誰かに呼ばれた感じがする。
気づくと俺は倉庫の中央にいた。
なんだろう、この感じ。
頭の中に直接話しかけられているような感じだ。
『ぉーぃ…』
こっちか……?
『奥、奥』
おれはフラフラと導かれるように部屋の奥へと進んでいった。
『こっちこっち』
……
見ると俺の目の前にはちょっと大きめの使い古されたショルダーバッグがあった。
『おい、あんた、僕の声、聞こえてるんだろ?』
やっぱりだ。
このバッグが話しかけてる。
「なんでバッグが喋るんだ?」
俺はおもわずそう呟く。
『あっ! やっぱり! ヨカッタァー! やっと話ができる人間に出会えたヨォー』
……なんかスゲー嬉しそうだ。
「同じことを繰り返すようで悪いが、なんで、バッグが、喋ってるんだ?」
俺はしつこく聞き返す。
『イヤァー、枢機卿のやつがさぁ、煩い! お前の話は気に入らないっていうからさ、しばらく喋るのやめたんだよ。僕だって喋らないことも出来るんだって感じ? で、気がついたらこんな地下の倉庫に仕舞われちゃってぇ。もうどうしようもなくってさ。見てわかると思うけど、僕ってカバンじゃん? 動けないのよ実際。カバン、勝手に動いたら怖いでしょ?』
……こいつ、人の話を聞く気がないだろ。
そりゃ煩いって思われてもしょうがないわ。
『でもって……20年?、人間の時間のあれだからあれだけど、たぶん20年だよ。僕がここにいるのってさ』
勝手に話してやがるけど、まぁ知りたい情報が入ってるからまだいいか……
『僕らの寿命っての? 「それからすれば微々たる時間じゃよ。」あ、これって僕の上司が言ってたセリフだよ。ププッ、じゃよだって。面白いよね。この20年で喋ったのって上司に今の言葉を言われた時だけなんだぁ。え? それってさ、ここに来てすぐだから20年喋ってないってのは本当さ』
……20年も喋ってなかった反動ってのはスゲーな……
全然とまらないわ。
『でもねー、けっこー長い時間ほっとかれちゃったのは痛いよね。だっていっくら喋っても誰も応えてくれないんだからさ。たまーに人が入っては来るんだけどぉ…全っ然反応がないんだよね。やっぱ念話って難しいのかなぁ……』
今もそうなっちゃってるけどね。
『僕のこと、ここに仕舞った枢機卿のやつ、もう死んでるんだろうね。だってあの時もうオジーさんだったし。……あれ? 君、オジさんっぽいけど……おじいさん?』
ん? 俺って何歳なんだっけ? さっきの備忘録では俺は72歳で死んだらしい。
で、転生した俺の今の年齢って……あ……確か……15……歳だったっけ。
でもさぁ、この髭面で15? 髪の毛の伸び具合でいっても20歳は越えてるはずだけどね……
ま、いいか。異世界だし。
『俺は15歳設定だそうだ』
『え? 15歳? うっそだぁー! ……う、そんなこと言ったら君を送り込んだ神様に怒られる……かも』
なに!? 聞き捨てならん! 俺を送り込んだ神様がいる!?
『誰だ? その神様って』
『え? うーーーーーん……わかんない。数多いる神様の誰かってことはわかるけど、誰って言われるとわかんないさ。だって僕、ただの精霊だし』
『精霊? カバンの精霊ってことか?』
『違ーーーーーーう! ち、が、い、ま、すぅーーーー! ぼくは、空間を司る精霊なのですっ!』
『空間の精霊? 精霊がなんでバッグ?』
『……あー……それは聞かないでよ。武士の情けじゃん』
『お前、武士じゃないじゃん』
『……あははは……鋭い! 君、鋭いね。二人でエムワン目指さない?』
『なぜM-1を知ってる!? ここ、異世界ですよね? てか20年間ここにいるんだろ? いろいろおかしくねぇ?』
『そこはあれ。情報収拾は完璧なのです! 僕の分身に当たる下位精霊をいくつも飛ばして情報を収拾しているのですっ! さらには上司に当たる空間の神様の話を盗聴し…ってこれは内緒!絶対に言ってはなりません! その上司ってさ、チキュウ? のニッポンってとこのなにやらを良く見てるみたいでさぁ、面白いよね? ニッポンの話!』
『いろんな意味でスゲーわ。そもそもこの異世界でM-1という言葉が聞けたこと自体、信じられんわ』
『ムフフ。僕、凄いでしょ。もっと褒めていいよ? そんで僕をここから持ってって欲しいんだ』
『唐突に要求が突きつけられた……が、このバッグ、もしかして……』
『おっ!? わかる? そうです。私が変なオジ……じゃなくて、無限空間バッグなのですっ!』
『おぉっ! いわゆる四次元ポケ』
『違ーう! 僕はあんな不恰好な青いゴーレムの腹に張り付いてるようなヤツじゃない! 超魔法原理に基づいた精霊空間魔法のバッグなのだ! 凄いんだよ? 教会の枢機卿クラスが持つくらいのレベチなバッグなんだからっ! 無限空間バッグの最高峰といっても過言じゃないのさ。そんな僕をこんなところで仕舞い込んだままでいいんですか? 良くない! 絶対に良くない! 道具は使ってこそでしょ! このチャンスを逃したらもう二度と手に入らないかもしれないんですよ? いいんですか? 僕を使わないなんてこの世界の大いなる損失です! 犯罪です! 万死に値しますっ!!!』
『……うぜぇ』
俺は無言でじっとショルダーバッグを見つめた。
『……お願いします。僕を連れてってください』
素直に最初からそう言えばいいのに。
俺はおもむろにバッグを手に取り、ローブの中でタスキがけにした。
……
うん。特になんにも感じないな。
あれ? 急に静かになったけど……
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