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転移先は、混沌としていました。



「……なんです? これは……」


俺は、目の前に広がる光景を見て、思わず声を出してしまった。


『なにやら取り込み中のようじゃのぉ』


間抜けな独り言にわざわざ答えてくれたグロウスさんと俺の目の前には、想像してたのとはかなり違う光景が繰り広げられていた。

何十人もの人たちが武器を手にあちこちで戦っている。

その足元には、うめき声をあげ蹲る者やピクリとも動かない者もいる。

飛び交う怒号、金属がぶつかり合う耳障りな音、そして、血の匂い。

見上げれば無数の星が瞬く夜空が広がっていた。




俺様はニコラウス・ゴルドバイン。

もちろん本名じゃねぇが気に入ってるんで使ってやってるのさ。

これでも生まれはお貴族様さ。

当主の二番目の妾の次男坊さ。

そう、いらない人間だ。

当主の本妻は二男二女を生んだんで、跡取りに関してはなんにも心配ない。

ちなみに一番目の妾にも男子が三人もいる。

俺の出る幕なんざぁあるはずもねぇ。

ってわけで15歳になった夏、俺はさっさと家から出て、自分の腕一本で……と考えて傭兵になった。

が、世の中そうは甘くねぇ。

貴族様のお妾さんの子供と云えど、周りの大人たちはちやほやしてくれたってわけさ。

そんな大人たちのおべんちゃらにのって「自分が強い」って勘違いしちまった俺が悪いんだけどよ。

案の定、最初の依頼で大失敗しちまったんだ。

臨時でパーティーを組んだ仲間は半分くらい死んじまうし、俺は俺で魔獣にやられて瀕死の重傷をおっちまった。

いきなり自分の治療代と依頼失敗の違約金を背負っちまうというマイナススタートよ。

逆に死んじまったほうが気が楽だったかも知れねーな。

この境遇を楽しめるヤツなんざいねーって! ま、いたとしてもそりゃ勇者くれーだろーよ。

つ ま り。

俺はグレちまったわけさ。

それからの俺は悪の道一直線ってわけ。

休憩中の傭兵の財布をかっぱらったり、護衛任務中に仲間や依頼主の財布からいくらかちょろまかしたり。

おかげで2年ちょっとで借金を返済してやったぜ。

その後、似たような仲間で連んで「盗み」や「置き引き」「スリ」なんかもやったっけ。

そしてとうとう後戻りできないところまで足を踏み込んじまったんだな。

そん時は、いつも通りに仲間たちと街道で、若手の傭兵パーティーにいちゃもんをつけ金を強請るという、俺たちにとっては極々普通の仕事だったんだ。

が、そのパーティーはちょっとだけ強かったのさ。

俺たちは当然のことながら全力で戦ったのさ。結果、俺の仲間も二人死んだが、数に物を言わせてなんとか若手パーティーを全滅させてやったのさ。

幸いなことにここは町外れの街道。

街道脇の森なんかにほっとけば、死体なんか跡形もなく消えちまう。

俺はついに人を殺しちまったんだが……意外と平気だったな。

それからはもう坂を転げ落ちる石ころのように下へ下へと落ちていったさ。

そして昨日もまた特殊な注文のため、街道で商隊を襲いつつ、注文の品を確保し、男も女も分け隔てなく皆殺しにし、今、アジトへ戻ってる途中ってところさ。

それにしても……疲れた。

お宝の分け前は明日にして酒でもかっくらって寝ちまいてぇなぁ……

でもまあ、胸糞の悪い……

今回の特別注文の品物を引き渡せば仕事は終わり……だけどよ。

世も末だね、俺が言うのも何だが。

聖剣っていやぁ……はぁ……もう考えるのはやめやめ。終わり終わり。

そういえば、今回のブツ……結局本当に偽物だったんか?

はぁ……頭が回らねぇなぁ……本当に疲れちまってんのか?

いや、こんな仕事の一つや二つで俺様が疲れるわけがねぇ。

ここんとこ女っ気がねぇ生活が続いちまって溜まってんのさ、いろいろと。ハハ。

ま、そんなこと言ったってしょうがねぇしな、ここは金だけで我慢我慢っと。その金で女でも買えばいいさ。

そんなことを考えながら、俺は闇に紛れて王都の夜道を手下たちと歩いている。

やがて大きく長い塀沿いに進んだ先の裏口の戸を前に、仲間の魔法使いがロック解除の呪文を唱え扉を押し開いた。

ここは王都にはいくつかあるという噂の「幽霊屋敷」の一つさ。

そう、王都にある貴族街の端に位置する邸宅だ。かつては由緒ある貴族様の屋敷だったそうだ。

俺たちは今や構成人数は50人ほどのそこそこ大きな盗賊団で、アジトは「龍墓の呪森」のごく浅い森の中と北へ向かう街道が通る谷の洞窟に一つづつあるが、ここ王都の廃屋を利用したアジトが一番大きく十分な設備も整っている。

しかもここは「幽霊屋敷」と呼ばれているが、最高の立地条件なのよ。滅多に人が寄り付かない上に王都の貴族街だ。特殊なスポンサー様と連絡をつけるにゃあ最適な立地条件ってわけさ。

……しかも、この幽霊屋敷にゃ実際には幽霊なんぞいやしない。

なので人を近づけない意味もあってちょっと幽霊っぽいことをしたりしてるんだわ。

夜中に本館の一室にほんのりと明かりを灯して窓際に誰か立たせてみたり。

街の食堂とかで飯を食いながら「夜、あの屋敷の前を通ったら……」とか言って幽霊の噂を流したり。

はぁ……ま、こんな努力のおけげでだーれもここには寄り付かない……はずだったのにヨォ……



「お頭……その……今日の仕事……なんだったんでしょうかねぇ……」

おどおどとそう聞いてきた男は盗賊団ではいわゆる“下っ端”の一人だ。名前は……覚えてねぇ。

他のとこはどうだか知らねぇが、うちは別に団長である俺を崇め奉るようなことはさせてねぇ。だって面倒だろ?

今でこそ俺はこんな大所帯の団長様だが、実際はただの泥棒野郎さ。

「何言ってやがる。いつも通りだろうが」

「へぇ……」

納得いかねぇのは分かっけどよ、俺が正直に「今回の仕事はあるやんごとなき方からの依頼で……」だなんていうわけねぇだろっ!!

今日は思ったより獲物の抵抗があったせいで、子分が10人近くやられちまった。

ま、盗賊団の子分なんていくらでも補充は利くからどうでもいいっちゃどうでもいいことなんだが……

言われた内容とはだいぶ違ってやがったな。あとであの方には一言文句でも言ってやるか。


とりあえず獲物も一纏めにして一部屋に押し込め、皆、食堂に集合だ。

と思った瞬間

「おっ! お頭!!!!」

いきなり子分がすっ飛んできた。

「騒ぐなっ!」

あまりでかい声を出すなといつも言ってんのによぉ……ほんと、バカばっかだわ。

「す、すいやせん……でもお頭! 大変っす! 中庭に衛兵が!!」

!!! え? 衛兵?

「どういうことだ?」

俺はそう言いながらそいつを押しのけ建物の陰から中庭の方を覗き見た。


カンッ! ギンッ!


なんだってんだっ!?

すでに中庭じゃあ、ウチの手下どもと衛兵が戦っている。

「ニコ」

俺に声をかけてきたこのローブ姿の男は、この盗賊団では唯一の魔導師「タオ」だ。

「一体どういうことだ?」

俺に聞かれても分からないわ。


ドッ!!

ガキッ!!


おっと。

シュライバーの大斧が衛兵を脳天から叩き潰した……ように見えたが剣でうまいこと逸らされたようだ。


「……マズイな……待ち伏せされたようだな」


……確かに……タオの言う通りだ。

中庭に衛兵が結構いやがる。

こりゃ、あのお方に見限られたか?

……

ん? なにやら向こうの方でもウチとは関係なさそうな小競り合いが行われてるようだ。


「……よく見えねぇが向こうでもやり合ってるみてーだ。タオ。一発カマして撤退だ」

タオは両手を軽く肩まで上げ、おどけた感じで応える。

「了解……この感じじゃ、スポンサー様に裏切られたっぽいか?」

「忌々しいがその通りのようだ」


俺はそう言いながらも小刻みに震えていた。

これは怒り? 恐怖? わからん……初めての感情だ。

「シュライバー!!!」

俺は物陰から、中庭のシュライバーを呼んだ。

(……クソッ! この借りは倍にして返してもらうぞ!)

俺の合図に、タオが呪文を唱え始める。

「お頭、このまま暴れさせてくれヨォ」

横からモヒカン頭を揺らしながら、シュライバーが話に割り込んできた。

「バカ言ってねぇで逃げる用意をしろっ!」


まったく。

こいつはバトルジャンキー過ぎるって。

こういう場面になればなるほど生き生きしてやがるっ。

まぁ、そのおかげで何度も助けられてもいるんだがな。


「ファイアーレイン!!!」


出たっ!

タオの広範囲攻撃魔法!

50近い数の火の玉が頭上から降り注ぐヤツだ。


「うわっ!」

「アチっ!」


あちこちで小さな悲鳴が上がる。

が、火の玉の一つ一つの大きさは大したこたぁないんでこれを食らったところで死ぬことはねぇ。

大勢の敵を怯ませ隙を作り逃げ出すチャンスを作り出すのが本来の作戦だ。


「よしっ! お宝は離すなよ! シュライバー! 倉庫に向かう!」


「おっ! さすがお頭! 俺の見せ場を作ってくれるってわけだっ!」


ちげーよ。倉庫の抜け道から逃げんだよ。

そんなことぐれぇ気づけよ、何年一緒にやってんだ。

そんな俺の心の声は奴には聞こえねぇ。


「野郎ども! 見せ場だ! 倉庫に突入! お宝を掻っ攫って逃げんぞ!」


「おめぇもほどほどにして逃げて来いよ」

俺はそう言ってタオの肩をたたく。

「おめーら! タオの補佐、頼むぞ!」

そういうや否や俺はタオと数人の手下を残してこの屋敷の母屋へとつっ走る。

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