食い物の恨みは恐ろしいのです。
俺は混乱している。
確か……ジジイにポーションを渡そうとして……バランスを崩して転んだ……のか?
で、気づいたらチッコイ女に馬乗りされて……機密事項を聞かれてる……
どうなってやがる!?
こいつらどっから……あっ!!! 天井が開いてやがるっ!
あそこか!
でだ! 鍵をぶっ壊して開けるだぁ?
開くわけねぇだろっ!!!!
バカか?
いやいやいや!
一番驚いたのがあのジジイだっ!
昨日まではジジイだったはずだっ!
んが、今じゃ若返っちまってやがる!!
なにがあった?
二人の侵入者にジジイの若返り……
何がどうなってやがる。
このままじゃ殺されて終わるぞ。
……
冗談じゃない!
死んでたまるかっ!!!!
……お疲れ様……
「筋肉バカはほっといて、まずは合言葉」
(やっぱり)
「い、命を保証をしてくれ! じゃないと教えねぇ!」
堂々巡りだわ。
なにか打開策はないんですか?
「わかった」
おっと。
意外と簡単にオッケーが出たようだ。
なにか考えがあるんだろうか。
「……」
あれ? マルクさん、黙り込んじゃったよ。
簡単にオッケーが出たんで逆に心配になっちゃったんだろうか。
「早く言えよ」
リック君、拳から血が出てますよ?
ま、さ、か……素手で石の壁を殴ったんですか?
……
これは……バカ過ぎる……けどまぁ、治療してあげようか。
確かさっきのリストの中に『治癒魔法』って書いてあったしね。
「手を治療しようか?」
「お? いいのか? わりぃな」
俺の問いに悪びれることなく右手をグイッと差し出してきた。
俺はリックの右拳に手をかざし、傷が塞がるようにイメージした。
おっと、あんた、骨にヒビ、入っちゃってるよ? 痛くないのかね?
ついでだから治しておくけどね。
サービスだよ? 今日だけだよ?
「……お? はえぇな。グランのおっさんよりはえぇ!」
グランのおっさんが誰だか知らないけど治癒系の魔法を行使できる人だとは察しがつく。
それより早いってことは、凄いのか? よくわからん。
「はい、終了」
横目て見ていた馬乗り女が
「リックより使える」と褒めてくれる。
「そりゃどうも」
えへへと頭の横に手を添えて謙遜する俺。
「なにぃ!!!」
リック君、おかんむり。
ここで俺はちょっとした提案をしてみた。
「見ての通り、治癒魔法が出来るんで彼を瀕死の状態まで痛めつけても大丈夫ですよ」
「なっ!!!」
マルクさん。顔面蒼白です。
目だけギョロギョロさせて俺とリックと馬乗り女を凝視してる。
目があった俺はニッコリと笑ってやった。
フフフ……思い出したわ。
さっき「今日もメシ抜きだ」って言ってたよね。
今日もってことはここんとこ、ずっと飯抜きだったってことだよね?
……
食い物の恨みは恐ろしいんだぞ。
「わ、わかった……あ、あいことばは『地下牢獄の鬼は赤い顔』だ」
おっと。
合言葉を聞いたら彼女、さっさと立ち上がって看守部屋に行っちゃったよ。
「で? 鍵はどこにある?」
入れ替わりにリック君がマルクのすぐ横に来て彼の腹の上に足を乗せていた。
案外コンビネーションがいいね。
「か、鍵は主任が持ってるはずだ……主任は……今日は休みだ」
あら残念。合言葉がわかっても……鍵がないとねぇ……
「嘘つけ。お前も持ってるんだろ? はやく出せよ」
リック君、マルクの言葉を全然信用してないね。
ま、俺も信用してないけどさ。
「も、持ってねぇものは出せねぇって。無理言うな」
マルク、必死の抵抗。
思うにマルクはそれほど高い地位の人じゃないっぽいしね。
なにせ、メシを配ってるような人だし……雑魚感半端ねぇし。
こんな奴に大事な鍵、預けられんだろ、絶対……って思ったけど、マルクのやつ、やけに胸のあたりを守ってる感じ……
「はっはっは、君、僕がおとなしく聞いているうちに出さないと……怒っちゃうよ?」
……
リック君、怒っちゃうとか言ってる側からこめかみに青筋立っちゃってますよ?
絶対怒ってるよね?
「う、うるせー! まずはその汚ねぇ足をどけろっ!!」
「っくそがっ!」
ベキッ!
嫌な音とともに寝ていたマルクさんの身体が俺のいた牢屋の方にぶっ飛んでいった。
……あっという間の出来事でしたね。
……
マルクさん、ピクリとも動かない。
首……変な方に曲がってますけど。
あれ?……死んだ?
死んだら治癒どころじゃないよ?
どうすんの?
俺はどっこいしょと立ち上がり、マルクさんの元へ行き、彼の生死を確かめる。
……鼻から血が流れ出ています。
首が90度ほど右に曲がってます。
息、してません。
脈、止まってます。
白目むいてます。
はい。完全に死んでます。
……
どうすんの? 鍵なきゃドアは開かないんだよ?
簡単に蹴り殺しちゃって!
「早く治療してやれよ」
リック君が呑気にそう言って俺の横に来た
「死んでますけど?」
「……え?」
「死んでしまったら治すも何もないんですけど」
「バカリック」
(ほんとバカ)
戸口から顔だけ出して馬乗り女が言い放つ。
「い、いやいやいや! かーるく蹴っただけだぞ? 普通死なないだろ?」
リック君、脂汗が凄いよ。耳も真っ赤だわ。
こりゃ大事だね。
まぁ、自業自得? 自分が悪いんだからしょうがないよね。
とはいえ……鍵か……




