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第79話 相変わらずでした


 一大イベントを終え、俺は白花と共に民宿「森と海」への帰路を進んでいた。

 

「ふんふ〜ん♫」


 宿が無いはずだった白花が能天気にも隣で鼻歌を歌う。こんな時間から彼女が泊まれそうな宿は無く、困った俺は伊鈴さんに電話をすると、伊鈴さんは訳を聞くなり「どうして家に泊めるという選択肢が先に出てこないのかしら?」とちょっと怒られた。

 

「豊と一緒♪ 豊と一緒♪」

「まったく……伊鈴さん達がいなかったら危うく野宿だったぞ?」


 伊鈴さんのご厚意で白花も森と海で泊めてもらえる事になり、なんとか彼女の寝床問題は解決できた。当の白花は俺と同じ屋根の下で眠れると知り、それはもうご満悦の様子だ。

 

 そんな調子で歩き続けて数十分、ようやく森と海に辿り着くと玄関から伊鈴さんが出迎えてくれた。


「おかえりなさーい!」

「伊鈴さん、突然無理言ってすいません……」

「いいのよいいのよ! それより隣にいる子が白花ちゃんね?」

「し、白花です! 今日は私も泊まらせていただきありがとうございます!」

「いやぁ~超可愛いくて、礼儀正しい子ねぇ! 今日は一ノ瀬ちゃんも涼森ちゃんも家族で過ごすからここへは帰ってこないし、この宿には私達とあなた達だけしかいないの。だからゆっくりしていってね!」


 正直俺としては今日あの2人が帰ってこないのはラッキーだ。もしこの光景を見られたら、ちょっと堅物な一面がある一ノ瀬会長には何言われるかわからないし、はなたにいたっては暴れだしそうだ。


「それじゃあ……部屋に案内するわ! 白花ちゃんの部屋もちゃんと用意したからね!」

「あ、あの……伊鈴さん」

「ん? どうしたの? 白花ちゃん」

「私、豊と一緒の部屋で大丈夫です!」

「「え?」」


 伊鈴さんと俺は白花の言葉で固まってしまう。


「い、いやいやいや! 白花? なにも俺と一緒の部屋じゃなくても……」

「私、豊と一緒がいい! 駄目ですか? 伊鈴さん!」

「わ、私は別にいいけど……」

「やった! 豊! 今日は一緒に寝れるね!」


 この言葉に深い意味は無い。白花はただ俺と同じ部屋で眠りたいと言っているだけで他意はない。しかしそれは白花という人間をよく知っている俺だからわかる事であって、1分前に彼女と出会ったばかりの伊鈴さんはそうではない。現に白花の言葉に驚いて「最近の子は大胆ね……」とボソッと呟いた。


 結局同じ部屋で寝る事なり、俺の部屋に辿り着くと白花は目を光らせて、室内を見渡した。


「ここが豊の部屋かぁ! 恵花市の家とは全然違うね!」


 この部屋に白花がいる……なんだか不思議な感じだ。

 ……おっと、そんな事考えている場合じゃない。まずは白花がここに来てしまった事を杏に連絡しなければ。


「白花、とりあえず杏に連絡するぞ。いつまでも帰ってこなかったら心配するだろうし」

「そ、そうだよね……」


 自分のしでかした事の大きさが多少なりとも理解できているのか、少し不安気な顔で白花はスマホで杏の電話を呼び出した。


「……やっぱり怖い! 豊! 代わりに説明して!」

「え、えっ!?」


 急に白花がスマホを俺に渡す。本来なら「自分で言え」と返すべきだったが、そうするよりも前にスマホから杏の声が聞こえてまい、慌てた俺は戸惑いつつも、そのままスマホを耳に当てた。


『もしもし白花、どうしたの? あれ? 聞こえてないのかな……』

「あ、杏……」

『……え、豊!? どうして白花からの電話で豊の声が聞こえるの!?』

「あ、あのさ……」


 俺は事の経緯を説明した。そして、話を終えると杏は静かに『そう……じゃあ、白花に代わってもらえる?』と一言。

 その言葉に従って俺はスマホを白花に渡すと、彼女は恐る恐るスマホを耳に当てた。

 

「あ、杏……?」


 白花がそう言うと、彼女の顔がみるみる青ざめてはスマホを持つ手がプルプルと震え始めた。一体、杏とどんな会話が交わされているのやら。

 そして数分後、話が終わったのか通話を終えた白花は大きなため息を吐いた。


「どうしよう……帰るのちょっと怖い」

「言わんこっちゃない。明日帰るのか?」

「……実はそのことなんだけどね、私は月曜日も休みだから明後日の朝に帰っちゃ駄目? できるだけ、豊と一緒にいたいよ」


 上目遣いでそう言う白花。これに逆らえるほど俺は強くない。なので断るのを諦め、白花の願いを聞き入れる事にした。


「偶然だな、俺も月曜日休みだし構わないけど、ちゃんと明後日には帰るんだぞ?」

「やった! じゃあ明日は一日中、豊と一緒にいられるんだね!」


 さっきまでの不安気な表情が一転、笑顔になった白花は俺に抱きつくと、スリスリと頬擦りを始めた。


「ば、ばかっ! いつも言ってるがすぐ抱きつくな!」

「え~いいじゃん!」

「良くない!」

「じゃあキスは?」

「駄目に決まってんだろ!」


 そう言いつつも俺は先程の彼女からキスされた事を思い出し、心臓の鼓動は早まり体温も上昇していく。

 このままじゃマズイ……きっと何か間違いを起こしてしまうかもしれない。他の事を提案しなければ……。

 煩悩を払うように「そうだ」と言って白花を引き剥がした俺は咄嗟に思いついた事を口にした。


「お、俺はそろそろ風呂に入ってくる!」

「え? じゃあ一緒に入る!?」

「入るわけ無いだろ!」


 白花は相変わらず白花だった。

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