ますます混沌として来ました!
俺はあわてて目の前の建物の扉を探した。
すると奥の方に勝手口のような扉を発見!
急いで中に入った。
が、途端に汗と血の匂いにむせ返る。
入った扉の先には廊下があり、そこにはたくさんの怪我人が転がっていた。
みな立派な鎧を身につけていたり、俺のようなローブ姿の人もいるが、怪我が酷いせいかその場に留まり荒く息をしているだけだ。
俺は一般的な日本人のように右手を小さく前習え状態にして腰をかがめ申し訳なさそうにちょこちょこと向こうに見える人垣の方へと進んでいった。
と突然、俺に気づいた3人ほどの男女が振り返り、武器を構えて立ち塞がった。
「待て! 貴様、何者だ!」
あぁ、やっぱり。
当然のように呼び止められました。
「あー……と、俺は通りすがりのおっさんです」
「大丈夫だ……こいつは……仲間だ……」
俺が鉄板の返しをした途端、3人の後ろから聞いたことのある声がしてきた。
そっと覗いて見てみると……リック君だった。
でも、さっきとは全然違うリック君になっていた。
脇腹には大きな切り傷があり、そこからジワジワと赤い液体が滲み出ていた。
さらに顔にも数箇所キズがあり、なかでも左目の上の傷は深く完全に眼球にまで達しているようだ。
しかも左手は肘の先でズタボロに断ち切られており、応急処置かな? 止血かな? 紐でギュウギュウに締め付けている最中だった。
「大丈夫……じゃなさそうだね」
俺は自然に軽口を叩きながら彼の横に座り込む。
「あぁ……マズったわ……転移したらそこはもう戦場になっててよ。あわてて剣を抜いたわいいが、一人殺ってるうちに横から刺されちまってよ……で、返す刀でと振りかぶると3人くらいに同時に斬りかかられちまって……そこからはもう覚えてねぇわ……気づいたらここで座り込んでたってわけさ」
あれ? そういえばグランのおっさんとかいう治癒魔法の人がいるんじゃなかったけ?
「あれ? グランって人は?」
「あ? あぁ……おっさんには俺の処置より他のを優先しろって言ってある。あんたも俺なんかほっといて他のやつを直してやってくれ」
お、なかなかの男気ですな。
……けど、それで君自身が死んじゃったらダメでしょ。
「わかったわかった。他の人は知らんからまずはお前だ。これじゃあと数分で死んじまうぞ!?」
リック君。俺の話を聞いて目を見開いてる!
でも、左目の方が痛かったのか痛みと驚きの混ざった変な顔になっちゃってるぞ。
とりあえず彼の脇腹に右手を添え、キズの具合をスキャンしてみた。
……内臓までいっちゃってんな……これは……腎臓か? かなり出血してるわ。まずはこいつの修復だな……
「リック君。自分自身に元に戻れって念じて」
リック君自身の生きる欲望を利用して……回復効果をあげよう。
で、細胞分裂を促進させて……隣同士の細胞の記憶を元に新しい細胞を生み出させて……そうそう……
うん……うまくいった……次は……血管……筋肉……あ、腸も結構キズ付いてんな……幸い変な菌に侵されてる感じじゃないな……
流れ出た血は……吸い取っちゃって……あとで使おうっと……で……皮膚を繋げて……よし! 脇腹は完了!
「……マジか……」
ふぅ……結構疲れるわ。
「一応、俺の命の恩人だからね。ここで死なれるのは目覚めが悪いって」
俺は驚愕するリック君を無視して……ってなんか廊下が騒がしくなってきたんですけど!
チッ!
なにやら混沌としてやがるぜ!
俺のスポンサー様(過去形)の近衛兵団と、なにやら他の武装集団が戦っていやがる!
ま、そのおかげでこっちは隠し扉を使って、楽々建物の中に逃げ込めたってわけだ……が…
って何だこいつらは?
どうみても手練れだぞ?
なんでこんなところに傭兵がこんなにいるんだ?
俺様の隠れ家だってのによぉ!
廊下は怪我をした傭兵やらでごった返してやがる!
そんな中にいきなり隠し扉から登場したらあっという間に取り囲まれるって!!!
くっそぉ……一体どうなってやだんだぁ?
おっと、タオのやつも追いついてきちまったようだぜ。
「……ニコ……いつ、こんな大勢から歓迎されることをしたんだ?」
「んなわけあるか! 俺だって知らねぇよ!」
あっという間に乱戦状態だ!
こういう時はシュライバーがいて良かったと思うわ。マジで。
「ウォウリャアァァァ!!!」
予備動作なしで大斧を横に振って囲みを突破しようと奮戦していやがる!
おっと、あの野郎! 離すなって言ってたお宝をもう手放してやがる。
「おい」
後ろの手下にそう声をかけお宝に向かって顎をしゃくる。
「へい」
声をかけられた奴らは一言返事してすばやくお宝を4人で持ち上げた。
「ついてこい! お宝は絶対に離すなよ!」
「「「「へい」」」」
威勢のいい返事を受け俺は腰の剣をスラリと抜き払った。
そしてシュライバーが切り開いた突破口目指して突撃する。
なんとか徐々にではあるが前進しているので、進みながら俺はタオと言い合う。
「ここまで追い詰められたのは久しぶりだわ!」
「確かにな! あんときゃ森の中で散り散りになってなんとか逃げられたがな!」
「今日は逃げ場がこの先の部屋って決まってやがるから厄介だな!」
そう言って俺とタオはお互いニヤリを笑い合う。
見ればここにいるやつのほとんどが怪我人っぽい。
おかげでなんとかなっているようだが、それもそうそう続かねぇだろうな。
「後ろからは元スポンサー様の近衛兵団。前は見知らぬ私兵と傭兵だ。どっちがやりやすい?」
俺は剣を振るいながらタオに聞いてみた。
結局は前に行くしかねぇんだけどよ。
ダメだった場合は弱い方に攻め込んでなんとしてでも逃げ延びねぇとよ。
「どっちかって言やぁ、目の前の傭兵だろうな」
「なんでだ?」
「奴らは雇われてここにいるんだ。変に抵抗して死んじまったら元も子もねぇって考えてるはずだ」
さすがは元傭兵。
そういう考えは俺にはねぇ。
「おめぇがそういうなら前進だ!」
俺の言葉を聞いたタオは、ニヤリと笑い
「じゃ、ぶっ殺すつもりで魔法をぶっ放すぞ!」
「おう!」
お、タオのやろう。大きく出やがったな。
「死ねやぁぁ!!!」
そんなタオとの会話とは関係なく先頭のシュライバーがでっかい斧を振り回して道を作っていた。
ガキンッ!!!
なんだ?
いきなりデッケェ金属音がして、シュライバーの斧が止められた?
うっっわっ!!!
やっとこ脇腹の治療が終わって、あとは頭と腕の治療をと思った途端、デッカイ斧が振り下ろされてきやがった。
ガキンッ!!!
甲高い金属音と共に振り下ろされた巨大な斧が俺の数センチ手前で跳ね返された。
な? なんの魔法?
俺、なんにもしてないよ……
あれ?……なにこれ? 振り返った目の前に石の壁がある。
さっきは何もなかったよね?
これってもしかして……魔法?
……あっ! さっきグロウスさんに貰った土魔法のひとつだ。
なになに、なにか頭の中に浮かんできたぞ。
それによると……土魔法のひとつで術者を守るために常時発動している障壁魔法だそうな。
……いやぁん、グロウスさん、ありがとう!
「な、なんだてめぇは!!!!」
おっと、ホンワカしてる場合じゃない。
斧を止められたバカが吠えてやがる。
……って
なんですか? この人は。
世紀末の戦闘員ですか?
真っ赤なモヒカンにぶっとい腕。
鼻ピアスに耳ピアス。
唇にも舌にも……ピアス。
邪魔じゃねぇの?
身の丈は2メートル以上ありそうだわ。
革のベストを身に纏い、全身何が言いたいのか判らない模様の刺青だらけ。
そして、アホみたいに分厚い胸にいくつかに割れた腹。
毛皮の腰蓑、革のパンツ。
革の編み上げブーツには金属のトゲトゲ。
あ、革の手袋にもトゲトゲが。
うーん……実は世界は核戦争で一回滅びたんじゃ……
ではないか……
現に魔法が使えるしね。
「ファイアランスッ!」
「ヴァント」
世紀末兵士の後ろから誰かが攻撃魔法を行使した。
すかさずグロウスさんから教わった土魔法で壁を作って防いでみる。
……
おぉーうまくいったみたい。
「アチチチッ!」
おっと。世紀末兵士におこぼれが飛び散ったようだ。
「こなくそっ!」
ドカッ!
おぅ、斧の一振りで俺の壁が砕け散ったわ。
すげーすげー。
パチパチパチ……
あっ……思わず拍手しちゃったよ。
「てめぇえ! ふざけてんのかぁ!」
怒らせちゃったみたい。
「死ねぇえぇええ!」
世紀末君がもう一度振りかぶって……
「シュタイン」
ポンッ!
コブシ大の石が高速で世紀末君の顎にヒットする。
「ガッ」
よしっ!
白目をむいて気絶した。
すどぉおん……
っとそのまま振り上げた斧の重みで後ろにぶっ倒れたわ。




