すべて運命“さだめ”なのです
「う〜〜。さみぃ」
「まじヤバイっすね!俺の地元なんか今20℃っすよ〜!」
「…ふーん。てか、もう人なんて歩いてねーな。俺そのまま帰るわ。マネージャーによろしく言っといてね〜」
「え、ちょ、シンヤさんズルっ!」
朝日が昇る午前5時。俺はこの汚くて、臭くて、胸焼けがする夜の街から早く抜け出したくて、自然と駆け足になる。
もう4月になったのに、深夜はダウンコートとマフラーの重装備が無きゃ死ぬ温度。最近の平日は店がえらい暇で駅前通りでキャッチをする日々だ。
生まれて27年、この場所から出て暮らしたことのない俺は、他の土地の温度なんて想像すらできない。
さっき一緒だった奴は職場の後輩で、先月始めに本店から移動してきた21歳。
都会風を吹かせた鼻のつくガキだ。
そして俺は都会でもなく田舎でもないこの街でホストをしているただの平田 恭介って名のアラサーだ。
因みに“シンヤ”は源氏名。
半年前とある事情で、一人暮らしの気楽な生活から実家に戻った。
家族を起こさないよう静かに家に入る。
すると居間のゲージで眠っていた俺の相棒が眼を覚ました。
「ワンッ!ワンッ!」
「こらっルーク、シーッ!」
ルークの名は俺の大好きな、某有名な宇宙映画から拝借した。
ゲージを開けルークをワシャワシャ愛でまくる。
満足したら、白地に銀の留め具の首輪から伸びる水色のリードをルークにつけ引っ張る。
このリードは、ルークの“ライト◯ーバー”的な感じがして俺のお気に入りだ。
仕上げに銀河宇宙の壮大な音楽を脳内で流して、
「さぁ、出発だ!!」
とは言ったものの、俺と散歩するルークはいつも全速力で走る。
くそっ、親父が散歩する時は走らないのによ!
今日は酒に酔ってないからまだ大丈夫だが、正直ルークの散歩は俺にとって生きるか死ぬかの戦いだ。
もちろん胃の中はリアルに宇宙戦争。
喉の奥から込み上げてくるキラキラキラ〜っとしたお星様をまだ一度も地上にばら撒いていない俺を誰か褒めてくれ。
5分程全速力で引きずられ、いつものUターンの曲がり角を見て残りの気合を入れる。
が、
ルークは曲がらず真っ直ぐ走り出した。
嘘だろ!!?
「ルーク止まれ!」
「ウ〜ワンッ!(嫌だ!)」
ノォオオオオオオオオ!!!
ルークは柴犬とポメラニアンのミックスらしく、小型犬にしては力が半端ない。
俺は長年ホストをしながら不規則な生活を送ってたのでちょっとひ弱な方だ。
ダメだ!仕事後にこれはキツイ…負けた。
されるがまま100メートル程引きずられて、俺の愛しくも鬼畜なルークちゃんは止まってくれた。
「ハァ…ハァ…」
目の前にはベンチしかない小さな公園がある。
こんな所に公園なんてあったのか…と思ったのも束の間、俺の目玉が確実に1㎝は飛び出した。
「ルークが消えた…」
俺が掴んでいるリードが、直線のまま公園に向かって引っ張られているのに、途中で途切れている。
マジで“ライ◯セーバー”じゃないか!
ルークの姿は見えないが、リード先からその存在は
手に伝わってくる。
訳もわからないまま立ち尽くしてたら、勢い良く引っ張られて公園へダイブした!
「いってぇ…」
地面にひれ伏した俺が上を見上げると、
赤いドリルの髪をしたご令嬢の様な小学生がルークをワシャワシャしていた。
そして彼女は俺の方へ振り向く…
そう、俺は後から思う。
“出会いは偶然ではない。すべて運命なのです”
と。