18.候補者Part4
・消失の章:1~12話
消失という任務を実施する理由とは?
その任務を遂行する各メンバーはどのような人物なのか?
・悲哀の章:13話~25話ぐらいを予定
新たな仲間を探すダイブになっています。
15話~18話 ナンバー4の出会いと別れの話です。
歓迎会当日の午前。
話題は、ジョンvsゾーンの賭けだった。9:1でジョンの勝ちが優勢だ。1は、事情を知っている者たちのようだ。ゾーンが勝てば大儲けだろう。
13:00
歓迎会が始まった。
ナンバー2は、周りを見回したが、バネッサはいなかった。おそらく今日、任務が終わり帰還することになる。そうなるとタイムベルトの性能からもう二度と会えない。なんとなくもう一度会いたかったが、残念だと思った。
ナンバー4は、ジョンの仲間四人の位置を確認した。厄介なことに四方にバラバラになっている。四人ともかなりの手練れなのは感じたが、恐怖は感じなかった。不意を付けば処理できるだろうと思った。
14:00
アレクサンドラがある男に合図を送る。
男『今から、私たちの最強の仲間ジョンと新しい仲間の代表のゾーンとのエキシビションマッチを行います。』大歓声が上がる。
男『両者、中央に。』
ジョン『初めまして、柔よく剛を制すと言います。小さいからと舐めてかかると大変なことになりますよ。』身長は160半ばぐらいか。ナンバー3と同じぐらいの身長だが、体躯はナンバー3よりもがっしりしている。歳はデータでは34歳。
ナンバー1『ゾーンだ。』ジョン・ノグチは日系アメリカ人で空手が得意ということだったなと思った。
男『降参するか、気を失った時点で終了とする。万が一、死亡した場合は、アレクサンドラ様に処遇を一任することを全兵士を代表して誓う。それでは、始め!』
ジョン『いきなり、始めかよ。もう少しおしゃべりしたかったんだがな。』口元は笑っているが目は真剣だ。始めの合図とともに相手から発するものが今まで倒してきた相手とは違うことを感じ取っていた。相手はじっとしている。こちらの出方を伺っているのだろう。それなら先制攻撃で主導権を握ろうと思い、前に出た。軽く右手による正拳突きで相手の動きを伺う。避けると同時に蹴りを入れる予定だった。だが、相手は動かずに右手拳を左腕で受け止めた。
ジョン『俺の拳は大したことは無いということかよ。後悔するぜ。』今度は腰を入れた正拳突きだ。まともに受ければ骨折もしくはヒビが入る。だがナンバー1はこれも左腕を曲げて受け止めた。表情が変わらない。その結果に驚き、そして憤慨し、ジョンはそのまま、左右のパンチを繰り返し浴びせた。腹にも胸にも当たった。だが相手の表情が変わらない。ジョンは分からなかった。ナンバー1が攻撃を受ける際に体を若干回転させて打撃のエネルギーを逃がしていることを。だからジョンは、痛みを感じない薬でも飲んでいるのかと思い、一旦下がった。だが、下がったのにナンバー1との距離が変わらない。相手が前に出たことを知った。
ナンバー1『二発目のパンチは良かったが、そのあとはお粗末だったな。兵士なら全てのパンチに腰を入れる訓練をするんだったな。こういう風にな。』そう言うとパンチを数発放った。
ジョンは最初の数発を避けて反撃しようとした時に、一発右肩に受けてしまった。視界が回った。自分が空を見上げてると理解した瞬間、すぐに立ち上がり、距離を取った。今度は相手は動かなかった。右腕に力が入らない。痺れていた。体格差はあるが、たった一発で倒されたのは久しぶりだった。力で勝てないならスピードで勝負をかけようと思い、真正面からパンチすると見せかけて、右に動いて蹴りを放った。渾身の一撃が相手の脇腹に入った。
ジョン『パンチではないが、腰の入った蹴りはどうだ。』と言いながら相手のパンチを警戒して屈みながら左拳で金的を狙った。流れるような一連の動作だった。相手が痛みで屈んだところを膝で顔面強打し、周りには分からないように首の骨を折りジエンドだ。このゾーンという男は強い。アレクサンドラ抹殺の任務の妨げになると思い、ここで殺した方がいいと判断した。相手がナンバー1でなければこの通りになっただろう。屈みながら左拳で金的を狙おうとしたとき、相手の左脚しか見えなかった。右脚は?蹴りがくるのか?俺の拳とどっちが早いかと考えたとき後頭部に衝撃を受けてそのまま地面にキスをした。屈んだのは失敗だったのだ。
ナンバー1『手加減をした。意識はあるだろう。まだやるか?』かかと落としがまともに入ったのだった。
観衆はブーイングの嵐だった。賭けで負けたと分かったのだ。それだけこの戦いを見ていた者たちにも力の違いが分かった。ジョンにとって屈辱的な敗北だった。こんな一方的な戦いは、いつも攻撃する側だったのだ。受ける側は初めてだ。なんとか立ち上がった。顔面強打によって鼻血が出ている。
ジョン『強いな。試合は完敗だよ。だけどこの舞台を作ってくれたことに感謝する。任務は勝利で終わる。』そう言うと、ジョンはニヤリとして左腕を上げた。
開始の合図をした男は、それを降参の合図と思い、試合終了を宣言しようとした。
ナンバー1は、その動作に違和感を感じ、すぐに周囲を見た。ナンバー2の位置は?遠い。間に合わない。ナンバー4は?まだ近い。だが間に合うか?
ナンバー1『ナンバー4!』と叫んだ。
呼ばれたナンバー4は、周りを確認した。いつもならすぐに判断できないのに、今日はすぐに理解した。アレクサンドラの方に走り出した。ジョンの仲間のうち二人がアレクサンドラの近くに移動していたのだ。他の二人は見えない。ナンバー1とジョンの戦いを見ていて確認を怠ってしまった。銃か?ナイフか?どちらにしてもアレクサンドラを殺すは一瞬だ。間に合わない。なぜアレクサンドラの近くにいなかったのか。理由は分かっている。大の大人が恥ずかしがって近くにいれないなんて後悔先に立たずだ。アレクサンドラと護衛も気づいた。時間を稼いでもらえば間に合うと思った。しかし、銃でもナイフでもなかった。二人とも体に爆弾を装着していた。自爆するつもりだ。アレクサンドラがこちらを見て、走り出した。護衛たちが二人を押さえつけた。爆弾の威力が分からない。背中がゾクッとした。爆発すると思った。
ナンバー4『アレクサンドラ!』叫ぶ。
アレク『アルバァ!』ナンバー4に抱きしめられたと同時に爆発した。
ナンバー2『かなりの威力ね。間に合ったかしら。』二人の生死は気になるが、敵がまだ二人いる。姿が見えない。とりあえずナンバー1に合流しようと移動した。
ジョン『任務完了だ。』爆発を見て言った。
ナンバー1『そうか。ところで俺たちの仲間にならないか?もっと強くなれるぞ。』
ジョン『はっ。俺たちは今、彼女を殺したんだぜ。何を言ってるんだ。』
ナンバー1『あの女にもこの反乱軍にも興味は無い。俺たちの目的はお前だ。』
ジョン『理解できないな。お前たちの仲間になって俺に何の得がある。第一、お前の仲間も一人死んだんだぜ。』と言いながらこの男から逃げる隙を伺っていた。言葉通り、言ってることが理解できないのだ。
ナンバー2が近づいてきた。『他の二人はどこ?』
ジョン『さあな。そうだな、お前のような女を抱けるなら仲間になっても。』それ以上の言葉は出なかった。口から血が出たのだ。ついでに胸から刃が生えている。振り返って目を見開いた。
ジョン『なぜ?あの爆発から?任務失敗したのか?』そういうと倒れた。
ナンバー1『死んだ。』勧誘していた人間が目の前で死んだが、興味ないという感じだ。
ナンバー2『どこかにまだ二人いるわ。』
『その心配は無いわ。』ナンバー4に抱きついていたアレクサンドラが離れながら言った。
ジョンは、ナンバー4によって背後から刺されて死んだのだった。
アレク『二人は、こちら側についているの。黙っててごめんなさい。』
ナンバー1『そうか。多分、その二人は殺されたと思うぞ。この男が裏切りに気づかないはずはないからな。』
アレク『そう。だから自爆のことが事前に分からなかったのね。でも…アルバァ、助けてくれてありがとう。』ナンバー4を見つめながら言った。
ナンバー4『ジャックと呼んでくれ。』ナンバー4は目を逸らさなかった。
恋愛に鈍いナンバー2がようやく二人の気持ちを理解した瞬間だった。
数時間後。
アレクサンドラから全兵士に、ジョンはアメリカ軍の犬で改心させるつもりで傍に置いていたが、無駄だったので処分したと知らされた。
アレク『仲間にできなくて残念?』
ナンバー1『いや、仲間にできなければ抹殺するように指示を受けていた。もっともあのときYesと言っても結果は同じだったろう。』と言い、ナンバー4を見た。
ナンバー4『まあな。』
ナンバー2『そうよね。好きな女性が殺されそうになったのだから、許せないわよね。』おちょくるように言った。
ナンバー4『そうだな。』と言うのを聞いてアレクサンドラが嬉しそうにしている。
ナンバー2『ちょっと!反論しないところがムカつく。』と冗談っぽく言った後、真顔になって
ナンバー2『もうここに用は無いわ。帰還しなければ。アレクサンドラ、良かったら私たちと…』言いかけた時
アレク『いいえ、ここが私の居場所です。皆さんお別れです。』
ナンバー2『そう。』悲しそうに言った。
ナンバー4『ああ。もう会えないな。死ぬなよ。』
アレク『大丈夫。』
ナンバー4『?』よくわからないが別れるのに笑顔は気に入らないが、悲しい顔をされるよりはいいだろうと思った。
アレクサンドラはナンバー1と握手し、『ゾーンさん、事実がどれだけ辛くても前に進んでください。フェイクの中の真実を見極めてください。そして自分の気持ちに素直に。』
ナンバー1『ああ。前に進むつもりだ。』後半部分は何を言っているのかは分からなかった。
次にアレクサンドラはナンバー2と握手し、『…アリサさん、人はいつか死にます。辛くてもその死を乗り越えてください。』
ナンバー2『?』
アレク『裏切りという言葉を受け入れてください。今はこの言葉の意味を分からないでしょう。でも覚えていてください。』
最後にナンバー4にキスをして、『ジャック、今後もジャックと名乗るのですね。力を得るのは時間がかかります。でも、どんなときも決して諦めないで。あなたには必ず助けてくれる人がいるはずです。』
ナンバー4は、頷いた。
ナンバー1『戻るぞ。』その言葉を合図に三人は消えた。
アレク『ジャック、死なないで。あなたが、キーパーソンよ。』消えた空間を見つめて言った。
アレク『…さあ事後処理をしなくてはね。感傷に浸ってる暇はないわ。』気持ちを切り替えて護衛や仲間の兵士のところに歩いて行った。
STステーションのモニター室。
教授『ダメだったか。』ナンバー2から結果を聞いて答えた。悲しい顔をしてナンバー4を見ている。
ナンバー1『ああ。不適合者だったので処分した。』
ナンバー2『教授、タイムベルトの新機能は役に立ちました。』
ナンバー4『あれは最高だな。もっと使える回数が増えないのか。』
教授『うむ。回数は、現時点では4回が限度だな。』
ナンバー2『往復で使用するのがベストだったので実質2回になりました。』
教授『分かった。回数は考えてみよう。長いダイブで疲れただろう。しばらく自由にしていい。』
三人はモニター室を後にした。
教授は、言わなかった。自分たちの存在を知るものがクロスポイントでどうなるのかを。買い出しの際のように数日もすれば忘れるような印象を持つ接触程度であれば問題ないだろう。だが、ナンバー4を知るアレクサンドラ。ナンバー4を知らないアレクサンドラ。そんな世界のアレクサンドラがクロスポイントで一つになれば意識は混乱し、抹殺の対象もしくは自殺になるだろう。やる気を出しているナンバー4にそれを知らせる気にはなれなかった。




