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第99話 悲しみは突然に


 セカンドがいつものように由良さんに連れられた後、私は豊と共に先程まで白花が本を読んでいた部屋で彼女を待つ事にした。


「ねぇ豊、そういえば今日隣のクラスの女子にチヤホヤされてなかった?」

「はぁ? されてねーよ」

「嘘だね。鼻の下伸びてたもん」

「伸びてねーよ! 杏だって入学早々、先輩方がお前目当てで教室に来てたじゃないか!」

「興味無いもん」


 私が興味あるのは豊だけだもん。そう言ったら目の前のこの男は何と言うだろうか?

 物心つく前からずっと一緒にいる幼馴染。それでいて、私の中で最も特別な人。正直、豊は女性陣から人気がある。本人には絶対言わない。変に意識して他の女子を気にしてしまわないように。


「まぁ……いいや、さて今日は何してセカンドを待とうか」

「うーんどうしようか? セカンド、今日は早く帰ってくるのかな」

「そうだといいな」


 セカンドは私達ともう1人の幼馴染。

 幼い頃、突然この施設で保護された不思議な少女。そこで唯一歳が近い私と豊と出会って、仲良くなるのにそう時間はかからなった。

 彼女は私にとって、唯一無二の大親友でもある。彼女が学校にいたら、どんなに良かったかと何度考えた事だろうか?


「あ、いたいた!」


 部屋の扉が開くと共に女性の声が聞こえた。豊の両親、美奈さんと湊さんだ。


「あっ美奈さん、湊さん! こんにちは!」

「杏~! 相変わらず可愛いわぁ! 中学の制服も素敵じゃない!」

「入学おめでとう。杏ちゃん」

「えへへ……ありがと! セカンドならさっき由良さんと行ったよ」

「さっきそこですれ違ったよ。それよりも美奈、あの話、本気なのか?」


 あの話? なんの話なんだろう?

 2人の会話に素朴な疑問を抱いた。


「もちろん、前からずっと意見書は出してたけど、ここのセカンドに対する扱いは酷すぎるわ! だからあの子がここを出られたら、時庭家に迎えるの! それで素敵な場所に沢山連れて行って……そうだ! お父さんの伝手で学校にも行かせてもらいましょう!」

 

 衝撃のプランを語る美奈さんにツッコミをいれたのは、もちろん息子の豊だった。


「ちょ、ちょっと待って母さん! セカンドが家に住む? 俺聞いてないけど!」

「だってさっき決めたもの」


 目の前で交わされる親子の会話は私にとっても緊急事態だ。豊の家に女の子が住む? それも現実離れした美しい容姿を持つセカンドが? まずい……非常にまずい。私は豊のように鈍感じゃない。セカンドが私と同じ気持ちを豊に抱いている事くらい知ってる。そんな状況で豊と同棲なんかされたら決定的な差が生まれてしまう。


「美奈さん……流石に年頃の男女を一緒に住まわせるのは……」

「あら駄目なの? でも私、もう決めたから」


 あぁ駄目だ。こうなった美奈さんの意思はテコでも動かない。


「よし、こうなったら所長に直談判してくるわ!」

「ちょ、ちょっと美奈!」

「母さん! まだ話は終わってないよ!」


 息子と夫の制止も空しく、美奈さんは部屋を出て行った。そんな彼女を豊と湊さんは追い、私はぽつんと1人部屋に取り残された。


 どうしよう……こうなったら私も毎日豊の家に行こうかな? うん、それが良いそうしよう。じゃないとセカンドに負けちゃう……でも、セカンド良い子だし私が男なら絶対惚れるなぁ……はっ! ダメダメ私! いくら相手が大親友だからって、豊の事だけは負けないって決めたじゃん!


 脳内で乙女の作戦会議をしている最中、再び部屋の扉が開く。豊が帰ってきたと思ったがその想像は外れた。室内に入ってきたのは空の段ボールを抱えた男性職員2名だった。


「よし、早速やるか。お前はそっちの棚を頼む」

「りょーかい」


 職員達は私に構わず、本が敷き詰まった棚や辺りに置かれたセカンドの私物を次々とダンボールに入れ始めた。


「あ、あの! それセカンドが大事にしている物なんですけど……どうしていきなり片付けちゃうんですか?」

「どうしてって……もう必要ないからだよ」

「え……? ど、どういう事ですか!?」

「えっと……ほら」


 私が声をかけた職員の1人が1通の書面を私に差し出す。

 内容に目を通した私は……絶句した。


 ――被験体002。通称セカンドについて


 被験体002(個体名セカンド)を本日限りで処分。

 同個体の生命活動停止を確認後、速やかに解剖。

 血液、臓器、生殖器の保管。特に脳は今後の重要な研究材料の為、扱いには細心の注意を払うこと。


 処分? 解剖? セカンドは殺されてしまうの?

 混乱の最中、もう1人の職員が私にこの書面を見せた職員に叫んだ。


「おい馬鹿! その命令は極秘だろ!」

「あっやべ! な、波里先生の娘さんだよね? この事はどうか内緒で……」

「ねぇ! セカンドを処分ってどういう事!?」


 私の質問に職員はほら言わんこっちゃないと言わんばかりに機密情報を安易に流出させた職員を睨み、再び私に向き直った。


「そのままの意味だよ。あの子とは今日でさよならなんだ」

「意味わかんない! 研究が終わったらセカンドは外に出られるんじゃなかったの!?」

「……それはあの子が言う事を聞いてくれるようにと……嘘も方便ってやつさ」

「……っ!? じゃあ今まで騙してたの?」


 自分の事ではないのに、悔しくて涙が溢れ出た。

 張り合う事はあるけど、お互いを理解しあってる大好きな唯一無二の大切な親友。

 いつか訪れると信じていたその日まで、嫌いな注射を1日何本も受けては「杏、今日も頑張ったよ。泣かなかったよ」って帰ってきたあの笑顔がもう見れない?


 そんなの嫌だ……絶対に嫌だっ!!


 大人の勝手な都合で……セカンドが死ぬなんて! 絶対にさせない!


 私は書類を握りしめたまま、部屋を飛び出した。

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