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第6話好きな子ほど虐めたくなる

「ん~、何が良いんでしょうか?」

 親父と郁恵さんの再婚祝いを買いに来た俺と茉莉。

 色々と見て回るが、どういう物が喜ばれるのかが良く分からないでいた。

 いつまでも悩んで居てもしょうがないので、携帯で再婚祝いにうってつけな贈り物を調べ始める。


「再婚祝いという事で、普段の生活に実用的なものを送るケースが多いらしい」


「食器とか家電とかですか?」


「そうそう。あ、花っていうのも良くある贈り物だとよ」


「花も良いですけど、形に残せる物の方が……」

 歩きながら、あたりを見渡す茉莉。

 今いるフロアはカバンや衣類が軒並みを連ねる場所だ。

 俺も引き続きネットを使い何を贈れば喜ばれるのか調べる。

 そしたら、バスタオルのセットが無難で良いとネットの記事には書かれていた。 が、息子と娘からバスタオルって微妙としか言いようがない。

 タオルを再婚祝いのプレゼントにするのは知人くらいの間柄で、相手に気を使わせない程度に送る品物だろうしな。

 正直に言うと、茉莉が言った花を送るのが無難かつ正解な気がする。

 だけどまあ、時間はたっぷりあるし、そう答えを急く必要もない。

 携帯を弄るのを辞め、きょろきょろとあたりを見渡す茉莉に話しかける。


「取り敢えず色々見て回るか」


「はい。そうしましょう!」

 茉莉とゆっくり色々と見て回り始めた。

 歩いて数分後の事だ。

 茉莉がピタッと歩みを止めて俺に顔色を窺うように聞いてくる。


「達樹くん。お洋服を見ても良いですか?」


「ああ、好きなだけ見てくれ。時間には余裕があるしな」


「引っ越しで古い服は捨てることにしたので、結構お洋服が少なくなっちゃったので助かります」

 服を見る茉莉の後ろを歩く。

 季節は夏目前だ。もう洋服屋は夏服ばかりが所狭しと並んでいる。


「今日の服を見て思ったが、茉莉っておしゃれさんだよな」


「そうでもありません。私を褒めても何も出ませんよ?」


「期待してないから安心しとけ。お、これが可愛いな」

 茉莉に似合いそうな服を見つけ、つい声を上げてしまった。

 そしたら、興味津々で俺が可愛いと言った服を手に取る茉莉。

 

「ふふっ。可愛いですか?」

 俺が可愛いと言った服を体に当てがう茉莉。

 でも、一瞬して服なんかよりも茉莉の可愛さに目を奪われてしまった。


「あの~。達樹くん?」

 いつまで経っても返事を貰えなかったせいか、茉莉は俺の顔を覗き込んで来た。

 はっと我に戻った俺は茉莉にはっきりと言ってやる。


「茉莉が着てるものなら、何でも可愛いからな。安心しとけ」


「私じゃなくて、服が可愛いか教えて欲しいのに……」


「だって、何着ても似合いそうだし」


「じゃあ、これなんかはどうです?」

 わざと似合わなさそうな服を体に当てがい見せて来る。

 それでもまあ、やっぱり茉莉の可愛さなら何を着ても似合うのだ。


「意外性ありで可愛い」


「むむむ。それじゃあ、これは?」


「可愛い」


「じゃあ、これです!」


「可愛いぞ」

 なんとしてでも俺に似合わないと言わせたい茉莉は一店舗では飽き足らず、次々に違うアパレルショップのテナントに入って行く。

 で、あまりにも俺が頑なに何でも似合うというのが気に食わなかったのだろう。

 茉莉はおふざけで俺にこう言い始めた。


「達樹くんが何でも似合うって虐めるので怒りました。と言う訳で、何でも似合うのなら、私に服を選んでくれますよね?」


「……そう来たか」

 したり顔で、どうだ困ったかと言う顔をする茉莉。

 

「よし、じゃあ選んでやろう」

 

「え、本当に選んじゃうんですか?」


「ああ、選ぶ。茉莉が選んで良いっていたんだからな。と言う訳で、これなんてどうだ?」

 手渡したのはシースルーのブラウス。

 生地が薄く肌がくっきりと透ける服だ。

 それを渡した理由は単純。

 シースルーって苦手なんですよね……と茉莉が言っていたからだ。

 俺がわざとこうしているのが分かっている茉莉は、ぷくっと頬を膨らませる。


「酷いです……」


「悪いな。俺は意地悪なんだ。で、買うのか?」


「か、買いません。これは恥ずかしくて着れません……。えっちな服を着せてこようとする達樹くんには、服を選んでなんてもう言いませんから!」


「シースルーのブラウスをえっちな服って思う茉莉の方が、えっちな子だろ。俺は普通な服を選んだだけだ」


「え、えっちじゃないです! というか、絶対に達樹くんって私を虐めるの好きですよね?」

 頬を赤くしてあたふたとする茉莉。

 なんというか、こういう反応をするから虐めてしまいたくなる。

 普段は聖女様と呼ばれ、優し気な笑みと落ちついた雰囲気を漂わせている。

 そんな彼女だからこそ顔を赤くした時、誰よりも可愛いのだ。


「ん、ああ。好きだぞ。気に障ったか?」

 とはいえ、失敗だ。

 馴れ馴れしくし過ぎだ。

 あと、苦手な人には苦手な性的な方面でもからかってしまった。

 さすがにまずかったと後悔し始める俺。しかし、一瞬にしてその後悔は晴れる。


「前にも言いましたけど、私の事を虐めるというか弄って来る男の子って全然いないんです。だから、その……私から言うのも変な話なんですけど、これからもこういう風に接してくれると嬉しいです」


「例えばこんな感じか?」

 茉莉の頭をぐりぐりと強めに撫でる。

 女の子からしてみれば、こんなことをされたら怒るのは当然。

 でも、茉莉は違った。


「ごわごわになっちゃうので辞めて下さいって。まったくもう、達樹くんってば、本当に意地悪なんですから!」

 茉莉は嫌そうに怒ってはいるが、どこか楽し気に笑ってくれた。






 そして、見て回り初めて2時間が経った頃。

 俺と茉莉が再婚祝いにプレゼントするものが決まった。

 薄いブルーと薄いピンクのペアグラス。

 お値段は俺と茉莉の手持ちで十分に手の届く範囲の代物だ。

 ラッピングをして貰い紙袋に入れて、持ち歩く茉莉は不安そうな顔で口走る。


「大事にして貰えるでしょうか……」


「親父と郁恵さんなら大事にしてくれるだろ」

 

「ふふっ。確かにそうです。きっと喜んで貰えますよね?」


「そうに決まってる。さてと、これからどうするんだ?」

 無事に再婚祝いのプレゼントを買った俺達。

 今日の目的を果たし、予定という予定はもうなくなったので聞いてみる。


「手荷物が増えてしまったので、歩き回るのは微妙ですよね。これは失敗です……。あ、でもサービスカウンターで預かって貰えるかもしれません。それがだめならロッカーに預けましょうか」


「お、おう。なんかこの後も遊ぶ気満々だな。てっきり、このままお開きの流れだと思っていたんだが?」


「達樹くんと早く仲良くなりたいんです。だからこそ、今日は再婚祝いを選ぶついでに達樹くんと一緒に遊ぼうと思ってお出掛けに誘いましたし」


「なるほど」


「私と一緒に遊ぶのは……嫌です?」

 

「嫌じゃない。むしろ、大歓迎だ。と言う訳で、再婚祝いを預けたら昼飯でも食べるか」


「はい、そうしましょう!」


「で、飯はどこで食べたい?」


「私はハンバーガーが食べたいです」


「ハンバーガーが食べたいって意外だな」

 聖女様=気品がある。そんなイメージからジャンクフードであるハンバーガーを自分から食べたいだなんて思いもしなかった。

 俺が意外そうな顔をしていると、茉莉は頬を膨らませて俺に文句を垂れる。


「私だって普通にハンバーガーくらい食べますからね? というか、食べ物の中ではかなり好きな部類です」


「悪かったって。そう拗ねるな。でも、イメージがなあ……」


「逆に聞きます。今時、日本人でハンバーガーを食べた事のない人っていると思いますか?」


「ほとんどいないな」


「つまりそういうことですよ?」


「茉莉はその中のほとんどいないじゃ……。悪い、悪かったって」

 ぴくッと眉が動き何やら反撃をしてきそうな茉莉を見て言い留まった。

 まあ、ほとんど言った後だけど。


「分かればいいんです。分かれば」


「んじゃ、ハンバーガーを食べるか。っと、その前にトイレ行って来て良いか?」


「あ、気にせずにどうぞ。じゃあ、私はここら辺で待ってますね」

 茉莉を待たせてトイレに向かう俺。

 トイレの個室に入り鍵をかけ、ズボンを脱がずに座り込む。

 そして、どうしようもなく抑えきれなくなってしまった気持ちを吐き出した。


「茉莉が可愛すぎる」

 服選びの時、ちょっと意地悪した時に見せたふくれっ面。

 シースルーのブラウスを茉莉がえっちな服と言ったので、そう考える茉莉の方がエッチなのでは? と言ったらあたふたと顔を赤くした。

 虐めて欲しいと言われたので、ぐりぐりと強めに撫でてみたら、嫌そうにしているが、どこか嬉しげだった。

 再婚祝いにペアグラスを送ること決め、喜んで貰えるか不安そうな顔。

 ころころ変わる表情が可愛くて可愛くてしょうがない。


 そして、今日を通じて俺は完全に気が付いてしまった。




「好きな子ほど虐めたくなるか……」

 






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