん坊』って呼ばれてたっけ…勇者っぽくすればモテッかもよ?」
20年前の勇者? あーグロゥスさんが言ってた奴のことか。
「勇者っぽくって何よ? 魔王でも倒せってか?」
「あははははは! 魔王なんて勇者以外倒せねぇって! それに魔王なんて向こう100年は出ないって!」
あれ? これって所謂〝フラグ〟ってヤツですか?
今度またあったら、見習いくんに聞いとかないとね。
「しょうがねーから地道に暮らすわ」
俺はそう言って階段を登った。




