王様はオッサンでした。当たり前か。
デカい!
そして超豪華!!
重厚でデカい木製の扉の前まで来て、俺はちょっとビビっている。
「王様と会う」
言葉にすれば簡単な一言だが、改めて考え、想像してみると…恐ろしい。
この国の最高権力者だ。
会社の社長とか、その辺の市長とかとは違う。
そう、〝格〟が違うのだ。
専制君主製の国の国主だ。
逆らったり嫌われたりしただけで殺されても文句ひとつ言えない。
何せ、絶対最高権力なのだから…
なんかそう考え始めたら帰りたくなってきたわ。
目の前の重厚な扉の両脇にいる完全武装の方に、宰相は何やら言っている。
そして何を言われたのか、完全武装のお兄さん?がチラリと俺を一瞥し扉の取っ手に手をかけた。
そして、ゆっくりと扉を開き動きを止めた。
宰相、王子、俺の順番で扉の中へと進もうとした瞬間、宰相が振り返り
「申し訳ございません、王の命により王子はここまでとなります」
と言い放った。
この言葉を聞いた王子はあからさまに嫌な顔をし
「どういうことだい?」
と低い音程で宰相に問いただした。
しかし宰相は王子には答えず、俺をチラリと振り返ると
「着いて参れ」
と言って扉の中へと歩き始めた。
俺はチラリと王子に目配せをした、が、王子は目を合わさずに右手を俺の肩にあて、クイッと前へと押し出した。
…え? こっからは俺、ひとりですか?
不安な眼差しを王子に向けるが、王子は複雑な表情を俺に向けるだけだった。
やっぱりひとりですか。
ビビりすぎて息をするのも忘れてしまいそうになったが、なんとか深呼吸をしながら前へと進む。
扉の中は部屋だと思いきや、広い廊下だった。
ここもただの廊下ではなく、やはり贅を尽くした造りの壁や天井に囲まれた超豪華な空間だった。
窓ひとつない造りだがかなり明るい。
天井のシャンデリアや壁の灯り、いや、壁や天井自体も光っているような感じだ。
なんて思っている自分を省みると〝あれ? 意外と落ち着いてる? 俺〟と勘違いしそうだ。
実際は、深呼吸してるつもりが小刻みな呼吸になってるし異様に肩が痛い。
さっき王子に押されたせいかなんか痛い。
なんて思っていたらまたでっかい扉に辿り着いた。
「この先に王がおられる。粗相のないように」
と振り向きもせず宰相さんが言う。
「ぐ、具体的にはどうすればよろしいでしょうか」
うわ、言った途端に自分の口がえらい乾いていることに気づいたわ。
「……」
あれ? 答えが返ってこない…
「王が話しかけるまではずっと床を見ていれば良い」
「ありがとうございます」
そうね、俯いていれば無礼ってことはないよね?
いや待て! 俯いていたら無礼ってことは……ないか。
宰相は扉の取っ手に手をかけてゆっくりと押し開いた。
すると、扉は音もなく開きその向こうの景色が露わになった。
……
扉の向こうは意外と狭い普通の部屋でした。
「来たか」
扉が開いてすぐ男性の声が俺の耳に流れ込んでくる。
多分、これが王様の声であろう。
俺は扉を潜る前から床を見ながら宰相の後に続いた。
「男爵をお連れいたしました」
宰相がそう言うと
「ん」
とだけ返事があり
「お前はもう帰っていいぞ」
と言った。
……え? 俺、帰っていいの?
「では失礼致します」
宰相はそう言って音もなく今来た道を戻っていった。
……そりゃそうだわ、呼び出しておいて帰っていいなんて言うわけないわな。
てことは…本当に俺、一人になっちゃったわけね。
「で? お前、なにもんだ?」
おっとぉ! いきなりキツい質問キターーーー!!
「いや悪ぃ、質問を変えるわ、なんで教会の地下にいたんだ?」
完っ全に身バレしてますがなっ!
そりゃそうだ! 得体の知れない輩を王様の前に通すわけはないって!
「あー、そこまでバレてますか…」
一応、軽くジャブで返しておかないとね。
「ふふん。ウチの諜報部門はかなり優秀だからな」
お? ちょっと嬉しそう。
「ていうか、話づれぇから顔、上げろ」
言われた通り顔を上げると、目の前にはソファに腰掛けた中年の親父がいた。
特にガタイがいいわけでもなく顔もイケメンってこともなく、髭面のちょっと我が強そうなオッサンが座っていた。
「えー…教会の掟を破りまして…」
と代理神様と打ち合わせたとおりの投獄理由を話した。
「お前、幾つだ? やけに若く見えるが?」
おっと、容姿についての質問キタァーー!
「多分…30歳くらいかと思います」
「思います?」
王様の顔が疑り深く歪む。
「すみません、何せ何年か投獄されておりましたので…正確な時間経過がわからないのです」
なんだ? 尋問か?
「ちなみに今年は魔王が討伐されてから何年経ちましたか?」
そう、この世界は西暦なんてものはない。
教会の信じる神が産まれてから何年とか、国が出来てから何年とか、国や地域、団体によって年の数え方が異なるのだ。
見習い神様は
『ちなみにこの世界が生まれてからは大体1億年とかだったかな?』
とか曖昧なことを言っていた。
なので〝魔王が討伐されてから何年?〟と言うのが一番わかりやすい基準になるのだ。
「今年でちょうど20年だ」
王様は半笑いで答える。
「では30歳ですね。投獄されたのが討伐から10年後でしたから」
俺がそう言うと
「10年もいたのか? あの地下牢に!」
と大声を出し驚いたようだ。
王様、あの地下牢のこと、知ってんだ。どういう情報網を持ってんだろ。ちょっと気になるわ。
「まぁ幸い治癒魔法が使えたんで病気や怪我はなんとか出来ましたし空腹には慣れていましたので」
とこれも打ち合わせ通りの答えを言う。
「ふーん…」
王様、いやーな顔で俺の言葉を聞いているが、そういう境遇は想像も出来ないんだろうな。何せ王様だし。
「で? どんな掟を破ったんだ?」
「単純です、無料で平民を治療したのです」
俺がそういうと
「けっ! 相変わらずだな! 教会の奴らはずーっと前からこの調子だ!」
おーっと、この王様、結構話が合うかも…いや、絶対無理でしょう、何せ王様だし。
「全く…」
そう言って王様はピタリと俺を見つめニヤリと笑った。
「これからは教会の奴らを無視してお前に治療とかやってもらうが」
と言ってから、ちょっと間をあけ
「報酬の前払いという事で屋敷をひとつお前にやる」
「え?」
屋敷? 貴族様のお屋敷をいただけるんですか?
これは…罠ですね? 俺を第一王子派に懐柔するための餌ですね? その手には乗りませんよ。
「ちなみに断ることは出来んぞ。何せ王命だからな」
王様、そう言ってまたニヤリを笑う。
「それと治癒魔法師のことは公式には〝いない〟ことにする。わざわざ教会に手の内を見せるのもなんだしな」
「では私はどのように振る舞えばよろしいでしょうか」
「まぁ普段は何をしてもかまわん、治癒以外はな。ただし我々からの要請があれば治癒をする、という感じだな」
えーっと、それって闇医者みたいな感じでしょうか?
BラックJックですか?
「ま、あとはワルターの助けでもなんでもすればいい。但し、カイルの邪魔はするなよ、次期王はカイルで決まってるんでな」
「はい」
わかってます。
王位継承権の順位を守るのは当たり前のことですから。
……
でも、そいつがボンクラだった場合は……
王様が、ちょいっと指で後の扉をさしたんで俺は
「失礼致します」
と言って深々とお辞儀をしそのままの体制で扉まで下がった。
確か、王に背を向けるのは無礼だったとかいうのを向こうの世界の書物で読んだような記憶があったんでこんなことをしてみた。
そして後ろ手で取っ手を掴み…押すんだっけ? 引くんだ、引いて扉を開けその隙間にお尻から進み、もう一度お辞儀をして扉を閉めた。
「…はぁ」
思わずため息が漏れる。
「これが屋敷の鍵だ」
宰相! いたんですか? 気配、しませんでしたけど?
「あ、ありがとうございます」
俺があからさまに驚いた顔をして答えると、宰相は表情を緩め
「王様の言葉、忘れぬように」
と釘を刺してきた。
何? 話の内容、知ってるんですか? あ、そりゃ知ってますよね、宰相様ですし。
「肝に銘じます」
俺はそう言って受け取った鍵をギュッと握った。




