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第7話元聖女様は無自覚な悪女なのかもしれない……

 トイレから出た俺は茉莉が待っている場所に戻る。

 携帯を弄り何やら確認している茉莉は俺に気が付く。


「おかえりなさい」


「待たせて悪かったな」


「いえいえ」


「で、ハンバーガーを食べることに決めたはいいが、どこのお店だ? ここらだとマック、モス、ロッテ、キングと色々あるだろ」


「個人的にはマックが良いです。期間限定のチキンタツタが美味しそうだったので」

 携帯を俺に見せつけて来た。

 画面にはマックの公式サイト。なんと言うか、聖女様と呼ばれる茉莉がハンバーガーチェーンについてネットで調べていたようだ。


「お前も普通の子なんだな」


「あ、もしかして、私がお店について調べるとかしない子だと思ってました? 良いですか、達樹くん。私はこう見えて普通なんですからね! 」


「分かったって。にしても、マックかあ……。普通女の子だったらハンバーガーだったらモスとかもうちょいおしゃれな感じがするところを選ぶと思ってたぞ?」

 こればっかりは別に茉莉だからと言う理由ではない。

 高校生くらいの女の子と言えば、マックなんかよりも少しお高めでおしゃれなハンバーガーの方が好きなイメージがあったからだ。


「好きなものは好きなんですもん。フレッシュと名のつく所よりも、マックの細くて塩気が効いたポテトが一番大好きなんです! あとはパティのお肉が基本的に他の所よりも硬くて噛み応えがこれまた良いので。ま、一番の理由は……子供の時から家の近所にあったのでよく食べてたからなんですけどね」


「俺もマックのハンバーガーはなんと言うか、落ち着く味だな。子供のころ、親父が飯を作れない忙しい時は良く食べてたし」


「じゃあ、私と同じです。私も小さい時は危ないので包丁を触らせて貰えなかったのでよく買って食べてました」


「包丁か……俺も小さい時はガスコンロと包丁は使うなって言われてたな」

 片親の心配性っぷりは酷くなりやすい。

 親父なんかは俺に料理なんてさせるつもりはなく、小学校4年生くらいになるまでは包丁を仕舞ってある棚を鍵で施錠してたくらいだ。

 もちろん、カップ麺を食べる時でさえ、お湯を沸かすためにガスコンロを使わせたくなかったのだろう。

 わざわざ電気ポットすら用意してあったくらいだ。

 そんな過保護な家庭で育ったのは茉莉もどうやら同じらしい。


「そう言えば、達樹くんはお料理とかはしないんですか?」


「しないな。親父が料理しなくても良いようにお小遣いを多めにくれてるせいか、まったくもってする必要が感じられないし」


「せっかくあんなに使いやすそうなキッチンがあるのに勿体ないです」


「というか、俺と同じような境遇な癖に、茉莉はどうして料理をしようと思ったんだよ。買って食うに困らないお金は貰えてたんだろ?」


「その……お母さんが仕事で忙しくても、私に必ず1食は手料理を食べさせてくれてたんです。それが結構負担を掛けちゃってるようでした。だから、私が作る様になればお母さんも楽になるかな~って」

 郁恵さんは茉莉に他の子と出来る限り同じように育って欲しい。

 忙しくても1食は温かみのある手料理を茉莉に食べさせたかった。

 それは茉莉の目に負担として映った。

 自分で料理をすれば、郁恵さんは料理をしなくて良いんじゃと思い、茉莉は料理をするようになった訳だな。


「聖女様と呼ばれるのは伊達じゃないか」


「あっ。また、私の事を普通の女の子みたいじゃ無く言いました!」


「単純に誉め言葉だ。ああ、こういう風に優しいから聖女様と呼ばれるんだなって思っただけだ。根はどこにでもいる女の子なのはもう十分理解したっての」


「じゃあ、聖女様と呼んだことを許します。でも、その……やっぱり、達樹くんから聖女様と呼ばれるのはちょっと寂しいので、普通に茉莉って呼んでくださいね?」


「分かった。分かった。聖女様」


「もう! 本当に意地悪です」

 ちょうど話に一区切りがついたころ。

 マックが食べたいと言われた時から歩き始めていた俺と茉莉はお店に辿り着く。

 時間は13時30分。

 ピークタイムはまだ続いており店内は混んでいる。

 とはいえ、まだ座れそうではあったので気にせずに注文することにした。


「チーズバーガーのセットを一つと……茉莉は?」


「あ、チキンタツタのセットを一つください。飲み物は紅茶でお願いします。私はそれで大丈夫です」


「じゃあ、後は骨なしチキンも一つください。あと、もう一つのセットの飲み物はコーラでお願いします」

 と言った感じで注文を終える。

 ひとまず、俺がお金を全部出し番号札を貰って脇にそれる。


「達樹くん。私の分のお金を払いますね」

 茉莉が財布から自分の注文した分のお金を貰う。

 触れる手と手。

 飴玉をくれた時もそうだが、本当にきめ細かくて柔らかい肌をしている。


「茉莉。お金と言えばいい事を教えてやる」


「はい?」


「親父の前で友達と遊びに行くって言ってみろ」


「どうしてですか?」


「かなりの確率で『そうかい? それじゃあ、これ』と言って、お小遣いを追加でくれることが非常に多い」


「し、しませんよ。そんな風にたかるなんて!」


「悪い悪い。茉莉はそんな悪い子じゃ無かったな」

 ちょっとした小話をしながら待つこと数分。

 番号札で呼ばれたので、ハンバーガーが乗ったトレーを持ち席に着いた。

 備え付けのお手拭きで手を拭き、二人で食べ始める。


 もぐもぐと少量を口に含み綺麗に食べる茉莉。

 こんなにも間近で食べている姿を見せて貰ったことがないせいか、気が付けばじっと見つめていた。


「達樹くん。そんなに見られると食べにくいです。私の食べる姿なんて、面白くないので見なくて良いんですよ?」


「クラスメイトとはいえ、あんまり接点はなかっただろ。だから、まあ、なんか新鮮な気分で茉莉の食べる姿に有難みを感じた」


「これからは嫌と言うほど、食卓を一緒に囲むかもしれないんですから。こんなのを有難がらないでくださいよ」


「それもそうか」

 茉莉が食べる姿を眺めるのを辞め、チーズバーガーを齧る。

 口に頬張って噛み続けていると、視線が降り注いでいるのに気が付く。

 で、口の中が綺麗になってから茉莉に言った。


「お前こそ、俺をまじまじと見るなよ」


「だって、男の子とこういう風にご飯を食べた事なんてないんですもん。ちょっぴり、気になっちゃいました」


「ったく。俺にまじまじと見るなって言った癖に」


「ふふっ。ごめんなさいです」

 俺と茉莉は他愛もない話をしながら昼食を済ませていく。

 ハンバーガーを食べ終え、少しだけ休憩していると、


「達樹くん。ちょっと良いですか?」


「ん?」

 まともな返事を返す前に茉莉の手は俺の顔に伸び、チリ紙で俺の頬を軽く擦る。


「口元が汚れてたので拭いちゃいました」


「……」


「どうしました?」


「いや、まあ、今みたいに口元を拭くって、俺以外にやった事あるのか?」


「しませんよ? これは、家族である達樹くんへのサービスです」


「にしても、張り切りすぎだ。もうちょい気軽で良いだろ」


「何事もはじめが肝心です。達樹くんと仲良くなるためには露骨なくらい世話を焼いちゃうくらいが、ちょうど良いと思いません?」

 仲良く成るために、積極的に色々と行動する。

 仲良くなれれば良い程度で、適当に行動する。

 どっちが仲良くなりやすいのかは誰にだって分かる。

 だから、俺に対して茉莉は優しくて誰よりも仲良くなると素をさらけ出してくれるに違いない。


「とはいえだ。今まで、ただのクラスメイトだったんだ。ほどほどにしてくれよ?」


「ほどほど?」


「いや、まあ。そんなに優しくされたら、勘違いしそうになるだろ」

 お前らは明日から兄妹だと言われて、すぐに受け止められるわけがない。

 子供の時なら違ったかもしれないが、俺と茉莉は高校生。

 兄妹になるのには遅すぎた。

 どこまで行っても、俺と茉莉は兄妹もどきにしかなれない。

 現に今だって、茉莉は……俺と仲良くなるために素をさらけ出しているだけ。

 俺は純粋に仲良くなりたい茉莉の気持ちをありのままの形で受け取れない。

 どうしようもなくドキドキしてしまうのだ。


 俺も馬鹿じゃない。

 茉莉はきっと俺とはただ単純に家族として仲良くしたいだけ

 親父も郁恵さんも茉莉も困らせたくない。

 俺が茉莉の事を好きだと打ち明ければ、家族は崩壊してしまう。

 この思いは胸のうちにとどめておくべきだ。


「そうでしょうか?」

 本人はそれは無いと、きょとんとした顔。

 これ以上は不味い。

 茉莉にこのまま振る舞わせていたら、まず間違いなく理性を抑えきれない自信があるからこそ俺はハッキリと言う。


「いやいや、茉莉みたいな可愛い子から露骨に優しくされたら、そりゃあ誰だって勘違いするからな?」


「ふふっ。大丈夫ですよ? 私なんかに優しくされても、達樹くんが勘違いするなんて絶対にないと思います」

 大胆不敵な笑みを浮かべた茉莉。

 俺が想像以上にドキドキしてしまっている事を分かっていなさそうだった。

 証拠にとんでもなく軽い感じで茉莉は冗談を言って来た。


「あ、そうです。だったら、達樹くんが勘違いしちゃったときは、責任を取ってあげましょう。ほら、私と達樹くんは血が繋がってないので問題はありませんし」


 目の前にいる茉莉は聖女様だなんて呼ばれてるけど、実は悪女なんじゃないか?

 そう思い始める俺であった。

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