泥棒かもしれないが、変態では…ない?
やることがなくなった俺は、みんなの方へ近づいていってみた。
すると、リックが振り返り俺を見るなり隣の馬乗り女の肩をチョンチョンとつついた。
そのまま二人に近づいて「どうなってるんです?」と声をかけてみた。
振り向いた彼女と目が合った。
あれ? なんか怒ってるっぽい?
「変態泥棒魔導師」
いや、声の感じでは怒っているってわけではないようだが……どういうことだ?
変態で泥棒?
変態ってのは、さっき王子の着替えを見ていたからかな。
で、泥棒?
ここでいろんなもんをバッグに入れたからか?
んなもん、今更でしょう。
「泥棒はしょうがない。腹減ってたからな。で、変態の件だが、さっきの王子の着替えのことか? 男同士だし問題ないだろ?」
「……」
(王子の美しい身体を……)
なんか変な視線が感じる。
いや待てって! 俺、そっち側の人間じゃないぞ?
「いやいやいや、誤解だって!」
そう言って俺が一歩近づくと、彼女は一歩引く。
まさかそんなことで嫌われるとは……困った。
……
「男が男の着替えを見たっておかしくないよね?」
一応、リック君の方を向いて聞いてみる。
が、巻き込まれるのが嫌なのか、あからさまに横を向いて知らん顔をされた。
……
正直すぎて怒れないわ。
で、メアさんといえば……
まだ無言でジッと俺を見つめている。
? なにかを読み取ろうとかしてるのか?
ジッとみたところでそっちの人かそっちじゃない人かなんて見分け、つかんだろ!?
俺も対抗して彼女の目をジッと見つめてみた。
……
やがて、彼女の口が開いた。
(実際は口、見えませんけどね)
「わかった。泥棒の件はいい。で、これからは変態魔導師と呼ぶ」
(王子の裸、見た罪は重いっ!)
???
なにがわかったんだ?
いや、わかってねぇじゃん!
全然わかってない!!
変態確定ですか?
そりゃ学生の頃の俺は友達からは『変態』呼ばわりされてたけどさ!
女性に、しかも年下に変態って言われると…実際、傷つくわ!
俺は目を見開いて彼女の目を見つめる。
……
固い決意を感じる。
……うーん、困った。完全に被害妄想だと言いたい。
が、この様子じゃあ彼女、聞く耳持ってそうにないしなぁ。
あ、やっぱ、王子とはそういう関係なのか?
さっきもなんか俺がいない間、イチャイチャしてたっぽいし……
こんな杜撰な計画で、囚われていた王子を救出しに来てるってのも考えると彼女の中の世の中は「王子」中心で回ってるんだろうね。
王子からすりゃ心強い味方だろうけど、他からすれば危なっかしいったらない。
正直、このまま第三王子派になるのは……ヤバいかもしれん。
……リックは…
……こいつはなにも考えてないっぽいな。
…よし! じゃ、俺も深く考えるのはヤメッ!
この世界に来た早々、変態確定は嫌だが、このままここに居残るって選択肢はないしね。
一応、表面上は彼女に従っておいた方が良さそうだね。
「わかった。では俺は今日から変態だ」
「え?」
「え!?」
メアとリックが俺の言葉に反応する。
「お、おま、な……何を言って…」
リックが慌てている。
「面倒臭いんで今日から俺は変態魔導師だ」
本当はね、全然そういう気が起きてこないのよ、今。
前世じゃもう枯れちゃってたしねぇ……
でも、確定っぽいじゃん?
だったらこれから俺は変態でいくっ!
「……」
メアさんが考え込んでいるように見える。
じっと彼女を見つめる。
彼女も俺をじっと見つめている。
あれ? さっきとは違う感じだ。
なんか……迷ってるっぽいか?
が、しばらく待ったが何の答えも返ってこない。
じゃ、ま、いっか。
「で、話し合いは進んでるんですか?」
俺はメアさんから視線を外してリックくんにそう聞いてみた。
「へ?」
リック君がドンびいてる。
あ、そういえば、君は『残念筋肉剣士』って言われてたっけね。
「利害が一致したので協力することになったよ」
と、横からイケメン王子がそう言って俺の肩をポンと叩く。
利害? 協力?
「……誰とです?」
と言ってから思い出した。
このドラゴンヘッドに勝手に呼びつけられたんだっけ。
……なんか思い出したら腹が立ってきたわ。
「あ、あぁ。この方、古龍のグロゥスヴァイスハイト様だ」
「これ?」
俺はなにげなく頭だけのドラゴンを指差す。
「!!」
「!!!」
「!!!!」
3人が3人ともザッと音を立てて文字通り一歩、身を引いた。
? あれ?
このドラゴン、やっぱりそんなに凄いのか?
てか、頭だけだよ?
『お主、儂を恐れぬのか?』
おっと、また頭の中に声が響いた。
俺は振り返り、頭だけドラゴンを見る。
そしてゆっくりと近づきサスサスと擦ってみた。
硬い感触。
亀の甲羅っぽい?
とはいえ生き物っぽい感じはしないなぁ。
伝説の古龍様ってことらしいけど、地球人で一般人の俺からすれば全くもって現実味を感じないね。
「動けないんでしょ? 自力で」
ザザッと音がしたので振り返ると、3人がさらに距離を取っていた。
『儂を愚弄するか?』
「愚弄も何も、動けないから俺らを呼んだんでしょ? どんなに偉いんか知らないけど、人にお願いをするときは、頭を下げるのがスジ……って無理か」
ザワザワしてる。
「まぁ俺も彼らに連れて行ってってお願いしてる身なんだけどね」
アッハッハッと笑ってみる。
『……』
うーん…なんか気まずい…
「で、どうして欲しいんだい?」
とりあえず要望は聞いてあげよう。
ムカつくけど…
あ、ムカつくってので思い出したけど、なんで俺、ここにいるんだ?
いわゆる異世界転生ってやつだろ?
ってことは、神様とかが絡んでる可能性がかなり高い。
…古龍ってんなら、なにかしら知ってそうかも…
『ふん、食えんやつじゃ。まずはそうじゃの。床の魔晶石を取り除いてくれんか』
へぇ、これって魔晶石っていうんだ。
『全部取ればいいのか?』
『一つ残らず取ってくれ』
「了ー解」
俺はそう言葉にして振り返ってみた。
3人とも壁際の方まで下がっている。
かなり距離がある。
けどさぁ、伝説の古龍様なんでしょ?
このくらいの距離なんてあって無きが如しって思うんだけどね。
ま、皆さんの協力を仰ぎますか。
「床の魔晶石を全部取ってくれって言ってますよー」
俺はちょっと大きめの声でそう言うと、その場にしゃがみ込み、一つ一ついろんな色に輝く魔晶石を拾い始めた。
ひょいひょいと拾い、ポイポイとカバンに入れる。
……どんだけ入るんだろうか、このバッグ。
「おめぇ……怖くねぇのか?」
しばらく作業をしていると、後ろから声をかけられた。
怖く……ないよねぇ……あまりにも現実離れしすぎちゃってて
……しかも動けないんでしょ?
「逆になんでそんなに怖がってるんだ?」
おっと、ついタメ口をきいてしまった。
あれ? リックって、いくつだ?
年上ってことは……ないよね。
「……」
すんごい顔で見つめられた。
目が倍ぐらいの大きさになってるよ?
動きも止まって……息、してる?
俺、そんな凄いこと言った?
「こ……」
「こ?」
「こ、古龍様だぞ? でで伝説の!」
「どんな伝説なんだ?」
「そりゃおめぇ、山一つブレスで消したとか、国が滅ぼされたり街が一瞬で海に沈んだり……」
「でも、頭しかないぞ」
「いやいや、魔法の力もすげぇんだって!」
「でも捕まってここにいるんだよね」
「……」
「動けないから俺たちに協力を求めたんだろ?」
「……」
「それに、魔法が使えればさっさと逃げてるでしょ」
「お、俺たちを転移魔法でここに飛ばしたぞ?」
「近くだから出来たんじゃない?」
「ぶ、ブレス攻撃なら口だけでも……」
「あの状態でブレス、吐けんのかなぁ」
「まぁ協力してあげれば悪いようにはしないでしょ、ね」
そう言って俺はドラゴンの方を向いた。
『悪いようにはせん。この魔晶石が邪魔なんじゃよ』
「……」
「……」
「……」
はいはい、わかりましたよっと。
こっから出してもらうには協力しないとね。
でもねぇ……勝手に呼びつけて言うことをを聞けって……
かなり自分勝手な言い分だと思うけどね。
まぁ、悔しいけど、こっからどうやって出られるのかすらわかんないし。
あ、そうだ。さっきも思ったけど、古龍様に、誰が俺をこの世界に転生させたのか、なにか知ってるんなら聞いておかないとな。
……
それに関してはなんにも覚えていないんだけどなぁ……
これから何かあるのか?
……イベント的なものとか……
……ないのか?
……
四人で協力して床に並べてあった魔晶石を全て取り除いた。
俺のカバンのことがバレちゃったようだ。
そりゃね、あれだけバンバン物いれてりゃ、大概のやつは気づくわな。
なので、回収した魔晶石は、すべて俺のカバンに収まった。
で、
綺麗になった床には見たことのないデッカい魔法陣だけが残った。
……
そりゃそうだ。見たことあるわけないか。
……
「なんです? この魔法陣は」
素直に疑問をぶつけてみた。
『召喚魔法の魔法陣じゃ』




