この教会って、まともな人はいないんですか?
やばい! こんな隠し扉みたいな仕掛けがあったのか?
やばい!やばい! 俺、いつの間にか、部屋に真ん中にいたわ。
隠れるとこがねぇじゃねぇか!
なので思い切って扉に向かってダッシュした。
幸い目の前の床には、血糊も魔方陣書いておらず、あっという間に目的地に着く。
開いた扉から顔を出したのは、なにやらゴテゴテに着飾った中年太りのおっさんだった。
こんな感じの服装、外国の教会の偉いさんが着てたっけ……
なんて思っていたらおっさんと目が合う。
「え?」
さてどうするのが正解か……。
見つかれば通報されて、俺も王子もここから出られない。
なら、見つからないようにするべきだが、もう無理だ。
ならどうする。
……一瞬の間の後、俺はおっさんの胸ぐらを掴み、力任せに引っ張った。
「う、おっ!」
おっさん、何が起きたのかわからないうちに顔面から床に叩きつけられた。
「ぐぇっ!」
鼻が潰れたのか、うめき声を出すうつ伏せのおっさん。が、俺は躊躇なくヤツのベルトを掴むとこれまた力任せに引っ張った。
そして開いている扉の向こう側をババっと見渡す。
……うん、誰もいないな。
問題ないことを確かめてからしっかりと扉を閉め、おっさんの横にしゃがみ込んだ。
ハァ……ハァ……
疲れた。
かなり体力を使ったせいか息切れがする。
考えたら俺、完全な病み上がり……病みではないか……さっきのポーションっぽいやつのおかげでこんだけ動けてるんだろうな。
あ、待てよ……俺自身に体力回復の魔法を掛ければいいじゃね?
っと、その前にこのおっさんだ。
「ぬぁ? ぬぁぬもにょじゃあぁ!!」
『ぷふっ! 変な声っ!』
鼻が潰れたせいか、何を言ってるのか分からん。
しょうがないんで治してやるか。
おっさんの顔に手をかざすと、鼻のあたりがふんわりと光り、潰れた形が元に戻っていった。
「へ?」
ついでに自分には体力回復っぽいのをかけてみる。
……
おぉっ! 気力が満ちてきたっ! 魔法、すげぇ!!!
『へぇ……君、凄いね。白魔法も出来るんだ』
お、精霊くんに褒められたぞ?
これはなんというか……気持ちいいわ……
ん? せっかく治してやったのに、おっさん、反応、悪いな。
精霊くんですら褒めてくれた俺の魔法。
なんで無視すんの?
「で、おっさん。ここはなんだ?」
ムカついたんでぶっきらぼうに聞いた。
おっさん、うつ伏せの体勢で顔だけ横向きに上げて、俺の顔をジッと見つめてくる。
なにかを必死になって探っているようだ。
……こんな髭ぼうぼうのロン毛のおっさんの顔、いくら見たってなにもわからんだろうに。
あ……いや、なにかの魔法…? って感じではないようだな。
「貴様こそ何者だ。ここは関係者以外、立ち入り禁止の部屋だぞ」
「俺は関係者だ」
とりあえず、出任せを言ってみる。
と、おっさんの瞳孔がカッと大きく開く。
「きょ、教育局……か?」
きょういくきょく? なんですか?それ。
なんだかわかんないので、ニッコリと笑ってやる。
「で、ここはなんなんだ?」
おっさんの顔から血の気が引き、小刻みに頬が震え出した。
「わわわわ私は私は、ししし、知らない! ほほほほ本当だ! 神にちちち誓って……」
「神? お前が言う神はどの神だ?」
『僕の信じる神様は空間を司る神様だよー。ただねぇ……人族の間ではほとんど知られていないんだけどねー』
俺自身、神様なんて信じてない。
けどまぁ、今、こういうことがこの身に起きているってことは、神様は……いるのか……な?
「ええええエファンゲーりゅうムさまにっ、きき決まっておりますっ!」
えふぁんげぇりゅうむさまぁ? だれそれ?
『そ、れ、は……豊穣の神様だよ。農作物の豊穣、生物の出生、工作物の完成とか、この世に生み出されるもの全ての豊穣に関わる神様だよ』
ほぉ……なかなか広範囲にスゲー神様だわ。
『でもね、実際にはそんな神様は存在しないんだ』
え? どういうこと?
『つ・ま・り。人族の一部の奴らが自分の利益のために作った宗教ってこーと!』
出ましたっ! いわゆる新興宗教ってヤツですね? 利益追求型の宗教ですね? あ、だからこいつもこんなモンでジャラジャラと飾り付けてんだな。
『いわゆるこの世界の神様ってのは12柱いるんだ。陽の神様と陰の神様が二大巨頭だね。その下に火・水・土・金・木の神様が居てぇ、あ、神様には部下として大精霊様が一体づつ付いてるんだ。またその下に雷と空間と時間と風と無の神様がいるのさ』
お、おぉ…いきなり情報過多だわ。覚えきれんわ。
で?その、教育局って何?
『知りませーーーん!』
そりゃ残念。
ま、とにかく、こいつらは……悪い奴らってことね。
で? この惨状はなに?
「じゃあ君はここに何しに来たんだい?」
いろいろな情報が錯綜してるんですけどぉ……メンドくさいからもうその教育局の人間になりきるしかないね。
なんとなくだけど、教会の内部監査部みたいなとこだろうかね。
自分たちで勝手に作った宗教に疑問を持たないように教育する部門って感じかな。
ん? だとしたら、ここってそういう教会的にはどうなんだ? うーん……やっぱ…こいつの怯え方から考えて……
ま、教会に限らず、こんなことを許す組織はロクでもないに決まってるだろうけどね。
おっさん、ガクガクと震えるばかりでなにも言わなくなっちゃったよ。
そうとう恐ろしい部署なんだろうね、教育部って。
「わかった。喋ってくれれば『協力者』ということで上には黙っててあげよう」
「ほほほ本当でございますかっ!」
『うっそでーーーーす!!!』
こらこら、本音を言うな。
っっと! うわっ! 怖っ! ローブを掴むなって。
おっさんに抱きつかれても嬉しくないっての。
「あぁ、ちゃんと、全部、話せばね」
俺はそう言ってニッコリと笑う。
『ああ、ぜんぶはなせばね……うわーーーこわーい』
うっせ。
しかし、我ながら怖いね、自分が。
かと言って他にどうしようもないしね。
まずは自分が助かることを一番に考えないとね。
『そーだね。とりあえずはこっから出ないとね』
その通りです。
「こ、ここは……じ人工的に魔道具を作る工房でございます」
まどうぐ? じんこうてき? 魔道具って人工的に作るもんじゃないの?
え? 材料は……ひ・と・ってこと?
『人だけじゃないよー。いろんな魔物やら魔獣やら……亜人のもあるよー……ウプッ でもねぇ……一番良いのは亜神とかだね』
え? 神様すら材料扱い?
『いやいやいや、「亜神」とか「邪神」ってのは神様になり損なったモノって感じかな? 彼らは人間にも倒すことが可能な神だからね』
うっわー、怖っ! 亜神と邪神なら良いって……。
最悪。最低。考えたくなーい!
俺の眉間に自然と深いシワが刻まれる。
「ひっ!」
おっさん、ビビって短い悲鳴を上げた。
そりゃあんた、あんなこと聞かされたら、眉間にシワ、寄るっての。
「で? 君はなにしにここに来たの?」
笑顔にちょっとだけ邪気を含んでみました。
「……・・わ……・わ……わ・わ私・・は……ここを閉鎖するという話を聞き……あ余った魔道具があれば……回収しようと……思い……」
「ねこばば?」
『いぬじじ?』
「けけけ、けっしてそのような大それたことを考えたわけではっ、ございませぬぅ! もし余っておれば危険だと……そう! 危険を回収しようと!」
「そうか。じゃ、その回収は私の方でやっておくから、君はもう帰っていいよ」
「は、はい! そそうさせていたただきますぅ!」
おっさん、慌てて立ち上がると、彼が入って来た扉のあったあたりに左手をかざし始めた。
ん? なんだ?
俺はなんとなく違和感を感じ、優しくおっさんの肩に手を置き、ちょっとだけ引き戻す。
……
なんか、右手に、持ってない?
「君、それは?」
そう、俺はおっさんが隠し持っているものに気づいてしまったのだ。
「こ、これは……」
おっさん、もしかして、それ、今、この部屋で、拾ったものだよね。
「それは、なんだい?」
さっきよりちょっとだけ語気を強める。
『ねーこばばっ! いーぬじじっ!』
うっさい! ちょっと黙れ!
おっさん、ゴクリと一息、大きく飲み込むと、諦めたのかスッと持っていた杖を俺の方に差し出してきた。
「こ、これは……魔導杖でございますっ!」
まどうじょう? いわゆる魔導具の杖?……いやいや、あの一瞬の間にガメてたの?
これは逆に凄い! けど、こいつ。普段からこういうこと、やってんじゃねぇだろうなぁ。
「やはりね。ダメだよ。私の目を盗んでこういうことをしては」
「も、申し訳ございませんっっ! この魔導杖、い、以前は私が使っていたものでしたものでぇ…つい、つい、懐かしく…手に取ってしまい…」
おっさん、誰もいない空間に向かって頭突きをするような勢いで頭を下げてきた。
っていうか絶対うそでしょ? 今、考えたようなそんなでまかせ、誰が信じるんだっての。
「ふぅ……」
俺はあからさまにため息を吐いた。
「こういうこと、普段からやってると解釈するよ? となると、見逃すことは不可能だね」
『死刑! 万死に値するぅぅぅぅ!』
殺すの? 俺が? ……嫌だって! 置き引きぐらいで死刑にできるかーい!
「い、いえ! も、申し訳ございません! つい! つい手に触れたものを掴んでしまっただけでございます! そうしたらこれがたまたま私のものでしたのでぇ! 決して取ろうだなんて思っておりません!」
いやいやいや! しっかりそのままここから出ようとしてたじゃん!!!
めっちゃ嘘じゃん!
これが聖職者???
マジか? マジですか???
『マジ』
マジなのかぁ……恐ろしや聖職者。
「わかったわかった。今回は君を信じよう。で、ここでのことは他言無用だよ。私と会ったこともね。さ、もう行きなさい」
『うっそぉー、いいの?いいの? 泥棒だよ? マジ泥棒!』
いいの。もう関わり合いになりたくないの。
ああいう手前はいつかきっと手痛いしっぺ帰りを食らうモンだって。
『えぇ〜 そうかなぁ……』
ま、実際はそんなうまいこといくわけないのが人生ってもんさ。
『意味不明』
要は、俺の前に二度と現れんなよってこと! もし、また会ったら……どうしようかねぇ…
『ガクッ』
「あ! ありがとうございますぅ!!! ではではっ! 失礼いたしますっ!」
おっさん、自分のだって言い張ってた杖をすぐに俺に渡してきた。
なんだ? やけにあっさりと…ま、いいや。
さっさと消えてくれ。
おっさんはなぜか俺に敬礼をしながらクルリと回れ右をし、再び壁に向かって手をかざした。
すると、彼が入ってきた時と同じように壁にドアが現れ音もなく開いた。
「っではっ!」
おっさん、振り向きながら一礼し、そのままドアの向こうへ小走りで去っていった。
刹那、開いていたドアがまたも静かに閉じ、壁と一体化してしまい、もうどこがドアだったかもわからなくなってしまった。




