床屋さんなんて、何年振り?
タオル一枚だけの格好で、椅子に座らされて髪の毛やら髭やらをいじられていく。
ドサドサと音が出るくらいの量の毛が足元に落ちていく。
「ところで髪型の希望とかあるんか?」
唐突にそう聞いてくるリックくん。
…そういうのって最初に聞かない?
「うーん…出来れば長いままがいいんだけど…」
と曖昧な返しをしてみる。
リックくん、それっぽく顎に手を当て考えてるっぽい。
「そうだな。長髪の方が魔導師っぽいよな」
…そうなんですか?
すみません、こちらの〝っぽい〟の基準がわかりません。
「この国の魔導師の格好は知らないけど、リックくんがそういうんならそうしようかね」
「おう! そっちの方が絶対いいぜ!」
…なぜそんなに自信満々なのか疑問ですけど、こちらとも意見が合致してるんでそうしましょう。
そんな会話を聞いてか、肩よりだいぶ下の方で髪の毛が切り揃えられた…ようだ。
二人の女性は櫛やブラシで髪や鬚を整え、さらに香油?っぽいのを馴染ませるように揉み込んでいく。
…なんかいい匂いがする…
ほんのりと香る程度のものなので、いい感じです。
さすがは王室御用達の香油? 派手さのない上品な香りです。
で、最後に足元に溜まった毛を塵取りのような箱状のものに掻き集め、二人同時にお辞儀をして彼女たちは出ていった。
俺は頭を左右に振り、首をゴキゴキと鳴らす。
あ、昔の癖が出ちゃったよ。
しかも、この体でもちゃんと首が鳴ったわ。
なんか不思議。
で、椅子から立ち上がり洗面台に向かう。
…顔、前と全っ然違うわ。
ガリッガリに痩せてるのはしょうがないけど、顔はちょっと面長で鼻も高い。
なんていうか…多少、シュッとしてる?
ホリも深いし何より瞳が青いよ!
ちょっと暗めの青だけど、これだけでもう俺は俺じゃなくなったんだと実感する。
以前はでっぷり太った丸顔のハゲで、首も短く見えてたし何より瞳は焦茶色だった。
髭は変わらず生えてるけど、髪の毛が……たくさんあるっ!!!
あぁ、もうこれだけで〝転生、最高っ!!〟って思えますっ!
「なーにニヤニヤしてんだよ」
なんて思ってたら、横からリックくんの茶々が入りました。
だって、ねぇ、嬉しいんだもん!
「いやぁー…改めて、あそこから出られてよかったなぁって実感してたんだよ」
リックくんもニヤニヤしてますよ?
「まぁ、最初に会った時は胡散臭さ爆裂してたけどな」
そりゃそうだ!
「ま、おかげで俺は生き延びたんだけどな」
そう言ってアハハと笑い、俺の肩をバンバンと叩く。
…痛いっす。
「痛いって。それよりこれからどうすんの?」
「あ、そうそう王子からこれを預かってきたんだっけ」
ハッとした感じでそう言うと、リックくん、後ろの方に置いてあった籠を抱えて持ってくる。
で、籠を洗面台の上に置くと上にかかっていた布を取り、中身を見せる。
中を確認すると、なんと下着とシャツと……ちょっと良いものっぽい服が入っていました。
「これを着て謁見場に行ってくれってさ」
まっさらの下着…なんか嬉しい。
でも…この服、いわゆるお貴族様たちが着る服ですよね?
パンツはいてシャツ着て、籠からその貴族服を取り出して広げてみる。
……超ダサい……
煌びやかな金糸やら銀糸やらで縫い飾られ、赤やら青やら派手な原色の生地を纏い、肩はもっこりと提灯のようだし下は半ズボンで白タイツ……
ダサいを通り越して怖いです。
この髭面の長髪オヤジがこんなキラキラした服着ちゃったらもうコントですって!!!
…あ、まぁ、ここではこれが普通なんでしょうけど…生理的に受け入れられないっ!!
「…無理…」
俺はそう呟いて広げた服をキレイに畳んで籠にもどした。
「お、おいっ! 戻すなよっ! これ着てけって! 王子の心遣いなんだから!」
「いやいやいや! 心、使うとこ、間違ってるって!」
そう言って俺は脱ぎ散らかしてある元のズボンを広げてバッサバッサと振るう。
特に埃が舞うでもなく、キレイなんでそれを穿く。
で、上着っぽいグレーの服を身に纏いその上にこれまたグレーっぽいローブを羽織る。
「これでいいじゃん」
俺はリックくんの方に振り向いて、ニッコリ笑ってそう言った。
「…やっぱりそうなるよな」
リックくんが口の端を歪めてそう呟いた。
「とりあえずさっきの部屋に戻るか」
そう続けてリックくんが呟き、さっさと扉の方へと歩き出した。
俺はちょっと考えてから籠を抱えて彼の後を追った。




