泥棒から泥棒したらいけないの…かな?
「私は第三王子、ワルター・フォン・ドライスだ」
おぉっと! 王子様かよ!?
なんでこんなところに……
第三王子といやぁ確か王様とソリがあわねぇとかで蟄居とか何とか言われてるはずじゃ……
……
ははぁん、王子様が逃げ出してここに来たってことかい? こりゃおもしれぇ!
ん? となると、近衛兵団どもの狙いはどっちだ? 俺か? 王子様か? それとも両方?
……いやいや、あの欲深い公爵様が蟄居中の王子捕縛にこんな人数割くわきゃねぇ!
やっぱ狙いは俺だろうな。
……てことはだ、ここでこの王子様と組んで上手いことこの場を乗り切れれば……
「これはこれは王子様。私はニコラウス・ゴルドバインと申す、しがない盗賊の頭領です」
なにやら王子と盗賊の親分の話し合いが始まったようだ。
丁度いい。
今のうちに……おや? なんですか? あの怪しげで豪華な箱は……
俺は廊下に放置されている結構な作りの長い箱を見つけ、近づいてみた。
……
なにやら濃厚な魔素を感じる……
これは……禍々しいと言うのとは真逆の清々しい感じ?
心地いい魔素を感じる。
「メアさん、これは王子の荷物です?」
「知らない。それより他の人も治して」
メアさんの言葉はそっけないがちゃんと答えてくれるのでありがたい。
「とりあえず拾っときます」
俺はそう言って箱を鞄に仕舞い込み……ギリギリ入ったよ。
さて、他の人の治療ですね。
俺はその辺に転がってる人たちに近づき適当に治癒魔法を行使して回った。
ん? あれ? なにか忘れているような……
あっ!!! 空間を司る精霊の人が全然しゃべらないっ!!!
どうした?
『おーーーーーーい』
心の中で呼びかけてみたが全く反応がない。
……
きっと久しぶりに喋りすぎた反動で疲れて寝ているんだろう…と思うことにした。
だってねぇ、「無限空間」の機能はちゃんと生きてるしね。
起きてりゃとにかくうるさいじゃないですか、あいつ。
でもさっきまであれだけ喋ってたのにねぇ、グロウスさん登場あたりから黙っちゃって……
やっぱ、古龍様とはなにか因縁でもあるのかねぇ。
…
ま、起きればまた喋り倒すだろうから、今はそっとしといてやろう。
さて、と……
俺は他にも何かないかと、辺りを見回す。
隠し扉っぽいのがあったところから向こうは俺の石の壁で完全に塞がっている。
逆を見れば…あぁ、こっちは俺が入ってきた方か。
……
多分、あの泥棒どもはここを通過して俺が来た方に抜けていこうという感じか?
で……この先の部屋に行くつもりだったんだろうか。
……
てことはだ。
この先に奴らが使ってる抜け道とかがありそうだな。
なんて考えてると俺の作った石の壁にドーン、ドーンとなにやらぶつかるでかい音が。
あれ? ちょっとづつヒビが入り始めたぞ。
「やべっ! そろそろ壁が限界かも」
「王子!」
メアさんが俺の声を聞いて王子に進言した。
と同時に廊下の窓がガシャンと大きな音を立て塞いていた板ごと吹っ飛んだ。
「ヴァント」
俺は慌てて廊下にある窓全部を塞ぐように、石の壁を作った。
これでまた当分は持つだろう。
しかし……どういう原理でなにもないとこから石の壁ができるんだか……
魔法って……
おっと、ドンドンやられてる壁が揺れてやがる。
「フェルスヴァント」
意地悪で壁をもう一つ作ってやった。
これで最初の壁を壊してもまたすぐ壁があるって感じ。
いやこれなんの罰ゲームだよって思ってくれたら嬉しいね。
「こちらです。王子様」
いつの間に仲間になったのか……いやいや、俺も人のことは言えんか。
盗賊団の団長さんが王子様ご一行の先頭を切って廊下を進む。
ぞろぞろと60人ほどの集団がその後に続く。
そんな集団の最後尾を俺はいそいそと着いてゆく。
……
あれ? こんなにいたんだ。
なんか庭でもみ合ってる場面を見た限りじゃ、15人くらいで狭い敷地を生かして防御に徹してたように見えたけど。
王子が篭っていた部屋に行ったらかなりの数の怪我人がいたっけ。
それにしたって……
あ、もしかして、盗賊団も混じってる?
あ、白目むいてた世紀末くんもいる。
しかも血みどろの魔法使いを担いでるし……
仲間思いなんだねぇ……盗賊だけど。
進んでいくと、そこには他のドアとは違う、両開きのドアがあった。
「こちらです」
そう言って盗賊の団長がドアの鍵を開け、手下らしい男たちがノブを引いた。
バーン……
って効果音を脳内で出してみたが、そこは何の事は無い、ただの倉庫だった。
中にはたくさんの……金貨? 銀貨? 宝石箱? うっわぁあ……お宝の山じゃん!
ほかにも豪華な剣や槍、鎧や宝箱が所狭しと並んでいた。
他の人たちも部屋の様子をため息まじりに確認しているようだ。
しかし、盗賊団のやつらはそんなものには目もくれず、部屋の奥の方へを進んでいった。
「これ、貰っちゃってもいいかな?」
俺はいつの間にか横に来ていたリック君にそれとなく聞いてみた。
聞いたところで彼にこのお宝の所有権はないんだけどさ。
そんな俺の言葉を聞いてか
「あんたがいなかったら、俺は多分死んでたんだろうな……」
とだけ呟いた。
……俺もそう思うわ。
かといって、そうだねぇ、とも言えない。
「それに、メアや他のやつらも治してた……」
そうね、まぁ、袖すり合うも他生の縁っていうじゃない。
ここにいる人たちは一応、俺の命の恩人であるリック君やメアさんや王子様の仲間だしね。
「あれだけのすごい白魔法だし、報酬として持って帰ってもいいんじゃねぇの」
じゃあ、貰っちゃおうっと。
俺は部屋の奥の方で何やら長々と話し合ってる王子の取り巻きや盗賊団を無視して、手当たり次第に鞄に吸い込んでいった。
そう、このバッグ、口を広げて入れたいものの前に持って行き、心の中で『入れ』と唱えるだけで、目の前のものを全て吸い込んでくれるのだ。
……って嘘嘘。
そんな便利な機能、ないって言ってたでしょ。
なにやらお話し合いが続いているうちにって感じで、俺は精力的に片っ端から手当たり次第にそこにあるものをバンバン鞄に詰め込んでいった。
するとリック君がお宝集めを手伝い始めた。
腕力に物を言わせて宝箱ごと抱えてくると、ジャラジャラと中身の金貨銀貨を鞄の口に流し込んでくれる。
「おっと、悪いね」
なんて言ってたら他の人たちも宝箱やら長い槍やら剣やらを持って来た。
「さっきはありがとな」
「あんた、神官どもよりスゲー白魔法使うじゃん」
「古傷まで治してくれて助かったわ」
皆口々に感謝の言葉を掛けてくれる。
うーん、前世ではこんなに大勢の人に感謝された経験ないからこそばゆいわ。
そんなこんなで作業は進む。
残念ながら鞄の口より大きい大盾とか大剣などは放置ですね。
「……では、私らが先に参ります」
そう言って盗賊団の二人ほどが、床に設けてあった扉を開き下へと降りていった。
「では、我々も」
続いて王子の部下っぽい人たち5、6人も床下へと消えていった。
しばらくすると
「問題ありません。王子もどうぞ」
と、扉から声がして王子たちに下の安全を告げた。
「よし。行くか」
王子の号令のもと、次々と床の扉に吸い込まれていく。
そんな様子を横目に俺はお宝をブチ込んでいく。
「変態魔導……師」
俺を呼ぼうと振り返ったメアさんが絶句した。
だって、ついさっきまでお宝で埋まっていた部屋がほぼ空っぽになってたから。
「盗賊のお宝を盗む変態魔導師……」
「お褒めに預かり光栄至極」
「褒めてない」
メアさん、そう言ってニヤリを笑う。
「後でみんなで山分けにしましょう」
そう言って俺もニヤリを笑って応える。
背後からは、依然として石壁を叩く喧しい音が鳴り響いていた。
とりあえず「第1部」の終了です。




