看守は嫌なヤツでした。
「はぁ……もういい加減、やめてぇわ」
そう一人つぶやきながら、マルクは重い足取りで地下牢の廊下を歩く。
毎日、朝晩の2回、地下牢の囚人たちに食事を配るのが彼の仕事だ。
もうかれこれ3年になる。
最初のうちは衛兵として働けることに喜びを感じていたが、今となっては嫌で嫌でしょうがない。
こんな仕事、衛兵のやることじゃねぇだろ! と考えているからだ。
実際、彼は剣術も体力もレベルが低く、性格も自分よがりなところがあるため上司にあっさりと警備の仕事からここ、牢獄の管理へと左遷させられたのだった。
現在収監されている数名の牢屋の住人に、粗末ながらも食事を配り終えたマルクは、やがて、ある個室牢の前で立ち止まる。
ここのジジイはいっつも俺に生意気な口をききやがるから、お返しにここ3日ほどは飯抜きにしてたっけ。
そろそろ根をあげて俺様に許しを請う……いや、ねぇな。
こいつはぜってーに折れねぇな、きっと。
そういやぁ、なんでこいつだけ個室なんだ?……
長ぇよな、こいつ。俺がここにきた時からいるっけ。
よっぽど悪りぃ奴か、逆にすげぇいい奴なんだろな。
そういやぁ主任のオッさんもこいつにゃあ関わらないようにしてたっけ。
マルクはそう思いながら悪臭漂う鉄格子の中を伺う。
……
死んだかな?
物音一つしない。
「おい」
鉄格子の向こうの物体が動いた。
顔だけこっちに向け、伸び放題の髪の毛の隙間から、ジッと俺を見ている。
チッ。相変わらず生意気な野郎だ。
いつもなら小さいながらも返事を返してくるが今日はそれすらもない。
いや、出来ないのか。
もう3日以上飯抜きにしてるからな。
が、飯をやるつもりはない。
「今日も飯抜きだ」
と言って相手の表情を見るのが楽しみなのだ。
しかしこういう目つきは気に入らない。
お仕置きをしてやらなくては。
彼は腰に差してある粗末な剣を抜き鉄格子の間に差し込み、そこに横たわる物体の足をつついてみる。
……
チッ!
無反応でジッとこちらを見ているだけだ。
少し強めに突いてみると明らかに刺さった感触が返ってきた。
すると「うっ」と呻き声を出し頭が下がった。
「やべっ」
配給された粗末な剣だといっても手入れを怠れば主任にこっぴどくドヤされる。
なのできちんと手入れをし、切っ先も砥石で研いて鋭くしてあった。
なにせ突然抜き打ちで検査がありやがるからな。
で、当然、刺したら血が出たってわけだ。
牢獄の中で人が死ぬことは珍しいことではない。
むしろ日常茶飯事だ。
一昨日も一人死んでいるし。
自分がここに来てから何人死んだっけか……と思ってみたが多すぎて覚えていない。
しかし、不自然な傷はマズイ。
俺の行為がバレてしまうからだ。
「……めんどくせぇな……」
不本意ではあるが傷の手当てをしなければ……上司にバレたらまた減給になっちまう。
彼はどっこいしょと立ち上がると奥の方に行った。
しばらくして戻ってくると、手には鍵が握られていた。
その鍵を鉄格子の扉部分の穴に差し込み回転させるとガチャリと音がした。
鍵が開いたようだ。
彼は使った鍵を上着のポケットに入れ、鉄格子に手をかけ手前に引いた。
扉はギギィッと嫌な音を立てて開く。