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君が消えるまで 私は花を愛でよう  作者: ノクアム
秋風の奏に紅葉は踊る
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第54話 みんな褒めてくれました

 文化祭まで残り2週間と迫り、私達のクラスは催し物であるメイド執事喫茶に向けて準備を進めていた。


「時波さん! ちょっといい?」

「どうしたの?」


 声をかけてきたのは、衣装担当の女子生徒。その手には文化祭当日に着る予定のメイド服を持っていた。


「これ、時波さんの衣装なんだけど、ちょっとサイズ合わせてもいいかな? ほら時波さんって……胸が大きいからさ……そのあたりの作りが他の女子と比べて違うんだよね……」

「そうなんだ! じゃあ着てみるね!」

「ありがとう!」


 私は更衣室で衣装に着替え、教室に戻る。

 すると、クラス中の視線が私に集まった。


「ど……どうかな?」

「「……」」


 クラスメイトは言葉を失っている。


 もしかして、似合ってないのかな……?


 そう思った瞬間、クラスメイト達はどっと沸き上がった。


「うおぉぉぉぉ! なんだあの可愛さは!?」

「うぅ……ぐす……俺、このクラスで良かった……」

「私、文化祭の準備で徹夜続きだったけど……もう疲れを感じないわ!」


 皆の反応から、どうやら似合っていないわけではないようだ。

 それなら……今、買い出しに行っている豊と杏にも見てもらいたかったな……。

 

「どう? 時波さん。きつくない?」

「大丈夫だよ! ありがとう!」

「良かった~あっ! 買い出し組が帰ってきたみたいだね」

「えっ!?」


 すぐさま教室の入り口の方へ振り向くと、そこには豊と杏を含めた買い出しから帰った人達がいた。

 皆が褒めてくれたこの姿を豊と杏にも見てもらいたくて、2人のもとへ駆けだした。


 「おかえりなさい! ねぇ見て見て豊、杏! どう?」


 私がくるっと1回転してメイド服姿をアピールさせると、まず杏が反応してくれた。


「わぁ! 白花、すっごく可愛い!」

「えへへ……ありがと杏! 豊はどう? この衣装、似合ってる?」

「……あ、あぁ。良いと思う」

「良かったぁ!」


 豊と杏から褒めてもらえたことに喜んでいると、2人と一緒に買い出しへ行っていた東君も私を見て感心した様子を見せる。


「おぉ~すげぇ似合ってるんじゃん白花ちゃん!」

「ありがと東君!」

「どういたしまして。てかさ、聞きたいんだけど豊の左頬、朝から凄い赤いけどどうしたの? 本人に聞いても教えてくれないんだけど……」

「あぁ……あれは~」


 東君の言う通り、豊の左頬は肌荒れして赤くなっている。原因はそこでわざとらしく「コホン」と咳払いする杏。昨日、豊の家に泊まった涼森さんが豊の頬にキスしたせいで、取り乱した杏が豊の頬をタオルでゴシゴシとかなり強く擦り続けたからだ。

 そのおかげで豊の左頬は真っ赤になって、まだ赤みが引かない。

 ちなみに杏はこのことを反省しつつも「恥ずかしいから秘密にして」と頼まれていた。

 だから、この場でも真実は言わずになんとかごまかそうと咄嗟に頭に浮かんだことを口にした。


「えっと……()()()()()()()()()()()()()()()()を、杏に見つかって頬を叩かれたの!」

「「はぁ!?」」


 豊と東君の声が見事に重なり、杏は驚きでポカンと口を開けている。


 しまった! 私が昨日見た夢と混ざっちゃった!

 

 しかし、1度吐いてしまった言葉は取り消せない。豊はそのまま事情聴取の為、東君を筆頭とした複数の男子生徒に連れていかれた。その様子を見ていた私の肩に杏が手を置いて溜め息をつく。


「はぁ……白花? 私が言えることじゃないけど、もう少しマシな内容で誤魔化せたら良かったかな……。あれじゃあ、豊が濡れ衣を晴らすのも大変だよ?」

「ごめんなさい……本当の理由は言わないでって杏にお願いされたから、咄嗟に言っちゃった……」

「ぐぅ……それを言われたら、私は何も言えないや。とりあえず作業再開しよっか!」

「じゃあ私は着替えてるくね!」

 

 ――更衣室で着替え終えた私は再び教室に戻る最中、ふと昨日のことを思い出していた。


 昨日の涼森さんが豊の頬にしたキス……あれを見た時、今までないくらいに気持ちがざわついたのはどうしてだろう?

 今まで似たような感覚は何度も感じたことはあるけど、昨日のあれはそれだけじゃ説明ができないくらい、なんというか、モヤモヤが大きかった。

 それだけじゃない。最近、前よりも豊のことばっかり考えてる気がする。


 ――どんな時でも豊の隣にいたいなぁ。


 そんなことを考えていると、私の願いを叶えるかのように廊下を歩いた先に豊の姿が見えた。


 1人で廊下を歩いている豊に私はたちまち笑顔を浮かべて、彼のもとへ駆け出そうする。

 しかし、それよりも先に誰かが豊に話しかけた。

 相手は先程私に、衣装のサイズが合っているか確認をしてきたクラスメイトの女の子。なにやら、豊と楽しげに話し合っている。


 ……なに話しているんだろう?


 この距離では話の内容までは聞こえない。

 おそらく衣装関係のことだろうと想像しながら、駆け出しはせずにゆっくりと豊の元へ向かっていると、笑い合って会話する2人を見て胸の中がモヤモヤする。


 ……私、どうしちゃったんだろ?


 違和感を覚えつつも豊に近づいていくと、彼は私に気づいてクラスメイトとの会話を終わらせる。そして眉間に皺を寄せて私を睨んだ。


「おい白花! さっきの誤魔化方は駄目だろ!」

「ごめんなさい、昨日見た夢が混ざっちゃった。でも、東君達に解放されるの早かったんだね」

「女性陣から『作業が立て込んでるから手伝って』って言われたから一時的に俺の判決は保留になっただけだよ」


 そう言いながら、「まったく……」と困った様子の豊を見るだけで胸が暖かくなるのを感じる。

 やっぱり豊のそばが一番心地良い。豊が私だけを見てくれているこの瞬間がずっと続いてほしい。


 しかし今度の願いは叶わない。教室から東君が豊を呼ぶ。


「おーい豊! ちょっと手伝ってくれ!」

「うーい」

「あ……豊……」


 豊が離れていくことに寂しさを感じていると、今度は女性の声が豊を呼んだ。

 声の主は涼森さんだった。


「豊さん! 昨日はありがとうございました! あんな幸せな夜を過ごしたのは生まれて初めてです!」


 廊下に響き渡る程の大きな涼森さんの声を聞いた者は全員豊に視線を向ける。


 そして豊は再び、鬼の形相をした男性陣に連れて行かれた――。

 

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