76.NEW FACE~キーリング教授~
==========第二部========
・New Face :75話~
・Who are you?:64話~74話
==========第一部========
・消失の章: 1話~12話
・悲哀の章:13話~26話
・裏切の章:27話~35話
・疑惑の章:36話~47話
・犠牲の章:48話~63話
ロキ『潜入する。マサムネが敵と遭遇した時間と場所にダイブして待てばいい。』とジャンヌに説明した。
ジャンヌ『危険すぎるわ。』ロキを見つめるジャンヌ。
ロキ『俺が適任だ。正体不明の敵だから臨機応変さが求められる。俺は、狙撃以外はそこそこ平均レベルでオールマイティーだと思ってる。それに今叩いておかないと、万が一ここに来られたら、受け身になったら被害がでるかもしれない。ここは何としても守りたい。だから分かってほしい、ジャンヌ!』
ゾーン『まっ、二人で話し合ってくれ。行くぞ。』そう言って他の者と出て行った。
レオンハルト『あの二人早くくっつけばいいのに、見ていてじれったいよな。』
ローランド『タケオのことがあるからだろう。まあ、ジャンヌも自分の気持ちを分かってるから時間の問題だろう。』
キーリング教授『もう会議は終わったのか。』
ゾーン『ああ。教授、今夜は付き合ってくれ。日本から酒を持ってきた。』
キーリング教授『おお~。楽しみだ。』
ゾーン『みんなで飲もう。マサムネ、お前もな。』
マサムネ『俺は遠慮したい…。』
ローランド『飲みながら説教されるのと、シラフで説教されるのとどっちがいい?』
マサムネ『…飲む方で…』【サクラのふくれっ面が目に浮かぶ】
レオンハルト『心配するな。適当なところで抜ければいいからな。どうせ酔っぱらって途中から収集がつかなくなるし。』とマサムネに小声で言った。
マサムネはそれを聞いて頷いた。味方がいてよかったと思った。
そして、その日の夜の食堂。
ジャンヌ、ロキ、麻希、サクラ、リリーそして子供たちを除いた面々が集まっていた。
マルコ『ロキは仕方がないとして、女性陣は全員不参加かあ。華がないなあ。』
ロキは、潜入のための準備をするということで不参加だった。
キーリング教授『小言を言われて美味しく飲めんからおらん方がいい。』
キーリング教授はゾーンにとって恩人なのだ。
あの怪物=進化クリオネとの死闘による怪我が癒えたあと、所用を片付けてからゾーンは麻希との約束通り、別れた時から1年後にダイブをして会いに行くはずだった。だったのだ。ダイブした先は、パラレルワールドによる別世界の麻希のところだった。そこの麻希はゾーンを知らなかった。一旦、戻り再度ダイブした。やはり別の麻希だった。
10回20回とダイブを繰り返すゾーン。最初は、仲間たちも冷やかし半分で『今日もダメだったのか。日頃の行いが悪いんじゃないのか。俺たちに何かを奢ってくれたら徳を積んでいいことがあるかもよ。』とか言ったりしていた。
だが、50回を超えたあたりから誰も何も言わなかった。ゾーンの悲壮な表情を見ると何も言えなかったのだ。かける言葉が見つからなかった。それでもゾーンは諦めなかった。おそらく100回は超えたころだろうか。
その日、ゾーンはダイブをしなかった。一日中、外で微動だにせず立っていた。それだけだった。
次の朝、まだ立っていた。すごい精神力と忍耐力だった。
レオンハルト『ちっ、こっちまで辛気臭くなる。しょうがないなあ。ゾーン!こっちに来い。話がある。』その言葉にゾーンは振り向き、無表情で付いて行った。案内された場所は、レオンハルトの居住区だった。このときはまだノアは無かったので、Time Keeperの拠点を使っていた。
レオンハルト『こいつを拉致してこい。』モニターにある男が映されていた。
ゾーン『誰だ?』
レオンハルト『キーリング元教授だ。平行世界の存在を信じて研究している……犯罪者だ。』
ゾーン『最後の言葉を聞き間違えたか?もう一度言ってくれ。』
レオンハルト『犯罪者だ。イエローの。』
ゾーン『まあいい。何かの役に立つのか?強そうには見えないが。』
レオンハルト『つくづく脳筋だな。お前が苦労してるのは平行世界でだろ。この男が恋人への糸口を持っているかもしれないぞ。』
ゾーン『本当か!』レオンハルトの胸倉をつかんで質問した。
レオンハルト『確定ではないが、何もしないよりはいいだろ。』
ゾーン『よし、引っ張ってくる。ちなみに何の犯罪者だ?』
レオンハルト『痴漢の常習犯だ。』
ゾーン『……用が済んだら抹殺してもいいか?』
レオンハルト『…いや、開放してやれよ。』
ゾーン『麻希に何かするかもしれない。』
レオンハルト『………。』【心配するならジャンヌのほうだろ】と言いたかったが、怪我をしたくないのでやめておいた。
2245年オーストラリア
職を追われ、イエロー犯罪者となったキーリングがここにいた。
イエロー犯罪者:軽犯罪で常習性があると判断された者のICチップがイエロー判定となる。世界中どこに行ってもイエロー犯罪者として認定されるため正規の職には付けなくなり、日雇いで仕事をするしかなくなる。
キーリングは、生きていくために日雇いの仕事が多いオーストラリアに来ていた。オーストラリアは、近年ゴールドラッシュならぬ特異なメタル鉱石の採掘がさかんに行われていた。犯罪者がこの鉱脈を見つけると、その所有権を世界管理機関に譲渡することで犯罪者でなくなるからみんな必死に採掘をするのだった。
特異なメタル鉱石は、精錬すればゴムのように伸びる金属となる。厚みが0.001mmでも銃弾を通さず、刃物でも切れない。この金属は、宇宙ステーションノアの筐体表面に採用されていた。そのために落下しても凹むだけで損傷がなかったのだ。唯一の弱点は、進化クリオネの触手が使ったように絞られると簡単に千切れることだった。
ゾーン『どこにいる?』
レオンハルト『ちょっと待ってろ。』ゾーンだけでは広いオーストラリアからキーリングを探すのは無理だろうと思い、一緒についてきたのだった。レオンハルトは、キーリングのICデータをデータベースから探し出し、現在のいる場所を検索していた。元々優秀なハッカーなので難しいことではなかった。
レオンハルト『ここから500km程東だな。』
ゾーン『いくぞ。』それを聞いてすぐにダイブした。
レオンハルト『せっかちだな。』と後を追いかけた。
男A『ふざけてんのか!』
男B『その手を折ってやろうか。』
男C『許してください。ほんの出来心で。それに何も盗っていません。』
男A『ちっ!ほら、出しな。いくら持ってんだ。』
男Cは、お金を渡す。
男A『舐めてんのか。これぽっちじゃパンも買えないぞ。』
ゾーン『もういいだろ。』
男B『誰だ。』
ゾーン『誰でもいい。もう十分だろ。俺はその男に用がある。』
レオンハルト『キーリングだな。』
男C『……そんな名前だったかな。ところで誰だ?』
レオンハルト『教授だった面影もないな。ゾーン、もうやめとけ。死んでしまうぞ。』
ゾーンは、男Aと男Bを一方的に殴っていた。
男B『もうやめてくれ。俺たちが何をしたんだよ。』
ゾーン『その男を恐喝していた。』
男A『違う。その男がすれ違いざま俺の尻を触ったんだ。しかも俺のズボンのポケットに手を突っ込んでな。現行犯だよ。俺はそっちの趣味はないんだ。』
ゾーン『……すまん。』そう言って、今度は男C=キーリングの胸倉をつかんで睨む。
ゾーン『お前はバイか。』キーリングが吹き飛んだ。
レオンハルト『おい。殺す気か。』
ゾーン『こいつ。俺のコートのポケットに手を突っ込みやがった。鳥肌が立ったぞ。』殺気がなかったので油断したのだった。
レオンハルト『………。お詫びにこれをやるからもう行ってくれ。』男Aと男Bに酒を渡した。
男A『いいのか。』
レオンハルト『殴った詫びだ。その怪我は躓いて転んだ時の怪我だよな。』
男A『分かった。俺たちは転んで怪我をしたんだ。』そう言って男Bとともに去って行った。
レオンハルトはゾーンを制止してキーリングに近づいた。
レオンハルト『お前の知識が必要だ。役に立たなければこの世から消えてもらう。拒否権はない。』
有無を言わさずキーリングを連れて拠点にダイブして戻った。
キーリング『なんだ。なにが起こったんだ。お前たちは宇宙人か。俺を食べてもおいしくないぞ。』
ゾーン『静かにしろ。』
キーリングは殴られたくないので静かにした。
レオンハルト『ここは2617年。お前のいた時代からすれば未来だ。信じられないかもしれないがな。』
キーリング『未来。ということはタイムマシンか。』
レオンハルト『そうだな。俺たちはタイムトラベルができる。それで相談…。』キーリングに両肩を掴まれて揺さぶられ話せなくなった。
キーリング『すごいぞ。あのドラ〇もんの道具が再現されたのか。素晴らしい。』興奮していた。
ゾーン&レオンハルト【今、ドラ〇もんって言ったよな。まさか、こいつも】とお互いに顔を見合わせた。
ゾーン『ドラ〇もんを知ってるのか。』
キーリング『知ってるかだと。私の研究の原点だよ。あの漫画を図書館で読んだときの衝撃は忘れないぞ。あのときから私の将来が決まったのだ。』
ゾーン『おい!お前のことはどうでもいい。平行世界について聞きたい。』
キーリング『えっ?そうか。3日ほど語り合いたかったんだが…。』
レオンハルト『現状について話をする。何とかできそうならアドバイスが欲しい。』
そう言ってダイブのこと、平行世界への問題点について話した。
ゾーン『特定の世界に行きたい。できるか。』
キーリング『出来ると言えばできる。できないと言えば出来ない。』
ゾーン『殺すか!』
キーリング『待て待て。特定の世界に行くには、その座標が必要だ。その座標を得るには一度でも行く必要がある。過去に行ったというのはノーカウントだ。座標を得るためのソフトが必要だからな。逆にいえば、一度行ったことのある世界の座標には行かないように設定すればいずれは目的の世界に行けるだろう。』
ゾーン『レオンハルト、できるのか。』
レオンハルト『座標か。どうやって取得できるのかはあとで聞くとして、ソフトの面が強そうだからできるかもな。まあ開発に少し時間がかかりそうだが。』
ゾーン『よし、必要なものがあれば言ってくれ。調達してくる。』
レオンハルト『…そうだな。お前たちが居住施設にしていたあの宇宙ステーションがあれば開発環境にも最適だと思ってたんだが、可能か?』
ゾーン『2,3時間待ってくれ。ロキに手伝ってもらおう。』
そして、別世界の宇宙ステーションノアを強奪して新たな居住施設とした。但し、このノアに呼びかけても一切応答はなかった。
その3週間後、ソフトが完成し、ゾーンは再びダイブを開始した。今度は運頼みだけのダイブではなく消去法によるダイブだ。それでも更に200回はダイブしただろうか。その間、ゾーンの目から希望の光が消えることは無かった。そしてついに再会を果たしたのだった。
キーリング元教授が正式にメンバーに加わった。彼の異常(痴漢?)行為についてはメンバー(特にゾーン)に自身で説明した。
キーリング『私は、ドラ〇もんが使っている物が実際にはあると信じている。君たちのタイムマシンを見てますますそう思えるようになった。すなわち四次元ポケットが存在すると。』
キーリング元教授は、四次元ポケットの存在を信じて、教授時代に全財産を衣服に投資し、ポケットを調べた。当然、四次元ポケットは無かった。次の行動は、講義に出席していた学生のポケットに手を突っ込みだしたのだ。ポケットと言えば女性の胸辺りに付いている服もあるだろう、ズボンならお尻に付いていたりするだろう。まさに痴漢行為となり初犯だが軽犯罪者ということで元教授となってしまった。その後は、老若男女問わず、すれ違った人々のポケットに手を突っ込んで再犯者としてイエロー犯罪者となったのだった。
キーリング『で、ものは相談なんだが、君たちがいろんな時代に行く度に、そこからポケットだけでいいから拝借してきてほしいんだ。頼んだよ。』
というわけで、マサムネは任務中に死体からポケットを切り取ってタイムバッグにそれらを入れてキーリングに送っていたということなのだった。
次回は02/29の予定
『New Face~マサムネ~』 です。