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君が消えるまで 私は花を愛でよう  作者: ノクアム
花は理知を蓄え意志を持つ
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第29話 デザートを食べるはずでした

「はぁー美味しかった! 流石北海道、海鮮は本当に美味しいね!」


 昼食を終え、満足そうに腹を抑えながら回転寿司の店を出る杏に「お前、北海道から出たことないだろ」と心の中でツッコミを入れていると、杏がこちらを振り向いた。


「豊、ご馳走様」


 杏が浅いお辞儀をすると、彼女の隣にいる白花も真似するように杏に続く。


「ご馳走様でした!」


「……おう」


 なかば強制的に奢らされたのは非常に不服だが、彼女達の満足そうな表情と素直なお礼に、手に持っている軽くなった財布も少しは報われただろうか? いや、大丈夫だろう。2人とも笑顔だったし、特に白花には忘れられない味になったようだ。


「私、お寿司って初めて食べた!」


「家じゃあ滅多に食べる機会が無いもんな、食事は基本じいちゃんが作ってくれるし」


「うん、もちろん源さんが作ったご飯が1番好きだけど、お寿司も凄く美味しかった!」


「なら良かった。ちなみにどのネタが1番好きだった?」


「たまご!」


「子供か!」


 言動だけではなく、表情まで子供のような白花に少々呆れていると、すぐそばの杏があたりを見回していた。


「杏……? きょろきょろしてどうした?」


「デザートを食べるお店探してるの」


「はぁ!? まだ食うのか?」


「もちろん」


 ただでさえ人並以上に食べる2人だ。昼食の回転寿司でも積み上げられた皿の高さは俺の皿の数倍……2人に奢るという時点で覚悟はしていたが正直なところ、持ち合わせが心もとなくなってきた。


 そもそも高校生には高級な部類に入る回転寿司を昼食に選んだのも、白花が「食べてみたい」と言ったからだ。俺達には食べ慣れた味も、記憶の無い彼女にとって未知の物……そんな白花がねだっているのだから「料金が高いから違うのにしろ」と言えるわけないし、それで彼女と杏が笑顔になれるのならば男としてのはくもつく。


 ……財布の中には、残りいくらあったっけ?


 頭の中で財布に残った所持金を数えている間、杏が白花は俺達が今いるレストランフロアの案内板を見ながら、デザートの店を探し続けていた。


「白花ちゃん、デザートなにが食べたい?」


「うーん、パフェ食べてみたい!」


「あー白花ちゃんパフェも食べたことないのか! じゃあ、美味しいパフェ食べに行こう!」


「うん、でもパフェを食べられるお店って、たくさんあるね」


 2人でじっと案内板をじっくり眺めていると、杏がある1つの店を指差す。


「あっこれ美味しそう! 『北の恵みまるごとパフェ』だって!」


「凄い! メロンやさくらんぼが乗ってたり、ソフトクリームにはハスカップソースがかかってるんだね!」


「そうそう! 北海道で有名なフルーツがたくさん乗ってるし、何よりもパフェ全体のサイズが大きいし食べ応えもありそう!」


「私このパフェ食べたい!」


「決まりだね! 豊、ここ行こ!」


 杏に示された店のおすすめには、先程2人が話していたパフェの写真があった。


 北の恵みパフェ……これか……。確かに美味そうだな、価格は3980円――たけぇ!


 こんなの2人分も頼んだら、今日だけで俺の1ヶ月分以上の小遣いが飛ぶ事になる。


 じいちゃんから毎月貰っている小遣いは元々使う機会などほとんど無かった為、ここ数年の分は多少の蓄えとして残っているから金欠になるわけではないが……だからと言ってホイホイ使って良いとはならない。


「お、おい、お前らさっきたくさん寿司食っただろ? 流石に食いきれないんじゃないか?」


 少しぎこちなさが見える俺の言葉に杏は即答する。

 

「大丈夫、こんなの楽勝だよ! ね、白花ちゃん?」


 杏が自信満々に白花に問いかけると、当の白花は「うん!」といつものような元気の良い返事をせず、少し悩んでいるようだった。


「白花ちゃん? もしかしてお腹いっぱいで完食できる自信無い?」


「そんなことないよ! 食べられるとは思うんだけど……」


「じゃあ、何か他の理由があるの?」


「うん、食べ過ぎで太って水着着れなくなったら嫌だなって思ったの」


 白花がそう言った瞬間、杏が雷に打たれたような表情をした。


「……!」


「杏? どうしたの?」


「な、なんでもないよ! あーそういえば私やっぱりお腹いっぱいかも~、パフェはまた今度にしようかな!」


 こいつ白花の言葉にびびったな。


「え、杏は食べてもいいんだよ?」


「いやいや私も大丈夫、あっ別に最近太ってきたとかじゃないんだからね!? わかったか豊!」


「つまり、『最近太ってきた』って解釈すれば良いんだな?」


「ち、違うよ! ねぇ白花ちゃん、私太ってないよね?」


「……そういえば昨日杏に抱き着いた時、いつもよりぷにぷにしてた」


「白花ちゃん!?」


 白花に裏切られた杏はやけになった様子で歩きだした。


「わかりましたよ! 痩せてやりますとも! 予定変更でパフェは辞めて、スポーツショップに行くよ2人共!」


 そう言ってレストランエリアを出ようとする杏に「もともとが細いし、全くわからない」とは言葉にせず、心の中で留めておく。もしその言葉を口にしてしまえば、安心した杏が、再びあのくそ高いパフェを「やっぱり食べる」とでも言い出して、せっかく免れた俺の財布からの出費が無駄になってしまうのだから。


 ヤケ気味の杏の後をついていこうとすると、白花が笑い始めた。


「ふふふ」


「白花、どうした?」


「なんだか楽しいなって思ったの」


「杏が太ったことがか?」


「違うよ! こうやって豊と杏と一緒にいられるのがだよ!」


「何を今更、ほら杏が待ってるぞ」


 俺と白花の少し先で杏が手を振っていた。


「2人共ー! 早く行こうよー!」


「今行くよー!」


 白花がそう言って、杏の元へと駆け出す。俺も白花の後に続くように歩き出しながら、2人に聞こえない程度の小さな声で呟く。


「……確かに、楽しいな――」


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