11.教授の理論
STステーションの教授の部屋。
ナンバー5とナンバー6が遊んでいる。
教授は、それを見ながら考えていた。なぜ変化がリセットされたのか。順調に変化が蓄積されて、あの未来を回避できると思いはじめたところだったのだ。二つの原因が考えられる。そのうちの一つについての可能性を考えようとしたとき、以前、メンバーで食事をしながら質問をされたことを思い出した。
ナンバー4『教授。任務に失敗したらもう一回同じ時代に行ってやり直せばいいんじゃないか。そんな漫画があったぞ。えーと、タイムフープとかを繰り返すんだったかな。』
教授『タイムリープのことかな。我々のやり方とは根本的に違う。タイムリープが実現可能になったとしても薬を飲んだ我々には使えないのだよ。精神と魂の話になるし、実際にはそういう体験をした人間もいるのかもしれないが、意図的にできないものは実現不可能と言うのだよ。実現不可能なことを議論しても無駄だ。今は、それについての議論はやめとこう。でもいい機会だ。食後に全員時間はあるかな。』
四人とも頷く。
教授『さて全員食事が終わったようだし、ナンバー2。コーヒーを入れてくれないか?』
ナンバー1『砂糖は多めで頼む。』
ナンバー2『分かってるわ。他はいつものようにブラックね。』苦笑しつつ答えた。
ナンバー2がコーヒーを配り終え、席についてから
教授『さて、我々が元いた世界がいくつもあることは説明したね。いわゆるパラレルワールドだ。例えば、Aという人間がいる。ある日のある時間に転んだ世界のA。だが、その時間に転ばなかった世界のA。これだけで二つの世界に分かれる。一人の人間だけでだ。これが生き物全てに当て嵌めたら、いや無機物にも当て嵌めたら、どうなる。無限の数のパラレルワールドがあることになる。』
ナンバー2『教授、その転ぶ転ばないの分岐点はなんですか?第三者の力が働かないとその人の未来が分かれないと思うのですが。』
教授『うん。我々のような存在のことだね。ナンバー1、ナンバー4、ここまでは理解できてるかね。』
ナンバー1『理解している。』
ナンバー4『分かってるよ。』
教授『でも我々だけでなく有機物無機物関係なく干渉する存在がいるんだよ。先ほどのタイムリープもその一つかもしれない。だがそれを経験してないので実在しているのか不明だがね。生き物の頂点は人間と思われているがその上に大きな存在がいる。私はそれが干渉していると推測している。』
ナンバー4『あー、神か。』
ナンバー3『違う。地球のことだよ。』溜息をついて言った。
教授『そうだ。その地球が、人間のタイムラインに変化を与えていると推測している。地球は生きている。大きな生物だ。そうしていくつものパラレルワールドを作って生き物や無機物の未来、運命を弄んでいる。私はその行きつく先を、未来を見て絶望してしまった。そしてそれに抗おうと思ったんだよ。その一歩が、私の手で変化を与えたら未来は変わるんじゃないかとね。何度も変化を与えたよ。だが変わらなかった。変化を与えても遠い未来は同じに修正されているんだよ。そこで原点に戻り一研究者として考えた。まずはデータを取ることから始めたよ。様々なポイントで変化を与え、地球の修復作用の力を探るためにね。そして一つの可能性にたどり着いた。ある現象が必ず起こることが分かった。それを私は簡単にクロスポイントと呼ぶことにした。』コーヒーを飲んで一息ついた。
教授『では、クロスポイントとは何か。以前説明してるが、ナンバー1、覚えてるかね。』
ナンバー1『多数のパラレルワールドが、一つしか存在しない時間帯だ。』なぜかナンバー4を見ながら得意げに言った。
教授『正解だ。思い出せば、私の愛読書の一巻の初めに書いてあったのだよ。あの主人公の結婚相手が変わっても遠い未来の子孫は同じになる。主人公側から見ればそれでいいが、結婚相手側から見れば子孫が変わってしまうんだよ。それを問題なく修正するのがクロスポイントなんだよ。それにその愛読書に「もしも〇〇X」と呼ばれるものがあるんだが、それはまさにパラレルワールドの分岐を作る道具だな。この尊敬すべき漫画家は、すでに地球という生物の能力のパラレルワールドやクロスポイントのことを知っていたんだと思う。』
ナンバー1、3、4(たまたまだろ、その漫画家に妄信しすぎだ。)と思ったが、口には出さなかった。以前、その漫画の悪口を言ったナンバー3に対しての教授の対応が怖かったのだ。
ナンバー2『たくさんのそれぞれ違った道を進んでいるパラレルワールドが一つになるとどうなるんです?どうして一つになるのですか?そのままパラレルワールドとして進まないのですか?』目を輝かせて聞いた。
教授『おそらく管理能力の問題だろう。パラレルワールドが多すぎると管理できなくなるので、いわゆるリセットしようとするのだろう。各世界のタイムラインのズレを調整する目的で、世界を一つにするクロスポイントを発生させているわけだ。例えばある世界でBという人間が死んだ。だが他のパラレルワールドでは死んでいない。これが一つになると死んだ世界でBに関係する人間は生きたBを見てしまう。そうならないためにはどうすればいいか。』
ナンバー4『すべての世界のBが死んでいればいい。』
教授『正解だ。たった一つの世界での死は、クロスポイントで全ての世界の死につながる。人は生き返れないのだから。100のパラレルワールドがあるうちのたった一つの世界で、ある人物が死んでしまうと、次のクロスポイントで全てのパラレルワールドのその人物も死んでしまう。有名なうわさ話としてドッペルゲンガーを知っているかね。自分のドッペルゲンガーを見ると近々死んでしまうという話を。これは、パラレルワールドのズレとクロスポイントが関係しているんだよ。クロスポイントが近づくと稀にパラレルワールドが混在することがある。それはズレている世界が重なって見えるわけだ。つまり人の行動が同じ時間でズレているからもう一人の自分が見えてしまう。そういう人物が調整対象となるから、死んでしまうというわけだ。また、調整が困難なズレを収束させるために、時には地震等の天変地異で一気に片付けているようだ。その準備をしながらクロスポイントを任意で作り出していると見ている。私はそのクロスポイントに注目して、効率的にDBHさせる時期がクロスポイントの直前にあると推測し、データを取り、確信して、デッドポイントを計算できるようになったのだよ。』
ナンバー2『どうしてクロスポイントの直前が効率的なのですか。』
ナンバー3『それは私も気になっていた。』
教授『クロスポイントでDBHすると、それは事故やテロとして処理されズレが生じない。逆にクロスポイントから離れすぎると時間があるから十分に収束調整できてしまう。直前のDBHだと調整のための天変地異等のイベント準備が間に合わずズレが残ってしまう。それを無くそうとクロスポイントを発生させて調整しようとする。そこを再度DBHさせると累積効果で未来を変えざるを得なくなると推測したのだ。逆に言えば一度でも任務に失敗すれば、リセットされることになるから慎重にな。クロスポイントは、同じ時間で発生するわけでないのでやり直しは効かない。分かったかね。ナンバー4。やり直しは不可だ。だが任務よりもみんなの命のほうが大事だから、どうしようもないときは帰ってくるんだよ。任務をリスタートすればいいのだから。』
ナンバー4『… … …』もう理解できていない。おそらくナンバー1も。ナンバー3は理解できているようだが、勉強熱心なナンバー2も理解度は半分ぐらいだろうか。
教授『そして我々は時から解放されてはいるが死んだら終わりだ。そしてバラバラにダイブしてはいけない。同じ時代にダイブしても同じ世界に行ける保証はないんだよ。私のタイムベルトでは時間を指定できてもパラレルワールドから特定の世界を指定できないのだよ。最初は世界Xにダイブして再び同じ時間の同じ場所を指定しても行く世界はXではなくYの可能性が高い。つまり、行く世界は不特定の世界でそれはパラレルワールドの数だけ確率の母数で割るから一人でダイブしてタイムベルトが故障したら探し出すことは不可能と言っていいだろう。我々は時の外の人間だから地球からすれば異物だ。クロスポイントを向かえたときどうなるのか予測不可能だ。無視か?消去されるか?分からない。だから慎重に最低でも二人で行動するようにな。』
ナンバー2『分かっています。戻れないのはイヤです。』
ナンバー2の悲しそうな顔を思い浮かべたとき、ふと累積効果の違和感に気づいた。それについて考えようとしたとき、帰還の知らせが届いた。あとからじっくりと考えようと思ったが、それどころではなかった。帰ってきたのが二人で、しかも負傷していたからだ。