表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/113

61.か弱きもの

・消失の章: 1話~12話

・悲哀の章:13話~26話

・裏切の章:27話~35話

・疑惑の章:36話~47話

・犠牲の章:48話~63話

 One for all, All for one

15世紀の北。極寒の海にそれはいた。

近くの村で子供たちの声がする。

???『魚を取りに行くぞ。』

???『待ってよ。お兄ちゃん。』

???『早くしろよ。』

よく見かけるシーンだろう。

兄弟仲良く釣りをしていた。その時、突風が吹き、弟が海に落ちた。

兄がなにか叫んでいたが、弟は必死に手足を動かしていて聞こえない。そのうち、苦しくて意識が遠のいた。

その弟の服の中にそれが入ってきた。その時、海に突然空いた穴に弟が飲み込まれた。それは感じた。今まで生きてきた世界と違うところにきたことを。生きるための本能がそうさせたのだろう。もう鼓動していない弟の穴から入って身を守りつつ、その中身を食べて生きのびた。それの大きさには十分すぎる大きさの食糧だった。しかし、食べればいつかは無くなる。どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。海にいた時は、約1cmほどだったが、子供一人食べ終わることには、50cmぐらいになっていた。新たな食糧が欲しかった。この空間は良く分からないが、仲間はいないようだ。時折、何かが流れていくのが分かる。食べ物だ。正確には死体だった。ある国では、それを神隠しと言っていた。突然人がいなくなる。それは時空間に吸い込まれるからだった。誰もが吸い込まれたショックや何もない空間に放り出されれば、その孤独感に耐え切れずに死んでしまう。その食べ物を捕獲しようと6本の触手を伸ばす。届かない。もっと長いほうがいい。そして長くなって捕獲しやすくなったら、今度は遠くの食べ物を見つけられるように視覚が欲しくなった。そうだ、視覚=目を大きくしなければ。どのくらいの年月が経ったのだろうか。大きな目、長い触手の生物に進化を遂げた。だが体が大きくなれば必要な食事の量も多く必要になる。そうだ。触手の数を増やそう。体が大きくなるにつれて脳も大きくなり考えるようになった。だが、過去の記憶が曖昧だった。以前はどこにいたのかもう思い出せなかった。触手を増やしたことで移動のための推進力を出すことができるようになった。そして食欲が満たされれば当然、性欲が搔き立てられた。だから探し回った。しかし、繁殖相手がいなかった。というよりも同種がいない。というよりも自分以外の生物がいない。その結論に到達したとき、それは考えるのを止めた。しばらくは食事はクモの巣のように広げた多数の触手に触れた死体を口に入れるようにしていたが、そのうち、触手が勝手に死体を探し出し、口に持ってきてくれるようになり完全に冬眠状態になっていた。そうして長い年月が過ぎた。

ある時、触手からいつもと違う感触が伝わってきた。死体ではなく動いているようだ。生物か?仲間なのかと思い、それを口ではなく目のところに持ってきた。

???『×▽※ε』と言っているが、自分には耳が無い。あるところ(口)が動いているのが分かった。ここに来て初めて生きている物に会った。だから食べずに観賞することにした。常に目の前に置いていたのだが、衰弱しているのが分かった。当然だった。飲まず食わずで見たことのない空間に見たことのない生物に捕まっているのだ。肉体的にも精神的にも弱っていた。だが、死体を食べさせようとしてもなぜか食べなかった。本能的にこのままでは死んでしまうことが分かる。なぜそんな行動を取ることにしたのだろう。進化し続ける生物の本能だろうか。その人間を本体に押し付け、埋め込んだ。本能か、それとも愛おしくなって一体化したかったのだろうか。誰にも分からない。しばらくするとそれの脳に取り込んだ人間の情報が入り込んできた。感情も、特にある生物、同種への憎悪。

その人間は、ホワイトと言い、宇宙ステーションの乗組員だ。

ある人間に嘘をつかれて、この空間に放り出されたとのこと。だから、その人間をとても恨んでいる。

そして遠い記憶がよみがえる。懐かしいものがあった。それが生まれた場所。海と呼ばれる光景が入り込んできた。思い出した。こことは別の世界があることを。そこには仲間がいることを。しかし、その世界に行く方法の情報が無かった。今度は、別の死んだ人間を本体に取り込んでみた。何も起こらなかった。生きていなければ意味がないと分かり、生きた食べ物を探すようになった。それは無駄骨だった。数百年で生きた生物は、この一回だけだ。だから、しばらくして諦めて、再び考えるのを止めた。

それは突然だった。得体の知れないものが全身を震わせた。タケオの指示でノアが飛ばした探査用音波だった。それはとても不快なものだった。何度も感じたのでその方向とは逆の方へ逃げた。そして悟った。ここに自分以外の生物がいると。探した。探しまくり、遂に見つけた。だがそれは突然消えた。理解できなかったが、生き物がいるというだけで十分だった。目標ができたのだ。それ以降、休みも取らずに動き回った。そしてそれらが穴を開けて出て行くのを見た。その穴が閉じようとしていた。思わず触手を一本伸ばす。かろうじて先端の数cmが穴に引っ掛かって穴は閉じなかった。他の触手を使い、穴を大きくしようと藻搔いた。徐々に大きくなる穴。嬉々として力が入る。穴が大きくなり、4本の触手と口の部分を時空間に残し、本体の目の部分と120本の触手を穴から出した。その瞬間、懐かしい感じがした。思わず叫んだ。『※▽Ω◆』と。幸か不幸か、その声でダイブ不能となった。

それの視界に生き物が映った。食糧だと思い、触手を振るう。避けられたのに驚く。そのうち、触手に嫌な感触が伝わる。剣やナイフで斬られたのだ。初めての感覚だった。今までは時空間に紛れ込む異物がぶつかることはあっても斬られることはなかった。だから全く致命傷にもならないかすり傷程度なのに驚いて引いてしまったのだ。

その時、視界にゾーンの顔が入る。ホワイトが憎悪を抱いた相手と認識した。それの頭にその人間への殺意でいっぱいになった。あの生き物を殺さなければならないと。その生き物を吹き飛ばし止めを刺そうとしたら、今度は触手に穴が開いた。銃創だ。小さな穴だが、これも初めての経験だった。この生き物たちに恐怖を感じた。その時、触手の先端が無くなったのが分かった。その恐怖に打ち勝つのは憎悪だった。あの食糧を殺す。それだけだ。それの邪魔をする生き物が、それには邪魔だった。だからもっと強い攻撃の必要性を感じ、触手を束ねて攻撃することにした。そして触手そのものを強靭にしなければ、傷つかないように。斬られなくなったが、穴は開く。防げないなら諦める。だが、今度は、束ねた触手群が吹き飛んだ。ここの生物は強いと思った。どうしたらいいのか手を拱いていると、ようやく一体仕留めた。そしてもう一体が突然、時空間に現れた。だから捕まえた。抵抗しようとしたので触手を貫いたら死んでしまった。傷ついたり穴が空いたり消失させられて強化や再生にエネルギーを使ったの補給したかったので食べることにした。一体では補給は十分ではなかったが、再びターゲットを攻撃しようと思ったら、嫌な感じがした。大気が振動しているようだった。核ミサイルが飛んできたので捕らえた。ホワイトの記憶にあったミサイルというものだと理解した。その威力も。だから怒りの奇声を上げて、投げつけた。ターゲットがミサイル着弾方向に立っている。なにかする気かと思い、触手を飛ばすが、他の生物に防がれた。そのうち、全触手に光るものが当たった。その瞬間、感じたことに無い感覚に陥った。触手が動かなくなった。痺れたのだ。ターゲットがミサイルを跳ね返すのを見た。怒りが湧き、触手を動かそうと藻搔いた。動くようになりミサイルをもう一度掴もうとしたとき触手が弾け飛んだ。一体がすごいスピードで触手を蹴散らすのが分かった。目で追えないくらい早かった。そうしているうちに触手が斬られたのが分かった。今度はなぜか動かせなかった。腱を斬られたせいだった。ミサイルを捕まえようとすると邪魔をされ、邪魔をする生き物を捕えようとしても早すぎて捕まえられなかった。だが、その生き物の動きがおかしくなった。だから触手を振って吹き飛ばそうした。意識がその生き物に集中したせいだ。ミサイルが目の前にきたのに焦点が生き物にいっていて気付くのが遅かった。爆発した。触手のほとんどが飛び散った。本体も半分近く抉れて吹き飛んだようだった。目があったところが痛かった?痛みはもう感じない。そしてもうなにも見えない。

意識が遠のく。“死”を感じた。

走馬灯のように思い出した。かつて小さかった頃を。大海に住んでいたころを。


その生き物は、かつて人間から、こう呼ばれていた。


“クリオネ”と。


次回は11/16の予定


『決着』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ