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君が消えるまで 私は花を愛でよう  作者: ノクアム
昼下がり、蝉が鳴く
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40話 無罪放免でした

「さぁどういうことか聞かせてもらいましょうか? 時庭豊君?」


「いや……その……」


 帰宅するや否や、玄関で正座をさせられた俺の前には腕を組み、それはもうご立腹な様子の杏。そんな彼女の後ろには「我々は説明を受ける権利がある」と書かれた、ポスター程の大きさの紙を持った白花がいた。


「今日は江夏君と会う予定じゃなかったの?」


「東には会ったんだ。ただ……これが話すと長いんだが……」


 俺は今日の出来事を2人に話した。東が幼馴染と婚約を前提に交際を始めたこと、俺と一緒に写真に写っていた女性は東の婚約者の連れで2人とも涼森と仲が良いこと、俺の個人情報が涼森に流出したこと、そして杏と白花が、なぜか怒る原因となったあの写真はおそらく間違えて投稿されたことなど事細かく。しかし全部を話すわけでは無い……杏が取り乱すので、彼女が何よりも嫌うあの話題だけは話さなかった。


 一通り話し終えると、杏の表情は先程よりほんの少しだけ和らいだようだ。


「じゃあ、その篠原って後輩が投稿した文章は、江夏君とそのお相手さんを祝ったものなのね?」


「……そうとしか考えられないです」


「ふーん」


 杏の表情を見る感じ、「事情はわかったが、それじゃあ私の気持ちが収まらない」といったようなものか——いや、待て。そもそも俺が誰と写真を撮ろうが杏に怒られる筋合いはないはずだ。


「白花ちゃん、どう思う?」


「……」


「白花ちゃん?」


 杏の言葉に白花は反応せず、俺をじっと見つめている。


「白花? 俺の顔になんかついてるか?」

 

 そう言うと、白花はようやく口を開いた。


「豊……大丈夫?」


「い、いきなりどうしたんだ?」


「なんとなくだけど……豊、ちょっと具合悪そうに見えたから……」

 

「え?」


 驚きのあまり声が出る。たしかにあの店で東達と話していた時、不意にあの言葉を聞いてしまったせいで、いまだに寒気と頭痛が続いていたが2人を心配させまいと、表には出さないようにいつも通りに振舞っていたつもりだ。隠せるくらいには回復したと思っていたが……隠せていなかっただろうか? いや、ならば帰ってきてすぐ気づかれると思う。


「……なんともねーよ。そんなに具合悪そうに見えたか?」


「そんな気がしただけなの! 私の思い過ごしだったらごめんね!」


 確証がないのだろう。手を振りながら白花がそう言うと、次は杏が両手を俺の頬に添えて心配そうに顔を覗き込む。


「あ、杏……?」

「……本当は何かあった?」


 じっと俺の目の奥を見つめている彼女の表情はかなり強張っている。帰宅した時から怒ってはいたが、まだ彼女らしい優しさがあった。しかし今の顔は恐怖すら感じるほど、何か鬼気迫るものがある。しかし、彼女のこの表情を見るのは初めてではない。最近だと5月にまだ言葉がほとんど話せなかった白花と杏と一緒に恵花けいかガーデンに行った時、久々に出会った由良さんがうっかりあの言葉を口にしてしまった時だ。


 もしかしたら杏は俺の外出先で「あの話題がでたのではないか?」と、勘づいたのかもしれない。


「……なにもなかったぞ? どうしたんだ? そんな怖い顔して」


 バレないようにしなければ……《《あの話題》》を誰よりも嫌うのは当事者である俺ではなく彼女なのだから。


「……なら、いいけど。無理しないでね? 返事は?」


「はい」


「よろしい。私、飲み物持ってくるね」


 杏が飲み物を取りに行くと同時に俺は正座していた足を崩して立ち上がる。今日はまだ短い時間だったおかげか、あまり痺れていない。その足でリビングに向かうと俺を待っていたのか、白花がソファに座って太腿をポンポンと叩いた。


「豊、おいで?」


 俺は察する。状況からして白花は俺に膝枕をさせてくれようとしているのだろうが、だからといって「じゃあ失礼します」と彼女の太腿に頭を乗せるなど俺にできるわけがない。


「ど、どうしたんだよ?」


「いいからいいから! ほら、こっちきて」


 そう言うと、白花はソファから立ち上がって俺の元へ来ては肩を押して強引にソファに座らせる。


「お、おい!」


 座らせた俺の隣に再び白花が座り、これまた強引に俺の体勢を座っている状態から横にした。頭の位置は……やはり彼女の腿の上だ。


「これでよし」


 流されてしまったが、どうして俺は白花に膝枕をされているのだろう……?


 そんなことを考えていると白花が優しく俺の頭を撫で始めた。


「やっぱり……多分だけど、豊疲れてるでしょ?」


「少しだけ……あっ!」


 膝枕と優しく撫でる白花の手が心地良かったせいか、口が滑ってしまった。


「ふふ、強がらなくていいのに」


「強がって……なんて……」


 優しく微笑む白花が俺を優しく撫でるたびに、張り詰めていた何かがどんどんと緩み、やがて睡魔が襲ってくる。

 

「寝ていいよ、おやすみ豊」


 徐々に重くなっていく瞼が完全に閉じるまで時間はそれほどかからなかった。


 薄れていく意識の中で、俺は頭を撫で続ける白花の優しい手と肌の温もりを感じながら、眠りについた——。


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