王も王妃も子供には甘い。
【王 オットー・アレウス・マウザー7世】
「あら、ご機嫌ね」
オレはそう言われてから自分がにやけていたことに気づく。
「…あぁ…」
オレはそう曖昧な返事をし、顎髭をワシャワシャを揉み込んだ。
言われた後もオレのニヤつきは止まらない。
何せ20年近く続いた悩みのタネが消え去ろうとしているのだ、これでニヤけない奴はいない。
20年…身から出た錆とは言え…いや、拒絶するとは…
いや、それももう終わる。
この長年続いた悩みも消え去るのだ。
あいつが…あいつが悪いんだ!
オレの方が偉いんだ!
次期王であったオレに何故逆らう?
素直にオレの言うことに従ってればいいだろう!
「…悪い顔になってるわよ?」
…おっと。
どうもオレは心で思っていることが顔に出やすい。
父親である先王にも事あるごとに指摘されてきた。
わかっている!!
わかっちゃいるが出ちまうんだからしょうがねぇだろうが!!
オレは王だ!
王が何を考えているのか、顔でわかるなんて便利でいーじゃねぇか!!
怖い顔の時はオレに近づかなきゃいいし、ニコニコしてたらグイグイ来ればいい!
いちいち文句を言うなっての!!
オレはスッと立ち上がり、扉へと歩を進める。
「お出掛け?」
と問うマリーネ。
「いつものとこだ」
そう言って扉を開いたオレの背中に彼女のため息が聞こえた。
【王妃 マリーネ・ティレッヒ】
執務室を訪れると、やけにご機嫌な夫がいたの。
なのでつい
「あら、ご機嫌ね」
と言うつもりのなかったセリフが口からこぼれ出てしまったわ。
だってここ数年、カイルを次期王に指名してからまるでいいことがなかったの。
指名が発表された途端、王都の市民や貴族からはカイルの日頃の悪行についての嘆願書が毎日のように届くようになり、それをチャンスと捉えた次男のルドルフがまことしやかに「カイルは王に相応しくない!」と糾弾したりと何やらきな臭い雰囲気が国全体を覆い始めたの。
それでもカイルの横暴は止まるどころか悪くなる一方だったわ。
市民の居酒屋で無銭飲食をし、帰り際には店で働く娘を拐かし、犯して捨てる。
王都にあるいわゆる貧民街では〝新しい剣の試し斬り〟と称して老若男女分け隔てなく腕や足、首や胴を斬り、遊びのように振る舞っていたわ。
さらに衛兵の手伝いをすると言いながら、人相が悪いといきなり無礼打ちにしたりとやりたい放題だったわね。
私や夫が注意して、その時はもうやらないと言っても数時間後には街で騒ぎを起こしていたわ。
おかげで次男や三男を〝次期王に!〟と言う貴族たちが出てきてしまった。
流石のオットーも頭を抱えていたわね。
そんな数年後、ルドルフが殺された。
公式発表では〝不幸な事故死〟となっているけど、カイルか夫が密かに指示を出し暗殺したに違いないわね。
さらに次男が死んだため三男のワルターを担ぎ出す貴族が増え、一つの派閥ができてしまったわ。
そんな半年前にワルターが突如行方不明となったわ。
これも夫の指示かと思ったんだけどなんか違ったみたい。
ワルターのことを聞くと苦虫を噛み潰したような顔をして
「知らん」
とだけ言うの。
これは本当に知らない時の夫の態度。
一体何が起きているのかしら。
なんて思っていた矢先、急に王都で大きな盗賊団への討伐が行われたわ。
指揮したのはあの近衛兵団の団長、夫の弟。
これは絶対に失敗すると笑っていたら、何故かそこにワルターが居合わせていたのよね。
あ、なんか顔色が変わったわ。
「…悪い顔になってるわよ?」
あら、また言ってしまったわ。
…あ、そういえば盗賊団の討伐は失敗したけどそん時のゴタゴタで特筆すべき人材が見つかったと報告があったわね。
確か…白魔道士だったとか。
白や黒は滅多にいないわ。
かくゆう私のお師匠様でさえ黒魔法の中級しか施行できないとボヤいていたっけ。
白魔法…それも教会に属していない人材…確かに貴重だわ。
「お出掛け?」
考えに夢中になってたらオットーがスッと立ち上がって歩き出した。
「いつものとこだ」
…ふぅーん、また後宮に上がるのね。
ま、街で暴れるよりはマシね。
さて、今日は何をして過ごそうかしら。




