第100話 大好きなあなたを失わない為にも
急げ……急げっ!
全速力で廊下を駆け抜ける。すれ違う職員達は一体何事かとでも言うように驚いた様子で私を目で追っていた。
すぐにセカンドが日頃診察を受けている部屋の前につき、ノックもせずに勢い良く扉を開く。
しかしそこに美しい月白色の髪の少女の姿はなかった。
いない!? じゃあどこに!
迷っている暇はない。
こうなれば手当たり次第に探すしかないと、すぐさま他の扉を開ける。もう1枚、またもう1枚と次々と部屋を覗いていくがセカンドはいない。
そんな時、とある1枚の扉を開くと中には時庭親子と、傍にはこの施設の所長である茶色のスーツ姿でスキンヘッドで小太りの男の姿があった。
「杏? そんな顔して一体どうしたんだ?」と少し驚いた様子で豊が私に声を掛けた。
「はぁ……はぁ……セカンドが……セカンドが!」
「セカンドがどうしたんだよ?」
膝に手をつき、肩で息をする私を見て、ただならぬ雰囲気を感じ取る豊達に私は短い時間で呼吸を整え、こう告げた。
「セカンドが……セカンドが殺されちゃう!」
「「「ッ!?」」」
3人が一斉に同じ表情をした。
「冗談だよな? セカンドが殺されるなんて……」
「冗談なんかじゃない! これ見て!」
握りしめていたセカンドの処分決定通知書を豊に渡すと、内容に目を通した豊、そして後ろで同じく文面を覗いた美奈さんと湊さんの顔が凍りつく。
当たり前だ。先程、「また後でね」といつものように素敵な笑顔を見せていた彼女がまもなくバラバラにされてしまうのだから。
一方、3人とは違って所長はすぐに状況を理解したのだろう。バツの悪い顔をしていた。そんな所長に当然の質問を投げかけたのは美奈さんだった。
「どういう事ですか所長!」
「……決定事項だ」
「……ッ!!?」
激昂した美奈さんが手を振り上げる。感情に任せたまま、立場も考えず所長の顔面を叩こうとしたその時、背後から湊さんがその腕を掴んだ。
「美奈、辞めるんだ」
「湊、離して! 私、我慢できないッ!」
「辞めるんだっ!!」
湊さんの怒号に美奈さんを始め、私と豊の3人は驚き硬直する。いつも優しく、穏やかな湊さんが声を荒らげたのは少なくとも私の記憶には無かった。
「美奈、君が手を上げる必要は無いよ」
「湊……」
今度はいつものように穏やかな声色で美奈さんを諭した湊さんの目つきはそれとは全くの反対。美奈さんが手を下ろしても尚、凄い剣幕で所長を睨みつけていた。
「所長……セカンドを本当に殺すんですか?」
「……そうだといったらどうする? あれは人という種が大きな進化を遂げるための極めて重要な研究材料なんだよ。それに君達にもあの娘が来た時にも言ったはずだ。『愛着を持つな』と……あれは人の皮を被った化け物なんだ……あぎゃっ!!」
所長が胸糞悪い言葉を言い終える前に湊さんの拳が所長の頬に突き刺さった。相当の勢いだったのか椅子に座っていた所長は椅子から転げ落ちた。
「き、君! こんな事をして良いと思ってるのかね!?」
「……人の皮を被った化け物ですって? あんなに素敵な笑顔をする子が?」
「人の話を聞いているのか!? こんな事してただで済むと思うな!」
「上等だっ! セカンドは俺の息子と親友の娘の大切な幼馴染、俺にとっては家族同然だ! それに手を出されて黙ってられるかよ! こんなところ、こっちから辞めてやるさ!」
そう吐き捨てた湊さんは所長に背を向けて、「行こう」と声を掛け、私達を連れて部屋を後にした。
「美奈……ごめん」
「謝らないで湊。あなたがやらなかったら私がやってたし……それに、かっこよかったわ」
「……ありがとう。よし、別れてセカンドを探そう! 俺達はこのあたりの部屋、豊は施設の入り口付近、杏ちゃんはもう少し進んだ場所を頼めるかい?」
「うん!」
「杏、豊、私さんからもお願いね。セカンド……いや、白花を絶対助けましょう。それで今日は5人で家に帰りましょうね!」
そう約束を交わして、セカンドを探すため、各々に別れた。
湊さんの指示通り、私は遺跡の最奥の方へと向かう。
この先は……確か大昔に使われていた祭壇があるんだっけ? 望み薄だけど、可能性はゼロじゃない!
長い廊下の突き当りにある地下へ通じる螺旋階段を下りた私はこの遺跡の最も重要な場所と母から聞いた、推定3000年前の文明で使用されたという祭壇のある大空洞に辿り着いた。
地下であるため、陽の光は届かないが辺りは無数の照明で照らされているため、視界は良好だった。
目を凝らして辺りを見渡す。すると、重要な研究資材である祭壇の左右に推定3メートル程の石柱が建っている。その向かって左側の石柱に紐で縛られたセカンドの姿があった。
「セカンドッ!!」
「あ、杏……?」
駆け寄ってくる私に彼女はきょとんとした表情を浮かべた。
「良かった……間に合った……」
「どうしたの!? なにかあったの?」
「よく聞いて、あなたは今日殺される予定なの。だから助けに来たの」
「え……? 私が……殺される?」
彼女の反応を見る限り、どうやらまだ身の危険を感じるような事はされていないらしい。しかし私の言葉をもってしても彼女は自分の置かれた立場を理解できていないようだ。
「な、なにかの冗談だよ! 聞いて杏、今日の研究が終わったら私、外に出られるんだよ! 皆と一緒に暮らせるの!」
「それは嘘なの! 今助けてあげるからね!」
「あ、杏、大丈夫だよ! こんなふうに縛られるのは初めてだけどすぐに終わるって言ってたもん!」
セカンドの言葉に耳を貸さず、彼女の背中で両手を縛っている縄を解こうとする。
しかし、次の瞬間、この大空洞に低い声が響いた。
「やめてもらってもいいですか?」
すぐさま後ろを振り向く。
そこにはこちらに銃口を向ける由良さんの姿があった。




