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ワイバーン<古龍<勇者でした。


「しょうかんまほう?」

俺はそう言って周りを見渡し、誰かの答えを待った。


リック君は……表情が変わらない。……まぁ、知らないっていうよりなにも考えつかんのだろうね。俺のカバンのことも全く気づいていない感じだしね。

メアさんは……眉間にシワが寄っている。こっちは目の周りしか見えない。

王子様は……考えているようだ……


『異世界から勇者を召喚するための魔法陣じゃ』


へ? 異世界? 勇者? それってあれですか?

俺が知ってるアレ、ですか?

そう、異世界転生定番の、ア、レ。


「……聞いたことがある……エファンゲーリウム聖教会では魔王誕生、もしくは神の啓示に従い異世界から勇者を召喚している……と」


『そうじゃ。ここはエファンゲーリウム聖教会エーレシュタート支部の大聖堂の地下じゃ。ここで先ほど「勇者召喚」が行われたばかりじゃよ』


「ま、まことですか? グロゥスヴァイスハイト様!」

王子がいきり立つ。


「しかし……それが本当のことなら……前回の召喚からまだ20年ほどしか経っておりませんが……」

自分の考えを口にして、王子様がオロオロしてる……なんだ? 勇者召喚ってのは確かに大変なことみたいだけど……20年でってことで驚いてるっぽいな。


『そうじゃ。おかげでこの儂がこんな姿にされてしまったんじゃがな』

クフフって笑ってらっしゃいますけど……されてしまったって……誰に?

伝説の古龍様なんでしょ? 山を消したり街を消したりした。

そんなスゲーやつをこんな姿にしちゃうやつって……


「どういうことですか? まさか……教会の対魔龍騎士団が動いたのですか?」

対魔龍騎士団? 強そう……


『フン……あんな者たちは名前だけじゃ。せいぜいワイバーンを倒して喜んでるくらいが関の山じゃ』

……弱いんかーい……

でも…ワイバーンってアレでしょ?

空飛ぶトカゲ…

火、吹いたり、尻尾に毒針があったりするアレでしょ?

結構強いんじゃないの?

『人族基準で言えば、そこそこじゃろうの。じゃが、儂から言わせれば鼻息ひとつで吹き飛ぶようなヤツじゃ』

…まぁ、伝説の古龍様基準で言えば、そういうことでしょうよ。


「では……何者が……」


『……勇者じゃ。20年前に召喚された勇者が我に挑んできたんじゃよ』


「そ、それは……」

王子様、絶句してる。顔は真っ青になって小刻みに震えてるし……


「なにかマズイのか?」

俺は馬乗り女の耳元に顔を寄せ、小声で聞いてみた。


「マズイ」


「なんで?」

俺は真顔で聞き返す。

気づくとすぐ横にリックがいた。

彼も俺と同じ疑問を持っているようだ。


「古龍様も勇者様も皆、神の御使だから」

馬乗り女はそう言って横で震えている王子を見た。

王子はすぐにこちらに気づき、振り向いて居住まいを直し口を開いた。


「古龍と呼ばれる太古の龍は7柱いらっしゃるのだ。彼らはこの世界の神の御使なのだ」


王子様はここで一旦口を閉じ、我々を見渡し、再び口を開いた。


「彼ら7柱は、この世界を管理する神々の使徒として我々を見ておいでなのです。故に、逆らうことはもちろん、手を出すことなどもってのほか!」

ほほぉ……神に匹敵するような地位にいるわけですね。


「過去には無謀にも古龍様に戦いを挑んだ国や人がいたと聞きます」

あぁ、そこでさっきの伝説になるんですね。


「しかし、その悉くは全て滅んでしまったのです」


「で? そんな凄い古龍様に敵対する人が、また現れたってことでしょ? それがその、勇者だったってことですね」


「そう! だが逆に勇者だから驚きなのだよ! 勇者は神の導きによってこの世界に来た者だ。一方の古龍様は神の使徒でありこの世界の調停者だ。この二つが敵対するということは神々の……考えられん……なにか良からぬことが起きそうな……神々の怒りに触れて、世界が滅亡…」

王子がまた俯いてブツブツ言い始めた。


「おーっと……それは大事ですね」

『まぁ、そうはならんじゃろ』

……間髪入れずにツッコミが入りました。


『勇者は、魔王を倒すという使命を終えた時点で神の遣いという立場からは解放されておるはずじゃ。あとは好きに生きていいと言われての』

「とはいえ……神々の使徒である古龍様に……」

ありえないって感じですかね?

でも……召喚された勇者ってことなら感覚は俺と同じ、というか地球の人ってことでしょ?

そんな人が魔王を倒し人類の最高峰になってしまえば、あとは更に強い相手と戦ってみたいって欲求に駆られても……不思議じゃないかもね。


『ここ数百年はそういった馬鹿者がいなくて平和そのものじゃったんじゃがのぉ。で、その数百年前に世界は滅亡したか?』

「してないです…ね」

『そうじゃ。儂ら古龍が怒ったところで大した影響は出んのさ』

「で、それを知ってか知らずか、今回はバカが現れたんですね」


『……そうじゃ。しかしその馬鹿者は恐ろしく強かったんじゃよ。儂もまさか本気で殺しに来るとは思わなんだわ』


「で、負けちゃったんですね」


『グッ……』

あ、心の古傷えぐっちゃったみたい。


ザザッと周りの人たちが引いていく。

おっと、いつの間にか王子が正気に戻っていた。

……さっきの再現ですか?


「し、しかし……そんな無謀なことを……なんのために……」

そう? 単純に力を誇示したかったんじゃ……あぁそうか、それじゃなんでここに祀られてるの?って話ね。


『勇者召喚のためじゃ。勇者召喚に際し足りない魔素を補うために儂を利用しようと考えたんじゃよ』

「……となると、この騒動の発端はこの教会ってことになりますね」

『……そうじゃの……』

「もう魔王が誕生したんですか?」

『いや? そんな話は聞いておらんぞ?』

俺は王子達の方に顔を向けてみる。

「えぇ、そんな噂は聞いたこともないですね」

「僕もそんな話、聞いてないよ」

「魔王ってのがどれだけつえぇんか知らねぇけど、俺が一発で倒してやんよ!」

『……』

「……では…なぜ?」

なんだろ、そこはかとなく嫌ぁな感じがする。


「あ、ちなみに勇者召喚……ですか……どれ程の魔素が入り用なんです?」


『儂も詳しくは知らんが……本来、勇者召喚の儀式には、100年ほどかけて魔法陣に魔素を溜め込み、さらに召喚の術式を行使できる枢機卿以上の地位の者が一人と補助として5、6人の魔素量の多い高位聖職者が必要なんじゃ』

「100年? とてつもない量が必要なんですね?」


『そうじゃ。で、今回、20年での召喚実施じゃ』


「……つまり、足りない80年分はグロウスさんの魔素で補ったってわけですね」

なんか話が長くなりそうだったんで、結論を言ってみた。

でもそんな簡単に代替が利くんだろうか?


『……多分じゃが、そういうことじゃろう』

怒っているようですけど、こんなとこに長居は無用です。

さっさと退散したほうがいいでしょ。

あ!


「で? この世界の調停者たる古龍様をこんな感じにしてしまった報いはどういう形で現れるんですか?」

なんだかんだ聞いてきたけど、肝心なことを聞くのを忘れてたわ。


おっと……皆さん、固唾の飲んでグロウスさんの言葉を待ってらっしゃる。


『…憶測でしかないが…当然、魔王誕生が早まるであろうな』


「!!」

一瞬にして緊張が走った。

魔王誕生……あっちの世界の小説や漫画じゃよくある話っぽかったけど、現実……ここって現実なのか?……現実の話として受け取ると、かなりのインパクトを感じるね。

だって、人族と魔族の世界大戦になるんでしょ?

ん? 大戦になるのか?

今なら誕生した魔王の元にグロウスさんを殺った元勇者とさっき召喚した勇者を送り込めばいいんじゃね?

大勢の一般兵が死ぬよりはこっちのやり方の方が人間的には被害が少なくて万々歳なんじゃ?

あ、でも、神様的にこういうイベントを盛り上げようとか思ってたりするとそうはならんか。

あれ? そういえば、俺が乗り移ったハンスさんって、前回の魔王討伐に参加して大活躍した人だった…よね?

……まさか……俺は関係ないよね?


「それはまことで……」

王子、この部屋に来てからずっと脂汗ダラダラかいてるよ。

風邪引いちゃわないかな。


『とはいえ、確実なことは儂にもわからんのじゃ。『全ては神のみぞ知る』、というところじゃろうが、神々はこういうことには干渉できんでな。かといって、創造主様はもうこの世界には無関心だろうて』


またもや新しい単語が。

そうぞうしゅ? 創造神ってことかな? つまりはこの世界を作った神様ってことかな?

あれ? そういえばこの教会の神様って……人族が勝手に作った神様だったっけ?

『ある意味、創造神!』

急にブッ込んできたね。大丈夫? この世界を作った神様を揶揄して。

『……』

また黙っちゃったよ。


「創造主様が一番偉い神様ってことです?」


『そうなるの』


「ここの女神様は?」


『知らん。この世界の7注の中にはおらん』


やはり新興宗教!

とはいえ勇者を召喚できるんだ。

これってやっぱり人間が作り出した魔法のおかげってことなのかね。

勝手に神を名乗り勝手に勇者を召喚する……神の怒りに触れたりしないの?


『せんのぉ…神々は基本、傍観じゃ。そのために調停者たる儂らや精霊がおるんじゃ』


「じゃあ、まぁいろいろ考えたところでどうしようもないってことですね」


『話を省きすぎじゃが、簡単にいえばそういうことじゃな』

んじゃ、とっととここから出ましょう。


「では、魔晶石も取り除いたことですし、さっさとおさらばしましょう」

俺がそう言ってみんなを見ると、なぜかみんな表情が硬い。

うーん……そんな顔したってどうしようもないのにねぇ……


『そこで最後のお願いじゃ、お主、儂に魔素を分けてくれんか?』


え? なに? まだなんかあるんですか?

しかも……おれ、限定ですか?


『そうじゃ、お主じゃ。お主の魔素量は儂が今まで感じた人間の中では一番じゃ』


「どうすればいいんです?」

しょうがない。減るもん……だけど、そうしないと出してもらえないんでしょ?


『儂の額に手を当てて……そうじゃ、それでこちらに…腕を伝って魔素を流し込むようなイメージを……』


こうですか? お? おぉ!!! なんかあったかいもんが俺の腕を伝ってグロウスさんに流れていく感じがする。

……

……

「まだですか?」


『……お? お・・おぅ、もう大丈夫じゃ……それにしてもお主、いい感じの魔素じゃのぉ』


そう言われても……


『……ふむ……良い気分じゃ。お礼にいいものを与えよう』


グロウスさんがそう言うと腕を伝ってなんかが流れ込んできた。

……

お? これは……魔法の知識ですね。

『そうじゃ。儂の知りうる全ての魔法知識を与えてみたんじゃが……どうじゃ? 使えそうか?』


……えーと……土系の魔法がほとんどですねぇ……

こういうのって覚えてすぐ使えるもんなんです?


『うーん……どうじゃろう……儂は使えても人には難しいかもしれんのぉ……』


ま、とりあえず貰えるもんは貰っときます。

機会を見て練習でもしますわ。


『で、お主、先ほどの様子では抜け道があるように感じたが?』

抜け道? あ、あぁ、トンネルのことね。

そうだけど、残念ながら行き止まりだし、グロウスさんの図体……頭だけだけど……通れませんよ、デカすぎて。


『……』


「あ、はい! あの抜け道の先は、とある潰れた貴族の屋敷内に通じております」

お、グロウスさん、念話の相手を王子様に切り替えたようですね。

王子様も馬乗り女と話しているようだわ。

確かに俺はあのトンネルの先のことは知らないしね。

ふ〜ん……元貴族の屋敷だった廃屋に行き着くんですか。

……当然、そこには仲間が待っているんでしょうね。

あぁ、早くお日様を拝みたい……


『うむ。場所の特定が済んだぞ。では飛ばしてしんぜよう』


!!!

あっという間に目の前の3人が消えた。

……

……

……?

あれ? 俺は?

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