異世界の薬はすごかった。
「チッ」
マルクは舌打ちをしつつも身を屈めて戸口をくぐり、腰の皮袋に手を入れ中から小瓶を取り出した。
「これを塗っとけ」
そう言って彼は無造作に寝ている男の方に近づき薬瓶を差し出した。
配給の低級ポーションだ。
もしものための1本を、常に持ち歩いていなければならない。
すると寝ていた男の手が震えながら小瓶を受け取ろうと差し出された。
それを見た途端、マルクのイタズラ心が頭をもたげた。
彼はサッと小瓶を引き
「お願いしますと言え」
とつぶやきニヤリと笑った。
しかし、帰ってきた答えは彼の予想とは違っていた。
「いてぇんだって。早くよこせ」
3日も飯抜きの男とは思えないほどの声が聞こえ、避ける間も無く小瓶は彼の手から奪われていた。
「あっ!」
驚かされた上、小瓶ごと右手を引っ張られた彼は、無理にバランスを取ろうとして後ろに重心を掛けたが、これが強すぎたのか勢いよく背中から石の床に倒れこんでしまった
ゴンッ! ドサッ!!
鈍い音を立て、マルクの後頭部が石の床に衝突した。
「あれ?……」
いきなり足を刺されたかと思えば、中に入ってきて薬をくれるっぽいから変な人だと思いきや「お願いしますと言え」ときた。
なんだよ、と思い頭にきたんで薬を取ったら急にバランスを崩して勝手にコケてしまった。
……
しかもピクリとも動かない。
……
まぁ、息はあるようだから死んではいないだろう。
冗談じゃない!
異世界に来て、いきなり人殺しなんてイヤだって!!!
とはいえ足は痛いので俺は気絶している男を横目に上体を起こし、あぐらをかくと奪い取った薬を足の裏の傷口に塗ってみた。
……足もほせぇな……
おぉ……
なんということでしょう……
あっという間に傷が消えてしまいました……
こりゃ完全に異世界だわ。
さっきの魔法といい、この薬の効果といい、マジ異世界だわ。
この横の男の格好も現代人っぽくないしな。
……あ、もしかして……
俺は小瓶の中身を口に入れ、飲んでみた。
オェッ! マッズっ!!!!
でも……身体が動く!
本調子には程遠いが動けるぞ!