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君が消えるまで 私は花を愛でよう  作者: ノクアム
秋風の奏に紅葉は踊る
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第63話 思いもよらないことになりました

 

 文化祭が終わり、いつもの日常に戻った校内。

 今日は担任との2者面談。卒業後の進路を決める大事な面談だ。

 自分の番が回ってきた俺は担任が待つ部屋の扉をノックすると、すぐに扉の向こうから担任の声が聞こえた。


「はいどうぞ」

「失礼します」


 入室した俺は担任の向かい側に座る。担任はおもむろに事前に渡していた進路希望調査の資料を見ながら口を開いた。


「えーと……時庭は進学希望で間違いないか?」

「はい。就職も考えましたが、じいちゃんと話しあった結果です」

「そうか……第1志望はB大学で間違いないか?」

「はい」

「学部は?」

「……まだ絞れていません」

「ふむ……大事な選択だからな。しっかり考えて決めるといい。しかし、そこまで時間が残されているわけでもないからな?」

「はい……」

「ちなみに気になっている学部はあるのか?」


 大学進学という大筋は決まったものの、そこで何を学ぶかはまだ決めていなかった。もちろん()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、1歩踏み出せずに自分の中にこの気持ちを隠していた。

 しかし、今はそれを相談できる場。

 俺は覚悟を決めてじいちゃんにも相談できなかった胸に秘めた思いを打ち明けることにした。


「……去年新設された考古学部です」


「なっ!? お前本気か!?」

「……はい。小さい時から憧れていたんです」

「でもお前は……」

 

 担任のリアクションは当たり前だ。俺の両親、そしてじいちゃんは考古学者。息子の俺がその道を進むこと自体はなんら不思議ではない。

 では何故担任がここまで取り乱したのかと言うと、俺の両親が亡くなったあの事故をもちろん知っているからだ。


「わかってます。なので今もこうして自分でも踏ん切りがつかないんです。とりあえず……もう少し考えてみるつもりです」

「そうか……」


担任はそう言うと、腕を組んで目を瞑る。そして少しの沈黙の後、ふーっと一息吐いて目を開いた。


「時庭、お前がB大を第1志望に置く理由はわかった。ただそうなるとお前には大きな壁がある。B大の受験は特殊でな……あの大学は筆記試験の点数はもちろんだが、それ以上に内申書の内容を重視する。俺がなにを言いたいかわかるな?」

「……去年の停学が足枷になるんですね?」

「そうだ」


 今でも、あの時に杏を襲ったくそ野郎共を殴ったことに後悔は無い。もちろん自分の未来に影響することもわかっていた。退学になることも覚悟の上で取った行動だったし、むしろ停学で済んだのが奇跡だ。

 

 だからきっと俺は内申書にあまり左右されない他の大学への受験を勧められるのだろう……。


そう思っていた。


「時庭……俺は正直言って、あの時のお前の処分に納得がいっていない」

「え?」

「あの時のお前の行動は最善ではなかったかもしれない。それでもだ、お前に処分は下されるべきではないと俺達教員は考えていたんだ」

「じゃ、じゃあ、どうして俺は停学になったんですか?」

「……お前が殴った生徒の中に教育委員会役員の親を持つ生徒がいてな……その親が『先に暴力振るった生徒も退学にするべき』と主張したんだ」


 そう言った担任は一呼吸おいて、俺を見据ると悔しそうに顔を歪めた途端、突如俺に頭を下げた。


「せ、先生!?」

「時庭……すまなかった! あの時、俺達教員は権力に怯えてお前を守ってやれなかったんだ!」

「でも、退学から停学まで処分を軽くしてくれたじゃないですか?」

「それが精一杯だった! それに停学まで処分を軽くできたのはお前に処分が下されると知り、激昂したお前の祖父がアクションを起こしてくれたなんだ!」

「じ、じいちゃんが!?」


 初耳だ……俺が停学になった時、じいちゃんは特になにも言わずにいつもように接してくれたのに。


「知らなかったのか?」

「はい……」

「そうだったのか……ともかく本題だが、あんな停学でお前の受験が不利になるなんて俺は納得できない。だから、あくまで俺個人の罪滅ぼしだが……時庭が望むのなら、特例であの停学の件が受験に支障を及ぼさないように、俺達教員が立ち回ろうと思う」

「そ、そんなことができるんですか!?」

「あぁ……ただし条件がある。時庭、お前にはしばらくこの学校とは別の学校へ通ってもらうことになる」

「別の学校? ちなみにどこですか?」


「——釧路くしろだ」


「く、釧路!?」


 まさかの提案に息を呑む。

 釧路……北海道の東に位置する街、しかし同じ道内といっても恵花市から電車で約5時間。とても家から通学できる距離ではない。


「釧路ってことは、その間はあっちに住むってことですか?」

「そうだ。今年から向こうの学校と一定期間の交換学生制度を設けてな、期間は3ヶ月。残り1人の枠にお前の名前を滑り込ませる。この話を受けてくれれば校長を交えて、B大にお前の停学は不適切な処分だったと伝えた際、その後の学生生活は目を見張るものがあったと掛け合える」


 3か月か……そこまで長い期間でもないし、それでチャンスが広がるなら……。

 担任の提案にデメリットはほぼ無いように思えた俺に迷う時間は必要なかった。


 それに俺があの大学を第1志望にした理由は……他にもある。


「——わかりました。行きます」


「そうか……よし、それなら早速手続きに移るからな」

「はい」


 たった3ヶ月。なんてことはない。

 そう思いつつも俺の頭の中には白花と杏の顔が浮かび、心は寂しさを感じていた。


 あいつら……なんて言うかな……。

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