26.遭難~TK(Time Keeper)の襲撃~
・消失の章:1~12話
消失という任務を実施する理由とは?
その任務を遂行する各メンバーはどのような人物なのか?
・悲哀の章:13話~26話
新たな仲間を探すダイブになっています。
15話~18話 ナンバー4の出会いと別れ
19話 ナンバー3について
20話~22話 ナンバー1の出会いと別れ
23話~26話 ナンバー4の決断
次回は、6月1日再開。
バイエンが雨の中をゆっくりと歩いていく。途中で爆破に使ったロケットランチャーを投げ捨てた。さっきの爆発を聞いて近所の住人が集まってきた。その住人たちに向かって何かを投げた。爆弾だった。数か所で爆発し、集まってきた住人は吹き飛んで動かなくなった。しばらくすると警察や消防が来るだろう。その前にTime Breakerの死体を確認しなくてはと思った。
歩みを止める。何かが動いた。
バイエン『仕留めそこなったか。運がいいのか。』
ナンバー4『誰だ。』ゆっくりと立ち上がる。怪我はかすり傷程度だった。
バイエン『Time Keeperだ。お前たちTime Breakerを処罰する存在だ。』
ナンバー4『Time Keeper?Time Breaker?』訳が分からないが敵だということは分かる。タケオはどうなった。周りを見る。家だった跡地の右の方に何かが横たわっている。タケオだった。ピクリとも動かない。死んだのかもしれない。喪失感と怒りが湧いてきた。ナイフを取り出した。
バイエン『どの程度戦えるのかな。お手並み拝見。』突進した。隊長からは、大男以外は大した戦闘力ではないと聞かされている。
ナンバー4は、相手が突進してきたのでナイフを突き刺そうとした。バイエンは簡単に上半身を沈めてそれを躱し、右回し蹴りを放った。ナンバー4が転がる。それを見て
バイエン『弱いな。』とつぶやいた。がっかりだった。もう少し戦えるのかと思ったが、動きは素人だ。
バイエン『警察が来るまで遊ぶか。』不気味に笑った。
ナンバー4は起き上がり、何度もナイフを振った。だがナイフは空を切るばかりだ。かすりもしない。相手に遊ばれているのは分かっていた。ナンバー1から戦いのセンスが無いと言われた。それでもナイフを振る。倒せなくても傷一つでもつけたいと思った。悔しいが力の差を感じて自分の死は確実だと思った。傷をつけれれば少しは仇を討てたとあの世でタケオに言えると思ったのだ。ここにはナンバー1はいない。何度転がっただろうか。弱い俺を見て、相手は少しは油断してくれないだろうかと思った。
バイエン『なんの策もなく、ただナイフを振り回すだけ。それが殺人鬼の正体か。切り裂きジャック!いや本名は…。』
ナンバー4『そうだ、だからどうした。うおおおお!』ただ突進した。だが簡単にかわされ、足を引っかけられ転んだ。もう体力も限界だった。ナンバー1から、(人間の脳は約10%しか使われていない。それを上げることで戦闘力を向上させられる)と言われ、俺はその可能性にかけた。それ以降、瞑想し精神面を鍛えている。ナンバー1からは、(いつ使えるようになるかは分からないが、実績で言えば、部下の二人が使えるようになり、最短で一年半でそれを可能にした)と聞いて、地道にやってきた。だが、今使えなければいつ使う?。今発動できなければ死が待っている。呼吸を整え、精神を集中する。そしてゆっくりと立ち上がった。雨脚が強くなってきた。雷の音が聞こえる。だが、それだけだ。何も変わらなかった。まだ発動できるレベルではなかったのだ。ナンバー4は『くそっ。』とつぶやいた。
バイエン『飽きたな。そろそろ終わりにしよう。』そう言うと、ゆっくりと起き上がったナンバー4を見て、キリのようなものを取り出した。
バイエン『初めて見るか。これは峨眉刺という武器だ。』そう言うと前に突き出した。
ナンバー4『がっ。』両膝を地面についた。
バイエン『どうだ。こういう使い方なんだが、効くだろ。』そう言う前にナンバー4の両太ももを刺したのだった。
ナンバー4は、立てなかった。脚に力が入らない。敵を見上げた。その瞬間両肩に激痛が走った。峨眉刺というものが両肩に刺さった。両腕が上がらなくなった。動けない。ナイフを振る腕も動かない。そしてブレインアップもしない。
そういえばアレクサンドラが「力を得るのは時間がかかります。でも、どんなときも決して諦めないで。あなたには必ず助けてくれる人がいるはずです。」と言ってたなと思った。
(以前、ナンバー2が似たようなピンチの時はナンバー3が助けてくれたな)と思った。ナンバー3も同じ時代の同じ世界にいればと考えたが、そんな奇跡はないだろう。もう死ぬしかないじゃないかと思い苦笑した。
バイエン『狂ったか。』ナンバー2が笑ったのを見て思った。そしてバイエンも笑った。『ハハハハハ。絶望的な状況だよな。そうだな。退屈しのぎにお前の運がどれだけあるのか見てみようか。』と言って、右手を上げた。その手には峨眉刺が握られており、その武器の先端が空を向いている。
ナンバー4『?』
バイエン『雷が鳴っている。こうしてると俺に被雷するかもな。今から100数える。それまでに俺に落ちればお前の勝ちだ。落ちなければこの峨眉刺がお前の心臓に刺さる。さあどうなるかな。1・2・3・4…。』と数えはじめた。
ナンバー4の耳には、増えていく数字の声と激しい雨の音、そして雷の音が聞こえていた。両腕両脚は動かない。
タケオとの短い生活は楽しかったと思った。そういえば教授たちとも楽しかったが、それほど思い出すことはなかった。タケオとの生活はそれ以上だったんだなと思い、最後がこの世界で良かったんだと思った。
バイエン『41・42・43…。』100まで続くと思われたが
『おい。』突然、バイエンの後ろから声がした。バイエンは油断していたこともあるが、激しい雷雨に気配や近づく足音が消されていたのだった。だが、バイエンの動きはさすがだった。右手は上がっていたので振り向きざまに左手の峨眉刺を背後の相手に刺すために瞬時に回転した。時に命のやり取りには、コンマ何秒が命取りになる。今回もそうだった。上げた手が左手だったら右回転でなく左回転で背後の敵を刺せただろう。背後の敵は、バイエンの左斜め後ろにいたのだ。そして声をかけると同時に右打者のように思いっきりスイングしていたのだ。バイエンの振り向いた顔面にそれがヒットした。フライパンが!カウンターのようにフルスイングのフライパンを顔面に受けてバイエンはそのまま倒れた。
『お前か、俺の家を壊したのは!』と言ったのはもちろんタケオだった。
タケオ『弁償してくれるんだろうな。ああ~。』とかなり怒っていた。
(あなたには必ず助けてくれる人がいるはずです。) アレクサンドラ、お前の言う通りだったよ。
ナンバー4『タケオさん、生きて…。弁償は無理だと思う。』目の前に倒れたバイエンを見ていた。バイエンは口から血を吐き、胸から刃が生えていた。ナンバー4は、腕が動かなくなったにもかかわらずナイフを離していなかった。運悪くバイエンはその上に倒れてしまったのだ。もう虫の息だった。
ナンバー4『俺に運があって、お前には運がなかったな。』聞こえたのかは分からない。もう息をしていなかった。
タケオ『えっ、死んだのか。俺が殺したのか。正当防衛だよな。』そう言いながら改めて周りを見た。雨が激しいがなんとなくわかった。知っている人々が横たわっている。ここは戦場かと思った。もっとも戦場には行ったことは無いが。
ナンバー4『この男が爆弾で大勢殺した。』タケオに説明した。
タケオはもう動かないバイエンにもう一度フライパンを思いっきり叩きつけた。
ナンバー4『生きている人がもしかしたら警察に連絡しているかもしれない。俺はこの世界の人間じゃない。捕まるとまずいからここを離れたいんだ。肩を貸してほしい。』逃げたいが動けないのだ。
タケオ『こいつは、ジャックの知ってるやつなのか。』動かずに聞いた。
ナンバー4『いや、全く知らないが、俺たちを敵視している口ぶりだった。』
タケオ『ならこの男もこの世界の人間じゃないんだな。』そう言いバイエンを見た。そして無言でバイエンの死体を調べ始めた。金目になるものは持っていなかった。『ちっ、残念。』ただ、左手に腕輪をしており、それを外してポケットにしまい、ナンバー4に肩を貸して歩き出した。軽四は大破していた。ちょっと離れたところに止めてあった軽トラは無事だった。それに乗り込み走り始めた。しばらく走ってから
タケオ『怪我はひどいのか。』と聞いてきた。
ナンバー4『出血は大分収まって、少し動かせるようになってきた。』
タケオ『金もスマホもないから何も買えない。我慢してくれ。今から会社近くまで行く。みんな帰ったら入って傷の手当てをしよう。配置薬しかないけどな。あと、車の免許証もないから検問がなければいいんだが…。』ナンバー4を横目で見た。もう寝ていた。幸い警察には会わなかった。そして、会社近くのショッピングセンター駐車場で夜まで待っていた。ここならしばらく車を停めていても怪しまれないだろう。
夜になり、窓ガラスを割って会社に侵入した。セキュリティーがないのが幸いだった。配置薬からガーゼと消毒薬を渡して言った。
タケオ『そのベルトを渡してくれ。あの男から取ってきた腕輪が多分同じ機能を持ってると思う。他に怪しい機器はもってなかったからな。修理できるかやってみる。』
ナンバー4『直るのか。』
タケオ『直らなかったら、警察に捕まると思え。金がないから逃げきれないぞ。』
ナンバー4『…分かった。そのときは諦めるよ。』
タケオ『作業が終わったら呼ぶから休んでいろ。食べ物は無いけど、飲み物なら廊下の自販機を壊せば飲めるはずだ。』
ナンバー4『とりあえず、寝るわ。』血はほとんど止まったが怪我のダメージが大きく動きたくなかった。
タケオは作業に取り掛かった。腕輪を慎重に分解し、回路を解析した。その結果、ナンバー4よりもバイエンの物の方の技術が進んでいることが分かった。従って、バイエン側の部品をナンバー4のベルトの部品と交換することは不可だった。それなら、バイエンの腕輪をそのまま使ったらと考えたが、おそらく短期間ではナンバー4には使いこなせないだろう。高確率で違う世界に行ってしまいそうだ(あの男のアジトとか)。取説でもあればいいのに。どうしようかと思った。時間は一時を回ったところだ。他の社員が出社してくるまでのあと七時間ちょっとで決断しないといけない。
ナンバー4は、コーヒーの匂いで目を覚ました。時間は、6時半過ぎだった。刺された箇所が痛いがゆっくりなら歩けるようになった。両腕も動かすと痛いがとりあえずは動く。コーヒーの匂いの方へ歩いていくとタケオがコーヒーを飲んでいた。
ナンバー4『俺にもあるかな。』
タケオ『インスタントだよ。』そう言って、カップに粉を入れお湯を入れて作ってくれた。
ナンバー4は、無言で受け取り、目の前に置かれたタイムベルトらしきものを見た。
タケオ『自信の合体作だ。』タイムベルトと腕輪を何本ものリード線でつないである。
ナンバー4『これで帰れるのか。』
タケオ『多分な。結線したらジャックのベルトのマイコンが死んでなかったようなので帰れると思うが、試運転できないから失敗したらごめんな、だな。』
ナンバー4『そうか。帰れるかもしれないのか。』少し寂しそうだった。
タケオ『コーヒーを飲んだら、行った方がいいと思うぞ。俺の死体がないと分かれば警察がこの会社にも来るだろう。』
ナンバー4は、コーヒーを一気飲みしてベルトをした。
タケオ『無事に行けることを祈るよ。』そう言って背を向けた。
ナンバー4は、その背中を見つめていた。そして一旦、目を閉じ、開いた。
タケオ『いつでもいいぞ。家を壊され、知り合いが大勢死んだ。俺だけが生き残ったんだ。警察の尋問に耐えれるほど鍛えてないんだ。100%お前のことをしゃべる自信がある。できれば一思いにな。』
ナンバー4の右手にナイフが握られていたのだ。そうなのだ。自分たちのことを知られるわけにはいかない。あの男の死体もある。タケオはすぐには口を割らないだろうけど不可解な大量殺人だ。きっと尋問はきついだろう。その前に一思いに俺の手でと思った。
ナンバー4『すまない。ありがとう。』目から涙が流れた。
STステーションの出入口。
侵入者があったことが告げられた。
教授、ナンバー1、ナンバー2が出入口に駆け付けた。そしてナンバー4の姿を見てナンバー2が抱きついた。
ナンバー2『おかえりなさい。』
ナンバー4の帰還だった。
登場人物紹介(26話まで)
Time Breaker
・ネモ教授 :65歳 インド出身 リーダー 本名ラマラガン(元大学教授)。
・ナンバー1:50代前半 190cm ロシア出身 屈強怪力 本名ゾーン アーミーナイフ所持。
・ナンバー2:22歳 160cm フランス出身 長髪で美人 剣を背負っている。
・ナンバー3: 165cm位 アジア系 精悍な顔つき 行方不明。
・ナンバー4:28歳 170cm55kg イギリス出身? 茶髪で茶色の目 ナイフ所持。
・ナンバー5:1歳前後? カナダ出身 グリズリー。
・ナンバー6:1歳前後? カナダ出身 グリズリー。
その他
・アレクサンドラ・ボーニッシュ:26歳 その人物の情報を知る能力持ち。ナンバー4と相思相愛。
・遠藤麻希:女子高生 ナンバー1を好き。
・馬場竹男:52歳バツイチ ナンバー4が慕っている。
用語
・BHB:ブラックホール爆弾。半径50mの全てを消失させることができる。
・DBH:?
・STステーション:5人と2匹の基地?