前編
「いつかまた・・・。そう。来世で、お会いしましょう。きっと逢える。」
息も絶え絶えに一人の女は言う・・・。
その身を横たえ、鮮血に身を染めて・・・。
「姫っ!そんなこと言わないでください。私には耐えられません。」
女の肩を抱き、苦しげに。本当に耐えられない・・・。そう訴える。
だが無常にも女の白いドレスは真っ赤に染まり、胸に大輪の赤い薔薇を咲かす。1本の矢を中心にどんどん広く、そして鮮やかに・・。止められない、止める事の出来ない致命傷の傷。死臭がいっそう濃くなる。
男はどうしようもない事態なのは分かっていた。だが、認めたくなかったのだ。彼は騎士であり、過去何度も戦場を渡り歩き「死」と隣り合わせの生活をしてきた。戦友を目の前で失なったり、死に行く人に何もできなく硬くコブシを握るなど数え切れないほどあった。経験により、人一倍この状態がどうしようもないのはわかってしまう。だが、心がどうしても認めることができない。
「まだ大丈夫です。医者に見せれば・・。」と何度も自身と姫に言い聞かせる。
「無理をいわないでください。オスカー。私は怖くないのです。」
女は震える手を男の頬に当てる。
はっと男は彼女を大きく見、片手は彼女の背に残したままもう片方の手は頬にある彼女の手に添えた。
「私たちは、この世界で愛を語るには恵まれませんでした。ですが来世では障害なく手を取り合えると信じれるのです。これは終わりじゃありません。スタートなのですわ。ね?喜ばしいことでしょう。」
すでに血が失われすぎ青くなりながらも、必死に笑顔を作る。
男が添える女の手を硬く握り締めた。
「姫がそういうのならば、私も信じましょう。そして同じ時代。同じ年に生まれれるよう、私も一緒に逝く事をお許しください。すべてを捨ててきた今、貴女が居なければ私に生きる意味などないのです。」
「分かったわ。オスカー。一緒に・・・」
深夜もすぎる森の中、一人の騎士と一人の姫は供に息をひきとった。
愛する二人が供にあることを時代に許されなかった。駆け落ちがばれ、追っ手は二人に矢を放つ。
計画は失敗した。
政略結婚の駒がひとつ失われた事に父王は舌打ちしたが、それだけであった。一人の姫と一人の騎士は時代の中重要な意味を一切もたず忘れ去られていった。
本人達以外は・・・。
そう。まためぐりあえるから・・・。
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目の前には友達の友香が手を合わせて拝みこんでいる。私はテーブルの上にあるお弁当を食べながらその様子を視界の隅にいれた。
「ねえ!お願い!どーしても、一人たりないの。」
「やです。」
どうやらコンパの面子が一人足りないらしい。そこで私に人数あわせをお願いしたいらしいのだ。
「これをあげるから。さくらー。」
友香は食堂メニューのB定食の小鉢を私に突き出してきた。
「いらないわよ。お弁当あるし。」
「もー。さくら身持ち固すぎだよ?前世だか、夢の憧れの人だかわかんないけど現実みなよ!出会いがなかったら彼氏なんてできないんだからね。」
余計なお世話です。
小鉢はきっちり友香に返却し、はぁ。とため息したくなる心境を押さえる。
きっちり前世ですよ。信じられないかもしれないけど。
生まれた時から覚えていたわけじゃなく、成長するにあたって少しずつ自分の記憶に不純物が混ざっているのに気がついた。
夢とかそういう形で覚えているわけじゃなく、昔みた映画をとても感情移入し、しかも現実と混乱している。そんな状態で記憶に少しずつ流れ込んでくるイレギュラーな記憶。
混乱しつつもその断片的に思い出す記憶はつながっていて、かけたところは多くとも一人の人生を描いているのに気がつくのに時間はかからなかった。その一人の人生の大幅を整理できたのが高校半ばぐらいのときで、今になっては新しい記憶が混じることも少なくなり、もうひとつの過去の記憶として落ち着いている。
イレギュラーな記憶の中の自分は「オスカー・イル・ファレンス」国を守る騎士をしていて、一人の姫を守るうちに愛し合ったが、所詮騎士と1国の姫の愛は祝福されるわけがなく駆け落ちを決行した。だが、報われる事なく失敗し未来を誓い合い死したのである。
そして水木家長女として生まれ変わったのだと思う。それが私、水木さくら。
過去男だったのが、女として。
せっかくなら前世と同じ男として生まれたかった。とおもうのは仕方ないと思う。
もちろん男なのだから騎士仲間と風呂に入った記憶もあれば、女性と一夜を過ごした記憶もあるわけであるわけで・・・。
若い頃は混乱のきわみだったのは説明するまでもないと思う・・・。
現在は女性体である上に精神的なものも、もちろん女性なので男を好きになると思う。だが、過去に誰かを好きになったことはない。
だけども・・・。
私がこうやって生まれ変われたのだから、姫も生まれ変われているだろう。
同じ時代で、同じ国に生まれる確率なんて少ないのだが、可能性は考えてしまう。
出会えたらまた好きになるのだろうか・・・。
だけども、同じ女同士だったら恋愛はできないよね。
恋人になろうだなんて思っていない。
ただ実際前世で約束が事実なら・・・。あの時の痛みは真実だったから。
ただ自分の為に待っていたかった。
20の誕生日を迎えるまでは、思い出に浸ってみようと・・・。
私はそう決意していた。
すぐに彼氏を進めたがるこの悪友には、さわりだけ簡単に事情は説明してある。私には待つべき人がいると。
「別に彼氏とかじゃなくて、お持ち帰りだけでもいいと思うよ?」
「しません!そんなこと!!!!」
現在の女の子の基準にはついていけないのは過去を引きずって古い慣性を持つためなのか、単純に自分が初心だからなのか?
私はぶーたれながらもコンパに行く事になった。
とりあえず1次会だけ参加すればいいからと押し切られたのである。
だけどコンパとか症に合わないです。絶対。
適度に盛り上がっている中、私は冷めていた。
居酒屋の料理はおいしい。おいしいんだけど・・・。
ムードを盛り上げるため落とした照明のなか、男女交互に座ることになり私の横にも知らない男性がいる。それが面白くない気持ちを倍増させた。
初めて会った人と隣とかなにが楽しいのだろう?
そう思いながらも会話をしないといけないゆえに、適当に相槌をうち、話をあわせる。
疲れてきた。
来たのはやっぱり失敗だったな・・・。
後悔がぐるぐる回る。そしてどんどん後ろ向きへと思考が進む。
トイレにたって、戻ってくるのやめようかな。おなかいっぱいになったし。会費は前払いだったし・・・。
本気でこんな事を考えていた・・・。
ぐいっ
ふいに手をひっぱられる。
え?
手をひっぱった先をみてみると、目の前にいたはずの男の子がいつの間にか隣に立ち、私の手をひっぱっていたのである。そして彼は幹事の友香の方をみて言った。
「友香ちゃん。君の友達借りるね。というわけだ、雄二後の事は頼む。」
私にはすぐには理解できなかった。
えっ?
なに?どういうこと?
ぐいぐいつかまれて、店舗の外へといく。
後ろから「さくらー!がんばってー!」
ていう無責任な友の声が・・・。
えええええええええ??????
「ちょ、ちょっと放してください。」
彼に向かって私はいった。すでに店の外までひっぱられ、外気が二人をつつんでいる。
「だって、出たかったんでしょ?あ。俺、翔。どうせ名前覚えていなさそうだから。」
にっこり笑って翔は言った。
図星すぎて何も言えない。実際に人の名前も顔も一致しない程度しか記憶にとどまっていない。
「顔に面白くありません。って書いてあるからさ。他の人が気を使っちゃうよ?」
これまた図星すぎて何も言えなかった・・・。
来た限りは、もっと気をつけなくてはいけなかったのである。
「ごめんなさい。私が悪かったです。」
「でも、さ。本当は別。」
にっこりと彼は笑う。私の目をみて。そして嬉しそうに。
「そういうのとは関係なしに連れ出したかったんだ。さくらと二人で話したかった。というわけでジュース1本ぐらいは付き合ってくれるよな?」
彼は店の片隅を指差した。その先には自販機。あの自販機でジュースを買おうってことだろう。
彼はにこにこと笑顔を浮かべていた。
悪い人じゃなさそう。
それにあの場から連れ出してくれたのは感謝しなきゃだしね。
加え気を使わせてしまった罪悪感もあり、私は小さくうなづいた。
「じゃ、お詫びとして私が出すわ。」
「いいっていいって。さ。こっちこっち。」
翔は私の手をつないで自販機まで歩きだす。
その手は冷たい夜風に負けないぐらい暖かかったのである。
「紅茶でいいかな?」
「あ、うん。ミルクで。」
彼は自販機にいって500円玉をいれる。自販機のジュースの指定ボタンが青く光りミルクティーの前のボタンをぽちっと押した。
がこんとジュースがおちる。彼はかがみこみ缶を取り出すと私に軽く投げた。
「ありがとうございます。」
そして彼は自分の飲み物を選んで取り出していた。
夜風が気持ちいい。
少量とはいえアルコールを摂取した後だったので、軽くほてっている。
「辛かったら自販機にもたれかかったら?あ。でも服汚れちゃうか?」
「普段着だから大丈夫。じゃあ、遠慮なく・・・。」
私は自販機に体重をあずけた。
普段アルコールを飲まないから、酔っ払い状態になれてなくて・・・。
でも不思議とさっきのようなイラつきはまったくなかった。
「聞いてもいいかな・・・。そんなに顔に出てました?」
実際問題楽しくはなかったのだけど、少なくとも表面上はつくろっていたつもりだった。
あまりにも不機嫌丸出しだったのなら、友香に謝罪せねばならないだろう・・・。
「皆が気づいてたわけじゃないと思うよ。ただ、俺はずっとさくら見てたから。すぐに分かった。」
翔が私の目を見つめる。
ドキドキ・・・
不本意にもなる鼓動。
翔は綺麗なとても整った顔をしていて・・・。
「だ、誰にでもいってるんですか?」
「いいや。さくらだけだよ。」
私の上に腕を置き、彼は体をかたむけた。
顔が接近する。
「運命を感じたんだ。」
彼は私の耳元で軽い吐息と供にささやいた。
私であり、私じゃない名前を・・・。
「オスカー。」
一瞬理解に時間がかかった。
目をみはって彼の目を凝視した。
くす。
彼は軽く笑う。
私は、彼の行動見続けた。
半ば意識は飛んでいたのだと思う。
彼の頭はそのままスライドして、更に自分の目の前によってくる。
そして、いまだに唖然としている私に軽く口付けをおとした。
触れるだけのキス
柔らかく暖かい唇が一瞬ふれあい、そして離れる。
離れた後も私は変わらず、翔をただ何もいえず見つめていた。
これが自分のファーストキスっていうことも、頭から吹き飛んでいた。
さっき、なんていったの?
聞き間違い?
「ここは目をとじるものだろ?そんなことも忘れちゃった?オスカー?」
再び彼ははっきりと過去の自分の名前をよんだ。
今度は聞き間違いじゃない。
友香には前世の話はいった。だが自分の名前までは告げていない。
誰にも名前までは言っていないのだ。知っているとしたら同じ環境であるただ一人の運命の人しかいない。
「もしかして、姫?」
私は翔を指差して言った。
前世での約束。
それはかなった。
また会える・・・。嘘じゃなかった。
だけどなんで、お互い性別が前世と逆なのですか?????