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96.過去の因縁~其ノ五~

==========第二部========

・過去の因縁の章:92話~

・潜入の章 :82話~

・New Face :75話~81話

・Who are you?:64話~74話


==========第一部========

・消失の章: 1話~12話

・悲哀の章:13話~26話

・裏切の章:27話~35話

・疑惑の章:36話~47話

・犠牲の章:48話~63話


ノアが最大出力でUnknownを押し出した。その瞬間にノア本体がダイブして向こう側に出たUnknownに再びのしかかる。

徐々に高度が下がっていく。

タケオ『かなり上にいたんだな。』

ノア『約503m上空に出ました。現在467mまで押し下げました。』

ノア本体に触手が絡みつく。

ノア『引き離そうとしておりますが、計算では重量差から引き離すことは無理です。このまま地上まで下げます。』

しかし、しばらくして軋むような音がし出した。

タケオ『大丈夫なんだろうな。』

ノア『タケオ様。お別れのようです。私はもうすぐ分解してしまいます。』

タケオ『なに!いきなり、どうして。』

ノア『私のボディは衝撃には非常に強いのですが、捩じられるように潰される力を加えられると非常に脆いのです。触手とは相性が悪かったようです。』

外側で大きな音がした。

ノア『破損大です。破損箇所から触手が侵入してきました。内部からも破壊され始めました。』

タケオ『ノア。お別れと言ったが、俺も死ぬのか。』

ノア『ダイブして逃げてください。』

タケオ『そうだな。死にたくないし。』

ノア『地上にダイブしてみんなと合流して逃げるのがベストだと思います。放射能のせいで地上の状態が分かりませんが、出力を上げて検索してみます。………はっきりとした人数は分かりませんが、ジャンヌ様とゾーン様がいます。残念ながらジャック様はいないようです。タケオ様?』

タケオから返事はなかった。

ノア『タケオ様!』音量を上げて話しかけた。

タケオは限界だった。治る前に起こされ、動き回ったことで悪化してしまったのだった。

ノア『タケオ様。ジャンヌ様は妊娠されております。タケオ様との子供です。』

タケオ『……に……し…ん。ジャ…ヌ。』わずかに目を開ける。

ノア『そうです。しっかりしてください。』

タケオが再び目を閉じる。

ノア『タケオ様。すみません。』と言って頭にレーザーを照射し、そこから血が飛び散る。

ノア『これで少しは話せるようになるかと。』

タケオ『……脳…圧…を下げ…た…のか。』

ノア『目の前にある注射をしてください。意識がはっきりするはずです。』と目の前に注射器を置いた。この場所では、ノアがタケオに注射できる手となるものがなかったのだ。

タケオは言われるままに注射をした。数秒後に

タケオ『俺はもう助からないんだな。』

ノア『はい。注射によるアドレナリン効果で今は動ける状態ですが、長くは持ちません。』

タケオ『いや、ありがとう。それで十分だ。人生最後の仕事をするよ。』そう言ってゆっくりだがメインルームを出て研究室に向かった。

タケオ『ここに触手が来るまでの時間は?』と何かを組み立てながら聞く。

ノア『その前に私がバラバラになります。』

タケオ『そういうことね。ノア。お願いがある。』

ノア『はい、何でしょう。』

タケオ『お前クラスならフライトレコーダーのようなものがあると思う。それに今から言うことを記録してほしい。ジャンヌと未来の子供への最後の言葉を。』

ノア『………分かりました。いつでもどうぞ。』タケオを起こしてからずーっと記録していたのだが、それは教えない方がいいと思った。

タケオ『ジャンヌ。ごめん。俺はここまでのようだ。お前が妊娠してると聞いた。それを聞いてもっと生きたいと思ったのは欲張りだな。言いたいことがいっぱいあるのに………遺言のつもりなのにいざとなったら言葉にならない。………お前の今後を考えると、ベタな言葉(愛していた)は足枷になるかもしれないので言わない。だから、ジャンヌ、ありがとう。

そして子供には、……男の子ならお前に似て欲しいな。女の子ならお前に似て欲しいな。俺に似なければいいや。一緒に子育て出来ないからあれこれ言わない。育ってくれればひねくれてもいいさ。でも、できればパパのようなひねくれものになってほしくないなあ。

よし、以上。


あっ、ナンバー1、ゾーン、約束のカツカレー作れなくてすまない。

ジャックは………いないのか。まあいいや。


運よくこれを見ることができることを祈って残す。以上。』


ノア『もうよろしいのですか。』

タケオ『ああ、いざとなったら全然言えないもんだな。よし出来た。』

ノア『アイスバーの改良版ですか。かなりの威力になってますね。』

タケオ『最後ぐらいアイスソードと言ってくれ。今回はこの大きさだ。威力は俺が今できるMAXにした。』

ノア『もう、本当にお別れです。もうすぐ全壊します。タケオ様あなたと話せてとても有意義でした。……分かりません。何を言っていいのか分かりません。』

タケオ『ノア、ありがとう。それでいいんだ。お前はAIだが、人間の感情というのを学び始めたのだと思う。よかったな。なあ、俺の脳のダメージを考えると絶望だけど、万が一もあるし、アイスソード発動後に俺はダイブできるか。』

ノア『アイスソードの想定される威力を考えると発動と同時にタケオ様は一瞬で凍結してしまうでしょう。それに周りは放射能が充満しております。一瞬でも晒されますし、頭に穴を開けましたのでダイブには耐えれないでしょう。』

タケオ『もう詰んでるわけだ。あ~死にたくないなあ。………子供を見たかった。』と言った。

ノア『ドンマイ。』

タケオ『使いどころが違うわ。』と笑った。その直後に目の前の壁が無くなり、強風に晒された。

ノアの声がない。すでに吹き飛ばされたようだ。


以下の声を吹き飛ばされたノアは録音できなかった。しかしかろうじて録画だけはしていた。

タケオ『くそっ。』そう言ってアイスソードをまだ原形をとどめているステーションの床に突き立て、スイッチを入れた。その瞬間、剣先がUnknownに伸び、突き刺さり、凍り出した。タケオは、それを確かめることもなく一瞬で凍ったのだった。

ノア【タケオ様】

ノアは、吹き飛ばされたブラックボックスにAIデータをバックアップし、そのボックスのバッテリーでタケオの最後を見ていた。

しばらくすると凍ったUnknownが落ち始めた。支えていた脚代わりの触手が凍り、そして砕け散ったのだ。凍ったタケオを載せたUnknown本体が地面にぶつかる前に粉々に砕け散った。タケオも。

それを確認してからノアは電源を完全OFFにし、地面に墜落したのだった。


ノア『以上になります。本来なら遺言だけ再生すればいいのでしょうが、私の独断で皆さんに見てもらいました。』

数分間、沈黙が流れた。沈黙を破ったのは

タケシ『僕の父さんは母さんやみんなを助けるために死んだの?』

ジャンヌ『そうよ。』泣きながらタケシを抱きしめた。



次回は07/18 18:00 の予定


『過去の因縁~其ノ六

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