2.タイムマシン
某ステーション?の一室。
広くはないが調理器具等があり、テーブルに食べ物が並んでいるので食堂のようだ。
男4人と女1人がその食堂らしき場所で食事をしている。
ナンバー4『毎日、毎日、カレーとナンばかり。もううんざりだ!』
ナンバー2『教授が作ってくれたものに文句を言わないで!それなら自分で作ってはどう?』
ナンバー4『ナンバー2。お前こそ女なんだし何か洒落たものは作れないのか?』
ナンバー2『女性=料理する人という考えを改めたら?時代錯誤も甚だしいわ。』
ナンバー4『俺は、そういう時代に生まれたんだ。お前もそうだろ。』
いつもの夫婦漫才を聞きながら、他の3人は黙々と食べている。
文句を言いつつも全員食べ終わった頃
教授『ありがとう』ナンバー2からコーヒーをもらい、一口飲んだ。
ナンバー3『教授。次のダイブは決まったのですか?』
教授『1893年のロンドンになるだろう。そのあたりにクロスポイントが発生しそうだ。正確な日時が分かればダイブしてもらう。機器のメンテは終わっているかね。』
ナンバー3『BHBもタイムベルトの調整も終わっています。』
教授『いつもありがとう。私も年のせいかメンテするには視力がね。年は取りたくないね。』
ナンバー3『2200年以降に行けば、視力は治せますが、どうしてそうされないのですか?』
教授『不満はあるが、この老いは、年相応でいいもんだよ。もう65だ。それに君がいるしね。』
ナンバー3『教授には長生きをしてもらわないと我々だけでは何もできません。』
ナンバー2『…』悲しそうに聞いていた。
ナンバー4『なあ。俺はその国のその時代に行ってもいいのか?』珍しく不安げに聞いた。
教授『心配は無い。私たちは、時から外れた者たちだ。よほどのキッカケが無い限り思い出されることはない。』
ナンバー2『でも、なるべく問題は起こさないようにね。』
ナンバー4『起こしたことはない。少なくとも俺の認識では。』不気味に笑いながら言った。
ナンバー1,2,3『…』同時に溜息をついた。
教授は、コーヒーを飲みながら、彼らのやり取りを微笑ましく聞いていた。ようやく解決の糸口が見つかった。あの未来回避が進むことを願い、ことの始まりを思い出していた。
2044年4月1日11:00
アメリカM大学にて
【人類初の時間飛行】の大看板が講堂の天井からつり下がっている。
TVアナ『さあ、新しい時代の幕開けをまもなく皆様とともに見ることになります。こちらのラマラガン教授が指揮を執り、我が国のM大学との共同研究でついにタイムマシンが完成しました。動物実験でそのマシンの正当性を主張されておりましたが、他の研究者から、「実際に時間を超えたのか分からない」と言われつづけ、遂に今日、教授自らマシンに乗り未来へ行くことになりました。選んだ未来は、今から50年後の2094年。どのようなお土産を持って帰るのでしょうか?ラマラガン教授。全世界に向けて何か一言をお願いします。』
教授『… … … 思えばタイムマシンを作りたいと考えるようになったのは子供のころに友人の家で読んだ一冊の漫画がきっかけでした。それから約50年。その思いがようやく実現します。人類初の時間を超え、未来を見てきます。きっと良い未来も悪い未来もあるでしょう。悪い未来は、戻ってきたときに回避できるように未来を変え、良い未来としていきたいと思っております。ところで、なぜ2094年なのか?と疑問に思う方もおられるでしょう。私が未来に行ったとき、何かを買おうとすればお金が必要です。おそらく今の紙幣は使えないかもしれません。しかし、50年定期にしておけば金融が破綻していなければ50年後にはその時のお金をもらえるので買えるだけその時代のものを購入して持ち帰ることができると判断したからです。長話は話すほうも聞くほうも好きではないので終わりにして、そろそろ出発しようと思います。最後に、ここに不自然に机が置いてありますね。私が未来から戻ってくるときは、その漫画のようにこの机の引き出しから出てきたいと思います。』と自信満々に言ったが、ほとんどの人は【机の引き出しからは青色の〇〇型ロボットが出てきたけど、教授のタイムマシンだと机が壊れるだろ!】と突っ込みを入れたかった。
TVアナ『さあ、乗り込むようです。』興奮気味に言ったが、周りから静かにしろという視線を感じて
TVアナ『静かに見守りましょう。』と言い、固唾を飲んで見守ることにした。
教授が球形のタイムマシンに乗り込み、扉を閉め、電源を入れる。教授の姿はアナウンサーや周りに人々にはもう見えない。球体の鏡面状の外装が色とりどりに流れるように光り始めた。
教授は、設定を2094年4月2日、場所をカリフォルニアのある座標にし、緑のボタンに人差し指を乗せながらカウントダウンを始めた。
教授『10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0!』目を閉じ、緑のボタンを押す。
光るタイムマシンを見ていた人々は、球体の輪郭が突然ぼやけ、周りが数秒間わずかに暗くなったように感じたとき、球体は無くなっていた。
TVアナ『?』アナウンサーは、自分はなぜここにいるのか?何をしているのか?何をしたらいいのか?全く分からなかった。周りを見回すと大勢の人が集まっているし、TV中継をしているようだ。なんのTVだ?大勢の人も周りを見回している。ふと真上を見上げた。看板が掛かっている。
【人類初の時間飛行】… … … なんのことだ。そして初めて左手に紙を持っていることに気づいた。それには、信じられないことが書かれてある。その中で“ラマラガン教授”や“タイムマシン”の文字が気になったが、何も思い出せなかった。そして、アナウンサーは、今日が4月1日であることを思い出し、全世界に一言 『エイプリルフールかあ!』と言ったとこるで放送は中止された。
その後の調査でラマラガン教授という人物は存在せず、また共同開発となっていたタイムマシン理論については、架空のその教授をリーダーとしており、開発内容の報告書や議事録もなく、共同研究メンバーとして名前の書かれていた研究員たちは、研究費の不正、責任を問われつつ非難を浴びたが、除名処分とされた。
某ステーション?の食堂
ナンバー3『教授!どうしましたか?』
教授『すまない。昔を思い出していてな。』
ナンバー4『ボケてきたか?カレーばかりだからな。』
ナンバー2『失礼なことを言わないで!』
ナンバー1『暇だな。少し訓練に付き合ってくれ。』
ナンバー3『いいぞ。』
ナンバー2、4『…』お互いに顔を横に振っている。
教授『少し鍛えてもらいなさい。』ナンバー2、4は絶望の顔をしている。
ナンバー1『先にナンバー2、ナンバー4で体をほぐしてから、ナンバー3とでいいかな。いつもの第3格納庫に行くぞ。』
教授は、笑顔で見送り、残っているコーヒーを飲んだ。
登場人物紹介(2話まで)
・教授 :65歳 インド出身 リーダー ラマラガン元大学教授。
・ナンバー1:40代後半 190cm 屈強で怪力。
・ナンバー2:20代 160cm 長髪で美人 フランス出身 剣を背負っている。
・ナンバー3:165cmぐらいか アジア系の精悍な顔つき BHBと呼ばれる球体を持っている。
・ナンバー4:茶髪で茶色の目 ナイフ所持。
用語
・BHB:球体型の爆弾?半径50mの全てを消失させることができる。
・DBH:?
・某ステーション:?