雄牛丸連続殺人事件 その3
ー弥次馬 尊の記録ー
:ゴールデン・ファラリスカジノ:
・元々は新しいカジノとしてタンカーで運ばれていたが、土地の所有権に関わるトラブルの為に頓挫。タンカーで荷物を運ぶ者達が遊ぶ為にカジノがそのまま運営される様になる。この結果、密航者も増えている。そんなカジノでは大負けして借金を負った者が次々とカジノ付近のホールで自殺をしている。
・自殺者の存在や、タンカーの老朽化もあってこのカジノが売りに出される。それを買い取った者が雄牛丸と呼ばれる改装中の巨大客船に取り付けたらしい。
そんな曰く付きでヤバそうな船が近所の港に停泊しているらしい。テレビ中継越しでもなんとなく黒い靄が見えるので暫くは港に近付かないようにしようと思った矢先、姉がこう言ってきたのだ。
「高校時代の友人から雄牛丸のチケット貰ったので、一緒に行きませんか?」
全力で拒否した筈だった。なのに、気が付けば俺は雄牛丸の目の前まで来ていた。雄牛丸にある黄金の牛像から黒い靄がモクモクと出ている。見た目だけならば火事だと思えるが、それなら周りの人間が滅茶苦茶騒いでいる筈だ。なのであれは霊とかが起こす現象……と言うか瘴気なのだろう。
幸い、客室と黄金の牛像は離れた場所にある構造なので上手く行けば霊と出会う事はないだろう。そう思っていた俺は客室で休もうと思ったのだが……ひたひたとした足音や何かをズルズルと引きずる様な音が何度も響くせいで寝付くのが遅くなってしまった。霊感だけある体のせいで小さな物音にも過剰に反応しやすいの、どうにかなんねぇかなぁ……。
2日目、船の探検が粗方終わると、「あらぁ~、偶然じゃな~い」と声を掛けてくる男……もといオネェである古物商の神田 若葉が手を振ってきた。神田は単純にチケットを客に貰ったのでそのまま乗船したらしい。つまり、俺達がここで会ったのはまったくの偶然なんだろう。
神田と出会う時は大抵、神田が仕入れた曰く付きの物の調査に破格のバイト代で連れ出される時だ。なぜか金欠だったり急に入り用になった時に電話が来るので本来ならば断りたい時でも返事をしてしまう関係なのである。
「今日は古物商としてコネクション作りに来ているのよ~。」
偶然なら偶然のまま何事も起こらずに済みそうだと思ったのも束の間、その日の夜からこの船は黒い靄が誘導しているのか、将又何も考えずに航路を決めているのか、補給地に停泊するまでの間に何度も海に沈んでいた何かが船にまとわりついていた。
客船の窓にベタッと赤い手形が何度もバンッ、バンッと打ち付けられる、所在不明のコウモリが廊下を駆け巡る、ぬぼーっとしてつるつるな人型の物体が追いかけてくる、ラップ音が響くなどの怪奇現象が続いた事で俺は補給地の島に逃げだそうとした。だが、神田が「せっかくの船旅じゃな~い」とありえない程の追跡力で追いかけてきた結果、俺はあっさりと捕まるのだった。
ただ、その時にボサボサ頭の目立つ少年と知り合った事についてはあまり話さなくても良いだろう。
それから姉に肉バイキング的なイベントに誘われ、カジノの隣にあるホールにやってきた。肉が沢山食べられるという事でお腹を空かせて来たのだが、姉が爆食いしている途中でホールの電気がプツリと切れた。最初はブレーカーが落ちたのでは?と思われたが、「ウフフフフフ……」といった女性の声が天井付近から聞こえてきた事で違うのだと俺と神田は察したのだ。
カジノで破産して自殺したのは主に男性なのでなぜ女性の霊が?と思ったが、自殺した者の中には婚約者のいる男性がいて、同僚達に嵌められて破産に追い込まれたらしい。で、死んだ男の婚約者が後追い自殺して怨霊になりここに現れたのだと思う。
「操られている霊にも札は効かなそうね~。」
「それ別の結界で使ってた奴の余り引き取った分だろーが。気休めにもならないだろ。用途全然違うし。」
こんな会話をしている最中にも姉はボーイに頼んでシュラスコから肉を次々と切り出してもらって食している。多分、停電した事には気づいているけど霊達に関しては雰囲気すらまともに感じていないのではないのだろうと思えてくる。翌日に話を聞いても覚えがないらしいので本当に見えてなかったそうだ。
最終的に神田の持っていた御神酒(何度も蒸留して神力の濃度を高めた物)を姉に飲ませて、操られている霊を吹き飛ばし、女の霊を何度もぶん殴らせる事で怨霊から浄化させたのだった。……いや、ぶん殴ったというよりは肉を食べている時に動かしている肘が無意識に霊に当たっていただけだがな。
それから暫くは何も無かったのだが、ボサボサ頭の少年に演技を頼まれた時、浄化された霊の気配を感じた。神田も感じたらしいが……なんでもこの船に爆弾が仕掛けられていたのをポルターガイスト的な力で止めてくれたらしい。
その後は無事に船旅も終わったのは言うまでもない。ただ、姉が料理人の人達と仲良くなっていたのを見て、この人得しかしてないんじゃ……と思ったのは内緒だ。