7.消失④後半~日本~
消失5分前
ナンバー4がナイフを取り出したのには驚いた。これ以上の騒ぎは望まない。どうする。一瞬考えたが、プライドは捨てることにした。
ナンバー1『トイレどこですか?もれそうです。大きいほう!お腹痛い。』と言って、うずくまりつつ倒れるように横を通り過ぎる警察官Bの肩に手を置いた。警察官Bは肩をつかまれた瞬間、激痛で声も出せず動けなくなった。そしてナンバー1とともに倒れたあと意識を失った。ナンバー1が倒れるときに頸動脈を押して失神させたのだ。それを見たナンバー4は慌ててナイフを隠した。ようやくこれ以上の騒ぎはまずいと分かったのだ。次にナンバー1は、倒れた二人を起こそうと手を差し伸べた警察官Aの手をつかんでそのまま引き寄せて鳩尾に膝に当てて悶絶させ、失神させた警察官Aに『ソーリー。』と言い、ゆっくりと立ち上がった。二人の警察官は、目覚める前にBHBによって消失してしまうだろう。ナンバー4に文句を言おうとした。
消失3分前
悲鳴が上がった。警察官が二人倒れているのだ。当然だ。ナンバー1は、しくじったと思った。もう少し警察官と倒れて起き上がれないふりをしていれば良かった。時間はあと3分。どうする。殺しまくるか?脳裏にある女性が言ったことを思い出した。【喧嘩を止めさせるにはお酒か、歌か、それともこのダンスを見せるのが効果的ね。】と言ってたな。ナンバー1は苦笑した。お酒は、この場に無いし無理だろう。歌は、歌わない方がいいと言われた。ダンスは、あの女性に教えてもらったことがある。今日はプライドを捨てたし、やるか?女性に教えてもらったダンスを!
『フ~。』と一息ついてからナンバー1は雄叫びを上げながら、警察官を両脇にかかえながらダンスを踊り始めた。コサックダンスだった。悲鳴は静かになり、騒ぎに気付いた人々はナンバー1(と警察官AB)のコサックダンスに見入っていた。ナンバー1は、効果覿面だなと思ったが、人々は恐怖で動けなかったのだ。大男の外国人が、警察官を気絶させ、一緒に踊り出したのだ。恐怖以外の何物でもない。
ナンバー4は、どうせ消失して俺たちも消えるんだから、とりあえず殺せばいいと思っていたのに、ナンバー1がここまでやるのかと思った。
ナンバー2は、唖然としながら孤軍奮闘しているナンバー1を見ていた。ナンバー4と違ってナンバー1は自分で対処できるだろうから問題ないだろうと思っていたが、教授が居たら目を丸くして笑ってくれただろう、と思った。
ナンバー3『俺には無理だ。もうまともに組手はできそうにないな。』開いた口が塞がらないとはこういうのを言うんだろう。
消失2分前
ナンバー3『2分前だ。』正気に戻り、調整を終えたBHBをナンバー2に渡した。口元が笑ってる。ナンバー1のせいだ。
ナンバー2はBHBを貰って真顔になり、握りしめながらこれからいなくなるであろう人々を見ていた。カップルや親子、さっきの女の子、観光客、コサックダンスを見ている人々、警察官…それぞれの未来がこれからも続くはずだった。きっと家族や友達は突然いなくなり悲しむだろう。だが、それだけだ。知らない人々なのだ。
消失1分前
ナンバー3『あと1分』と言った。
意識が現実に戻され、ナンバー3の瞳に強い意志が見え、意図的に先ほどの女の子に向かって無言でBHBを投げた。コサックダンスを踊っていたナンバー1は、警察官を放り投げるとナンバー4とともに戻ってきて、四人はその場から消えた。
某スカイツリー付近半径50m消失。行方不明者487人
STステーションのモニター室。
ナンバー2からの報告を聞いて
教授『ナンバー1のコサックダンス、見たかったな。ベルトに録画機能を付ければ良かったかな。』と言った。実際に見たいと思ったが、それよりもナンバー2が目を輝かせながら楽しく話しているのが嬉しかったからだ。彼女を助けたあのときは目には光がなく、その後も多少は良くなったが、笑顔も作り笑いが多く、心から笑っていないのがつらかった。
ナンバー1『つまらん。』と言った。ポーカーフェイスを装っているが、久しぶりにあの女性の顔を思い出せて良かったと思った。いつから思い出さなくなったのだろうか。少し考えたいと思い『部屋で休む。』と言って出て行った。
教授『結果が出た。順調だ。累積効果は、相乗効果になりつつあるようだ。』嬉しそうに言った。
ナンバー2は、ナンバー5とナンバー6を抱きながらベッドで横になっていた。教授は今回の結果に満足しているようだったが、あの女の子を思うと多少は罪悪感があった。成し遂げなければならない使命のためには、犠牲はつき物だと思っていたが。17歳からそういう場に身をおいてきたのに今回はなぜか心が苦しい。
起き上がりコートのポケットから包装された箱を取り出し、部屋から出ようとしたが止めた。教授にこのチョコレートを渡そうと買ったが、時間とは無縁の世界に生きる私たちにバレンタインデーを含めイベントがないことに改めて気づいたのだ。ナンバー4に渡したら、尻尾を振って喜びそうだが、結局、自分で食べることにした。
ナンバー3は、機材の置かれた部屋でBHBをチェックしながら、範囲を50mから広げたほうがいいのではと考えていた。
ナンバー4『二人だけか。』ベッドで横になりながらナイフを眺めてつぶやいた。トイレで殺した二人のことだろう。ナンバー2に助けられて以来、殺人衝動が以前ほど沸かないな、と思い目を閉じた。
登場人物紹介(7話まで)
・教授 :65歳 インド出身 リーダー ラマラガン元大学教授。
・ナンバー1:40代後半 190cm ロシア出身 屈強で怪力 アーミーナイフ所持。
・ナンバー2:22歳 160cm フランス出身 長髪で美人 剣を背負っている。
・ナンバー3: 165cm位 アジア系 精悍な顔つき BHBを所持。
・ナンバー4:20代後半 170cm 55kg イギリス出身? 茶髪で茶色の目 ナイフ所持。
・ナンバー5:1歳前後? カナダ出身 グリズリー。
・ナンバー6:1歳前後? カナダ出身 グリズリー。
用語
・BHB:球体型の爆弾?半径50mの全てを消失させることができる。
・DBH:?
・STステーション:5人と2匹の基地?