盗作教授殺人事件 その1
~1日目~
大学寮から出る為に見つけたマンションは築数年で綺麗なのにも関わらず人気の無い部屋があるそうです。一応霊感の強い弟を連れて来たのですが、用心深くしたのが馬鹿らしくなる程、何事もなく荷解きが終わりました。
弟はゲッソリとした表情で帰って行きました。流石に巨大な冷蔵庫や沢山の調理器具を1人で運ばせたのは疲れたのでしょう。今度、特大のバケツプリンをご馳走しようと心に決めた私は両隣の人に挨拶をしに行きました。
右隣の人は1人暮らしの女子高生らしく、趣味はダイビングなんだとか。実際、ボディースーツらしき物が沢山部屋干しされていました。中には過激な衣装もあるのですが、彼女の趣味については放っておきましょう。
左隣の人は事務所も兼ねているらしく、玄関先に大量のシュレッダーゴミが入ったゴミ袋がありました。何の仕事をする事務所なのかは分かりませんが、差し入れを受け取った時に凄く喜んでいたので悪い人では無いのでしょう。
挨拶回りが終わった頃に、大学から電話が掛かってきました。最初は卒論を別ゼミの教授に盗作された挙げ句、謂れの無い理由で退学処分にされた事に関して、名誉回復系の連絡だと思ったのですが……電話越しに聞く事務員の声は憤慨しているようでした。
なんでも私や他の人物の卒論を盗作して書籍化した教授が殺されたそうです。正直アリバイはバッチリなのですが、動機があるからという事で仕方なく大学へと向かう事になるのでした。
大学に着くと、そこには色々な人が会議室に集まっていたので、日記帳に書いたメモを貼っておきます。
ーメモー
:警察関係者:
安土警部
・クール美人な女性警部。ボンキュッボンなスタイルなのに格好良さが勝っている。
桃山巡査部長
・物静かな大和撫子風の見た目の女性。安土警部の相棒的な雰囲気を醸し出している。
:死亡者:
案田 和正教授
・千色大学の教授。大学赴任から15年の間に何度か卒論盗作を行って利益を得ていた。他の教授からは疎まれているが、大学経営者のコネがある為に強く言えないでいたらしい。
・死因は自身の研究室でバナナの皮で転んだ時に頭を強打した事らしい。打ち所が悪かったので運が悪かったのだろう。
:容疑者:
私:弥次馬 二奈
・案田教授に卒論そのものを盗作された挙げ句退学にされた。
第一発見者+容疑者:坂上 聖
・案田教授に卒論研究の成果を盗作された為、キラキラネームで就職難だったのにも関わらず内定をくれた会社を諦めて留年する事となった。案田教授のゼミ生だった。
容疑者:水迫 美羽
・案田教授に卒論研究の成果を盗作された事で留年が決定した。元々は別の教授のゼミ所属だったが、教授が大学を辞めた為に案田教授のゼミに所属する事になった経緯あり。
容疑者:酒井 真子
・案田教授に卒論研究の成果を盗作された事で留年が決定した。案田教授のゼミ生。水迫とは大学入学時からの付き合い。
:関係者:
被害者妻:案田 加世子
・案田教授の奥さん。案田教授が盗作をしていた事を知らなかった。専業主婦であり夫が死んだ事で生活が危うくなる事にオロオロしている。
被害者娘:案田 美世子
・美容師の専門学校に通っている案田教授の娘。父親が盗作していた事にショックを受けている。
被害者娘の彼氏:北野 武
・千色大学の3回生であり、大学1年の時から美世子と付き合っている。常ににこやかな表情をしている。
事務員:徳之島 太郎
・大学経営者のコネを持つ。賄賂があれば何でもすると言われており、私の退学処分も彼がやった事である。案田教授が盗作を行う時の共犯者と見られている。
ーメモ終わりー
死体が発見されたのは今日の朝9時頃で、死亡推定時刻は昨日の夕方の事らしいです。その時間帯なら警備員さんが見つけるんじゃないかと思ったそうですが、研究室が施錠されているのを確認しただけでその場を離れたらしいです。それだけ雑なセキュリュティだから、学生寮に簡単に侵入されて卒論のデータが盗られるなんて事態にもなるんですよ……。
ただ、案田教授は盗作をする割には研究資料を誰もが読める様にと研究室を開放しているらしいです。午前8時には資料が置かれている場所迄の鍵が自動的に解錠される様になっているとか。流石に私物の多い場所には鍵を掛けて出かけるらしいですけどね。
第一発見者の坂上さんは、留年して卒論を新に書くために、不本意ながら自分の卒論研究データを閲覧する為に案田教授の研究室に向かったそうです。そこで、倒れている案田教授を見つけて警察に通報したそうです。通報している間に水迫さんと酒井さんが研究室に来ていたらしいですが、何か無くなった物は無かったらしいです。
今日はこれ以上の情報が出そうにないので解散となりました。折角なので大学の売店で限定のカップ麺をいくつか買って紙袋に入れて帰る事にしました。
そして、電車での帰り道……駅でぶつかった人が同じ紙袋を落とし、間違えて私の紙袋を持って走って行きました。残された紙袋の中身は……小麦粉ではなさそうな白い粉が入っていました。取引現場でカップ麺を意気揚々と取り出す黒スーツさんの運命やいかに。
~2日目~
翌日、スマホの着信音が荒々しく鳴り響きます。何があったのかと思い電話を取ると、昨日の警部さんでした。なんでも今朝、事務員の徳之島が遺体で見つかったそうです。
昨日の今日でまた大学に呼び出された私達は死亡推定時刻のアリバイを聞かれました。結果、前回集められた者達の中には全員アリバイがあったのでそのままお開きになりました。ただ、水迫さんと酒井さんの顔色が悪い事が少し気になりましたけどね。
さて、私は昨日食べられなかったカップ麺を購入して帰っていたのですが、今日は誰にもぶつからずに帰る事が出来ました。ただ、隣人も丁度帰ってきた所らしく、カップ麺を一つお裾分けして帰るのでした。
~3日目~
今日は特にする事も無かったので昼からやってる居酒屋に向かいました。そこは就活じゃないのかと思われそうですが、一応殺人事件の容疑者なので事件解決までは就活しなくても良いでしょう。一応蓄えや働き口の伝手はありますしね。
そう思いながら1人で沢山の料理と美味しいビールを楽しんでいると、斜め前の席で合コンしていた男女六名の内1人が突然倒れました。あの様子を見るとアレルギーの症状で過呼吸になっているのでしょう。取り敢えず119と思った所でスマホを家に忘れてきた事を思い出しました。
誰かが救急車を呼ぼうとした所で「これは事故じゃ無い!殺人事件だ!」と店員の1人が騒ぎ出しました。ちなみに、被害者は苦しみながらも普通に生きてます。早く薬打ってあげてください。
店員の結論を言うと「合コンで狙っていた男性が数合わせの既婚者で、落花生アレルギーがあると話していたので困らせてやろうと、トイレで偶然持ってきたピーナッツバターを指に薄く塗り込み、被害者のグラスの飲み口にサッと塗った、飲み終えた後のどさくさに紛れてグラスを割って証拠隠滅を図った」という事だそうです。取り敢えず早く薬打ってあげてくださいと思いながら私はほろ酔い気分で帰宅するのでした。
~4日目~
大学の敷地内に謎のドラム缶が出現したらしく、中身を覗くと酒井さんの刺殺体が入っていたそうで大学に呼び出されました。何故か案田母子が私が犯人では無いかと疑ってきていますが、昨日のアリバイはバッチリなので気にしないでおきましょう。ただ、案田母子が全身傷だらけな事の方が気になりますけどね。
今日はアリバイの事だけではなく、案田教授に盗作された卒論関係について質問されました。私の場合は学生寮にマスターキーで侵入されてUSBメモリごと持ってかれた事を伝えると、安土警部はなるほど……と呟いていました。
話を聞くと、案田教授に卒論を盗作されて自殺した者がいるらしいです。竹内 松久という名前らしいですが聞き覚えはありませんでした。他にも盗作された人はいますが、自殺したのが彼だけなのは何故なのでしょうと思いつつ、私は桃山巡査部長と共にピザ屋に向かうのでした。
~5日目~
昨日は桃山巡査部長が酔い潰れてしまったので近場のホテルを2部屋借りて一夜を過ごしました。桃山巡査部長曰く、昔から大和撫子らしくある様に強制されたせいで洋食をあまり食べた事が無かったらしく、容疑者の私を監視するという名目で着いてきたとの事です。
そんなこんなで桃山巡査部長と別れた後、私はホテル内にあるレストランで食事をして帰りました。奈良漬けを食べ過ぎたせいか若干ほろ酔い状態だったのですが、特に何事もなく帰宅できました。