自分、前世は医者ではなかったはずなのにね。
「ネアさんでしたっけ? 傷の治療をしますよ?」
「メア。変態魔術師、触らないで」
……
なんと強情な。
「はいはい。触らないでやりますよ」
傷口に手をかざし魔法を行使する。
「王子は救出した。もう使命は果たした」
うーん……達観してるなぁ……
変態に触られるのが嫌なんだろうけど……そこは…ねぇ。
それにしても傷だらけじゃん!
限界間近なのかハアハア肩で息してるし…
あれ?
なんか治癒が進まない。
やっぱり嫌がってる相手だと効きが悪いのかなー?
でもねぇ……それじゃ困るのよ、助けてもらった俺としては。
なんとか生きたいって気持ちを高ぶらせないと…
「まだ終わってないよ? ここから脱出しないと」
「……」
黙ってしまった。
んなこと言ってる最中も血がゆっくりと失われているようだ。
うーん……まだうまく行使されない。
……
やっぱり本人が『生きたい』と思わないと細胞が活性化しないのかね?
なんとかしないと。
あぁもうヤケクソだ! ダメ元で煽ってみるか!
「まあ、メアさんが死んでもリック君が活躍すれば大丈夫か……」
俺は魔法を行使しつつポツリを呟いてみた。
すると、ピクリと反応が。
「バカリックは死んだはず」
いやいやいや……死んでませんよ。
目の前にいたでしょ?
さっきのドタバタ見てなかったの?
あぁ、そうか。
片目は傷でふさがり、もう片方は血が入っててよく見えないのね。
…それでよくあんな動きが出来るなぁ。
「腕が取れかけてて腹もザックリイカれてたけど治ったよ?」
メアの目が片方だけ、カッと見開かれた。
「……あれを治したの?」
真っ赤に血に染まった片目だけがキョロキョロとリック君を探す。
と、ヒョイっとリック君が左腕を彼女の目の前にかざし
「ほーれ」と言った。
ギョロリと俺を睨むメア。
「早く治して」
……なんて負けず嫌いな……
でも成功!
「じゃあ、気合を入れて『治れ』と思って」
俺がそう言うとメアは目を閉じ息を止めた。
……
おっ! 格段に傷の塞がるスピードが上がったよ。
うーん……凄いね、生き物って。
……
あっという間に傷が塞がったわ。
さて、と。
お次は…背中の矢を抜いて……
「リックくん、悪いけどメアさんの矢、抜いてくれるかい?」
俺はそう言ってから、彼女の背中側に回り、矢が刺さっているところに手を当てた。
で、傷口を投資してみると……うわっ 結構深いわ。
臓器に損傷は……うっ!!
太い血管がブチ切れてんじゃん!
やべぇよ!
ちょっと遅かったら出血多量で死んでるわ!
なんなのこの娘?
超人?
こんだけドクドク出てたら普通は倒れて動けないって!
「いいかぁー抜くぞー」
そう言って矢を掴むと、リックくんはゆっくりと矢を抜き始める。
「…うぅっ…」
痛いのだろう、小さなうめき声がメアさんの口から漏れ出てきた。
よしよし、血管から修復だ。
漏れ出た血液をまとめつつ、破れた血管を塞ぐ。
でもって周りの肉や神経などを復活させる。
うん。いい感じで進んでいってるっぽいね。
……
って俺、そんな医学知識ないはずなのに……
なんでわかんだ?
……やっぱ神様のくれたご加護?
ならそれを活用するっきゃないでしょ!
……さらに他の場所も……っと。
慎重に血管を修復して……流れ出た血を集めて……元に戻しつつ血管の破れを塞ぐ……と。
……
よし、塞がった。
……
目の周りやら顔の部分は女の子だからね、慎重に…
……
こんなもんか?
顔色もいい感じだわ。
「終わったよ。どう?」
メアの両目がパッと開き、上半身だけガバッと起き上がる。
「痛くない」
そう呟いたメアは半身を捻って膝をつきシュタッと立ち上がる。
おぉ……完全復活!
でも痛くないってのはないと思う。
傷は塞いだけど痛覚は残ってるはず。
…たぶん…?
「完璧」
メアはそう言って薄く笑った。
なにこの美少女!
カッコイイ……
とはいえ疲れたわ……
見上げると大勢の取り巻きに囲まれた王子が俺を見ていた。
「どうも、王子。さっきぶりです」
俺はしゃがみ込んだままそう言って、片手を上げてニッコリと笑顔を作る。
「……ん? あぁ……」
どうも心ここに在らずだね。
そりゃそうか、あんだけの大魔法を見ちゃったら……ねぇ……
「ん? グロウス様は?」
よかった。
王子様自ら話を変えてくれた。
「グロウスさんは森に帰りました」
「そうか……残念だが仕方ない。で、こいつは誰だい?」
そう言って王子は俺の足元に寝転がされている男を指差した。
「……さあ? メアさんがフン捕まえたやつですが……あんた誰?」
俺にそう問われた男は俺を睨み上げてきた。
「フン! 聞いて驚け。俺様はかの有名なゴルドバイン盗賊団の団長だ!」
はい。バカ決定。
なんでわざわざ「自分は泥棒です」って言っちゃうかね?
そういえばみんな怯むとでも思って……
あれ? なんかザワザワしてるし……
なんかすげー有名人なの? こいつ。
「オメーら一体どこのどいつだ!? 俺の家に勝手に入り込みやがって!」
お前のウチじゃねぇだろって突っ込んでもいいですか?
それにしても…誰ですか? ゴルドバインさんって?
「あれ? みなさん、ご存知?」
ざわついてるんで聞いてみた。
「超有名で超極悪人」
メアさん、すげー顔で睨んでるよ。
他の人たちは……なにやら言ってるけど概ね引き気味っぽいかも。
あ、誰だか知らないけど取り巻きの一人が王子に耳打ちしてる……
「王子、こいつ俺の家とか言ってます。もしかしたら抜け道があるのかも…」
おっ、それはあるかも。




