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君が消えるまで 私は花を愛でよう  作者: ノクアム
昼下がり、蝉が鳴く
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第36話 衝撃の連続でした

 篠原から衝撃の言葉を聞いた俺はレモンスカッシュを吹き出して咳き込む。


「げほ、げほっ!」


「せ、先輩大丈夫ですか?」


「わ、悪い……それで()()()()()()()()()()()って……どういうことだ?」


「言葉の通りですよ? 江夏先輩と陽絵、大学を卒業したら結婚するんです」


「ま、まじかよ……」


 難しくない内容のはずなのに、動揺のせいか内容を飲み込みきれていない俺は自らを落ち着かせる為にレモンスカッシュを飲み直していると、篠原が注文していたパンケーキが運ばれてきた。


「おまたせしました! こちらパンケーキです!」


「うわぁ! おいしそ~!」


 テーブルに置かれたパンケーキを篠原は、まずスマホで写真を撮ってからフォークとナイフを手にする。


 会話が一旦中断となり、俺は頭の中で状況を整理することにした。


 普段俺が白花や杏に絡まれているところをあんなに妬ましそうに見ていた東に婚約者がいたとは……しかも相手の陽絵という女性は綺麗な顔立ちに、日々手入れを怠っていないだろうと一目でわかるストレートの黒髪ロングヘアー。そして今は顔を下に向けつつも、背筋は綺麗に伸びている姿は常日頃から所作に気を配っている証だ。


 2人を見る俺の思考を読んだのか、篠原がパンケーキを口に運びながら会話を再開させた。


「陽絵、凄い可愛いし雰囲気もお嬢様っぽいでしょ? まぁほんとにお嬢様なんですけどね。学校も超お嬢様学校だし」


「やっぱりそうなのか。なんていうか……オーラが違うもんな。あんな女性が東と婚約してるとは、にわかに信じがたいんだが」


「そう言っても、本当のことですから」


「東のやろう、こんなこと今まで隠しやがって」


「しょうがないですよ。つい最近まで、お互い2度と会えないって思ってたんですから」


「どういうことだ?」


「さっきも言ったようにあの2人、幼馴染で小さい頃から一緒だったんですけど、小学校に入る前に陽絵のお母さんが病気で亡くなってしまったんです」


「てことは……それからずっと父親と2人で暮らしてきたわけか」


「はい。でも父親は仕事でほとんど日本にいないので、彼女が父親の元に……アメリカに引っ越すことになったんです」


「それで2人は離れて暮らすことになったのか……でも、確かに日本とアメリカは遠いけど、2度と会えないってことはないんじゃないか? 正月や盆に帰省することだってあるだろうし、今まさにこうやって顔を合わせてるじゃないか」

 

「2人が『2度と会えない』と思っていたのにはもっとちゃんとした理由があるんですよ。母が亡くなり元気が無い陽絵に江夏先輩が寄り添ってくれてたんです」


「良い話じゃないか。それがどうして2度と会えない理由になるんだ?」


 篠原はパンケーキを口に運ぶ手を止め、スプーンとフォークを1度テーブルに置いた。


「話はここからです。江夏先輩と陽絵の距離が縮まる度に根を葉もない噂を流れ始めました。江夏先輩は『陽絵を通しての彼女の父親が経営する会社を乗っ取る為の差金』とか、『金持ちに恩を売らせるている』とか」


「なんだそれ……」


「酷いですよね? でも、そんないい加減な噂が次第に広がって……遂に江夏先輩の両親が陽絵との接触を禁じたんです」


 彼女の言葉に俺は少し体を前のめりにしながら反応する。


「はぁ!? なんで東の親が……?」


「きっと周りの声に耐えられなかったんでしょう。家に嫌がらせもあったと聞いてますし」


「……そうか」


 彼女の言う通り酷い話だ。大人達の世間体の為になんの罪もない無邪気な子供が犠牲になるなんて……。


「大人達の険悪な雰囲気は当時幼かった2人も充分感じたようで……お互いに迷惑をかけないように距離を離してたみたいです。結局陽絵がアメリカに旅立つ日も彼女が1番見送ってもらいたかった江夏先輩は来ませんでした」


「……子供の頃交わした婚約なんて、あってないようなものだろーに」


 俺がボソッと呟くと篠原はクスッと笑った。


「ですよね、私も初めて聞いた時は驚きました。『こんな漫画みたいなことあるんだ』って」


「同感だな。でも一体どうして、今になって再会できたんだ?」


「実は陽絵、家の事情で高校は日本の学校で過ごすことになったんです。本当ならすぐ江夏先輩にも伝えたかったみたいなんですけど、引っ込み思案な性格も相まって今まで言い出せなかったんですよ」


 まぁ確かに、もし仮に俺が雅のような立場だったら約10年ぶりに会った幼馴染に「久しぶり! あの時交わした婚約忘れてないよね?」とは言い出すどころか会うことすら気まずい。

 

「春には帰ってきてたのに、1歩が踏み出せず夏になってしまったわけか」


「そういうことです。きっかけは私達の共通の友人が撮った写真に偶然江夏先輩が写っていたことでした」


「それは……すごい偶然だな……」


「はい。それに陽絵と仲の良い私と同じ学校だったから、特定までは時間もかかりませんでした。幸いにも時庭先輩と同じクラスでしたし」


 俺は篠原の言葉のある部分に引っかかった――「幸いにも俺と同じクラス」だと?


「どうして俺と東が同じクラスだと幸いなんだ?」


「だって時庭先輩は……あ!」


 言葉を全て言い終わる前に篠原は東達が座っている方をら見ながら、声をあげた。その声に反応するように俺も彼女と同じ方向に視線を移すと、視界に入ったのは東がテーブルの向こう側の雅の手を握っていたのだ。


 そんな光景を見て、篠原は両手で口を覆いながら女性らしいリアクションをする。


「きゃー! 江夏先輩大胆!」

 

「おい、東の手、ちょっと震えてないか? かっこつかねぇなー」


「確かに堂々としてた方がかっこよかったですけど、肝心の陽絵も顔真っ赤!」


「耳まで真っ赤だな……それになんか俺達をちらちら見てるし」


「ほんとだ……よし時庭先輩、私達は1度店の外に行きましょうか。見知った顔がいたらあの2人も気にしちゃうと思うので」


 正直このまま東があの真っ赤な顔の婚約者になんて言ったのか非常に興味があったが、ここは篠原の提案に素直に従おう。


「そうだな。じゃあとりあえず、俺達の分の会計だけ済ますか」


 篠原と共に席を立ち、2人分の会計を終えて店の外に出ると、彼女はすぐ近くのベンチに腰掛けた。


「少しここで時間つぶしましょうか先輩。ほら、となり座ってください」


 言われるがまま、彼女の隣に座ると彼女が俺の顔を覗き込む。


「な、なんだよ?」


「時庭先輩って、あんまり目立たないのに整った顔立ちしてますよね」


「いきなりどうした? 褒めても何も出んぞ」


「そんなつもりじゃないですよ? 話は変わりますがどう思いますか? あの2人のこと」


「東達のことか?」


「他に誰がいるんですか?」


 彼女の質問に俺は少し考えこんで、これから自分が口にする言葉は気恥ずかしいのか、はたまた親友への祝福かはわからないが少し口角を挙げてこう言った。


「……お似合いだと思う。子供の時から好きな相手と結ばれるなんて、素敵なことだ」


 やはり少し恥ずかしい……「言わなきゃよかった」と後悔してると、篠原も笑顔は見せていた。


「ふふ、こりゃ()()()が惚れるのも頷けます」

「……え?」


 彼女の言葉についさっきまで感じていた羞恥心はどこかへ吹っ飛ぶ。


「おい、はなたって……涼森のことか?」


「はい、私と陽絵の共通の友達ってはなたのことですから!」


 この世の中は狭いなぁ……。

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