第八話:侵攻
「具合はどうだ」
この人物には似付かわしくない、あまりに優しい口調に、リュートは苦笑した。
「あなたからそんなお言葉をいただけるなんて、思ってもみませんでした。人を心配する、という当たり前の感情もお持ちだったのですね」
その言葉を受けて、今度は相手が苦笑する番だった。
「それだけ嫌味が言えるなら大丈夫そうだな」
にやり、と笑って、リュートの傍らへと腰掛ける。
「あなたからこのような場所にいらっしゃるなんて思いませんでした」
そう言って、リュートは部屋を見渡した。日々の多忙さのため、ひどく部屋は散らかっている。ベッドには読みかけの本、床には脱いだままの服、そして机にはまったく手が付けられていない食事が放置されたままだった。
「ここは私の館だ。私がどこへ行こうが勝手だろう?」
そう言って、美しき翡翠館の主人は、懐から一つ包みを取り出した。そして、机の上の食器を、ちら、と見遣る。
「あまり、食べていないそうだな」
「……すみません」
「少しでもいいから食え」
そう言って、主人はリュートに包みを渡す。リュートがそれを開けると、中から出てきたのは、色とりどりの小さな飴だった。
まるでおもちゃのように可愛らしい飴に、リュートはおもわず顔を綻ばせた。
あの拉致未遂事件の後、リュートは翡翠館に戻るなり、昏倒し、丸二日間眠り続けたらしい。足の怪我も知らぬ間に縫われ、包帯が巻かれていた。久しぶりに目覚めた後も、体がひどくだるく、事の経緯を軽く報告しただけで、彼は自室で休むことを許されていた。
さすがにランドルフの館だけあって、リュートの自室のベッドといえども、鍛練所の宿舎とは雲泥の差で心地よさが違う。羽を傷つけぬように柔らかい素材でできており、いつもいい香りがしている。ふんわりと、優しく体を包むこのベッドがあることに、リュートはひどく感謝した。
もし、この心地よさを差し引いたとしても、リュートは宿舎のベッドには戻りたくないと思っていたからだ。とてもではないが、兄と幼なじみが愛を交わした場所になど戻る気にはなれなかった。
『リュートはここに置いていく』
あの夜の二人の会話が、まるで澱の様にリュートの心に沈殿し、その体を蝕んでいた。食べたいと思っても、どうしても体が受け付けぬ。少し食べても、すぐに気分が悪くなって吐いてしまうのだ。
そういえば、物が食べられなくなったのはこれが初めてではなかったと思い出した。あの、母が殺され、父が小さな遺骨となって戻ってきた幼き日も、こうしてリュートの体は食物を拒否していた。
一つ、赤い飴を手に取り、日にかざしてみた。砂糖の結晶がきらきらと光って、まるでルビーの様だ。
口にいれると、それはひどく甘くて、何故だか、涙がこぼれそうになった。
「それで、クレスタへの帰還許可の件のことだが」
低い男の声が、リュートを引き戻す。彼に気付かれぬように、リュートはさりげなく涙を拭った。
「はい。体が動きしだい、一度クレスタへ帰りたいと思いまして」
そこで、一瞬にしてリュートの表情が変わった。ギリ、と歯を噛み締め、険しく眉根を寄せる。
「今回の件、我が義父ロベルトがその子細を知っているはずです。一度家に帰ってきつく締めあげてやろうと思いまして」
バキリ、といつもの様に手を鳴らすリュートに、館の主人は再び苦笑した。
「相変わらずな山猫ぶりで結構なことだな。だが……」
言葉を一つ区切り、主人はその表情を深刻なものへと変える。
「おそらく、お前の義父は何もしゃべらんだろう。例え、お前にいくら締めあげられようがな」
漆黒の羽を揺らし、主人は腰掛けていたベッドから立ち上がり、ゆったりと部屋を歩きだす。
「お前が伸したあの覆面の黒尽くめの男二人、今、文字通り締めあげておるが、いっこうにその背後関係を喋る気配はない。一度、お前の義父に会ったことがあるが、あれもそういうたぐいの人間だろう」
「……では、どうしろとおっしゃるので?」
リュートの問いに、主人はその背を向けて、薄いカーテンのかかった窓の外を見つめた。
「手を組まんか」
主人のその意外な言葉に、リュートは困惑した。
「……どういう意味ですか」
主人は未だカーテン越しにじっと外を見つめたまま、忌々しげに呟いた。
「私も気に入らんのだ」
「え……?」
「私の知らぬところで、我が親父殿が何やら企んでおるというのが気に入らんのだ」
そうだ。ここへリュートをいざなったのは、他ならぬ大公だ。息子であるランドルフには何も知らせず、自分の膝元であるレンダマルにリュートを呼び寄せ、自分は宮廷に居座り続けている、東部最高位を有するロクールシエン大公。あの密偵は、義父ロベルトがリュートを大公に差し出したと言っていた。
「おそらく、お前の義父にすべてを命じているのは我が糞親父殿だ。こっちを探ったほうが早いし、確実だ。ならば、お前にとっても私と手を組んだ方が得策だろう?」
「それはそうですが、どうしてそこまで……」
確かに、リュートにとっては利があることだが、この企み自体はランドルフには直接関係のないことだ。何故そこまでこの件にこだわるのか、リュートには理解しがたい。
「一つ、はっきり言っておくが」
そう前置きして、ランドルフはリュートを振り返った。
「私はあの糞親父殿が大嫌いだ」
ふん、とランドルフは鼻をならす。
「あの糞親父殿が企むことなど、どうせ糞に決まっている。できるなら阻止してやりたいし、それによって親父殿の弱みが握れるなら願ったり、かなったりだ」
「弱み?」
「そうだ。私は親父殿が失脚するような弱みを手に入れたい。そして、それを盾に親父殿を引退に追い込むつもりだ。私が親父殿に代わって大公になるためにな」
ランドルフの言葉に、リュートは驚きを隠せない。ランドルフは押しも押されぬロクールシエン大公の第一子であるはずだ。黙っていれば確実に大公位が転がり込んでくる。それなのに、何故この様なことを。
「実の親子なのではないのですか? どうしてそこまで……」
リュートの問いに、ランドルフはもう一度、鼻を鳴らした。
「そうだ。残念なことに親は選べないのでな」
心底忌々しい、といった表情をランドルフは浮かべる。彼なりに、何か含むところがあるのだろう、と思い、リュートはそれ以上の質問は避けた。
「余計な詮索はせぬか。それもお前の美徳の一つだな。―それで、どうする?」
ランドルフは、いつものごとく、不敵な笑みを浮かべる。
「手を組む、というのが嫌なら、もう一度言ってやってもいいのだぞ? 『私についてこい』と」
おもわず、リュートはぷっ、と吹き出してしまう。
これでは、断るとは言えないではないか。ああ、まんまとこの男に乗せられてしまった。でも、けしてそれは不快ではない。
「何を笑っている」
「いえ、別に。わかりました。ええ、手を組みましょう」
その言葉に、ランドルフは満足げに頷いた。
「では、さっさと良くなることだな。私はいつまでも寝ている腑抜けとは手を組みたくはないのでな。早く私の秘書兼、護衛に戻れ」
つかつかと、再びリュートの側まで歩み寄ると、ランドルフはそう言って、いつものごとく、高いところから見下してきた。その様子に苦笑しながらも、リュートは一つ答える。
「……はい。せめてこの飴の分くらいは、あなたの役に立ってみせましょう」
「文字通り、『飴と鞭』といったところですかな」
リュートの部屋を出るなり、声をかけてきたよく見知った小男に、ランドルフはあからさまに不快な表情を見せる。
「いつから由緒あるレンダラー家の文官殿は盗み聞きが趣味になったのだ」
その言葉に、小男もきらり、と眼鏡を光らせ、しれっと言い返す。
「たまたま聞こえてきただけでございます。盗み聞きなんて、そのような下品な真似はいたしませぬ」
ふん、と鼻をならしてランドルフは、翡翠館の廊下を進む。それに追従し、尚も小男はランドルフに言った。
「あれの弱りぶりから察しますに、おそらくあれの兄と何かあったのでございましょう。ここで手厚く保護すれば、あの山猫も少しはあなたに懐くというもの。せいぜい今のうちはお優しくしておかれるのがよろしいかと」
その言葉に、ランドルフはさらに不快な表情を浮かべる。
「あれはそういうつもりでやったのではない」
「では、どういうおつもりで?あなたも、あれの兄があれから離れるであろうことはわかっていたはずでしょう。よもや、あまりに弱った山猫を見て、今更同情したのではありますまいな」
「……何が言いたい」
「ご心配申し上げておるのですよ。あなた様の、いざという時、非情になりきれぬところを。特に、こと弟君に関しましては」
ぴくり、とランドルフの眉が動いた。
「あれとクルシェを重ね合わせておる、とでも言いたいか、オルフェ」
「そうでなければよろしいのですが、と申し上げておるのです」
ランドルフは一瞬沈黙の後、きっぱりと眼鏡の男に告げる。
「……いらぬ心配だ。クルシェはあの様な山猫ではないわ」
「結構。では、さっさとあの山猫を手懐けられませ。あれは、きっとあなたの役に立つ。大公様が、わざわざ呼び寄せた人物です。大公様が不在のうちに、こちらの切り札として、存分に懐かせておかれるのがよろしいかと」
オルフェの言うことももっともだとも思うが、ランドルフには一つ納得がいかないことがある。
何故、あの糞親父殿はなかなか宮廷から戻ってこようとせぬのか。リュートが必要だから呼び寄せたのではないのか。ならば、何故鍛錬所に寄越す必要があった? 宮廷、もしくはロクールシエン家の本邸に呼べばいいだけの話では?
まさか、わざと私の元に寄越した……?
一つ仮説が浮かぶが、すぐに考え直す。その必要性が全くわからないからだ。
くそっ、とランドルフは悔しげに親指の爪を噛んだ。
とにかく、今はリュートを側に置いておいたほうがいいだろう。自分の側にいれば、周りにはレギアスらもいる。リュート自身も腕が立つし、ガリレアの刺客とやらも、おそらくはなかなか手が出せないに違いない。
それに命が惜しくば田舎へ帰れ、と密偵は言っていたそうだが、今更あれを戻すなど、我が親父殿とその腹心と思われるクレスタ伯ロベルトは承伏はすまい。なんだかんだと理由をつけてこちらに寄越すはずだ。
まったく、最近はなんと苦労が多いことだ、とランドルフは諦めたように、一つため息を漏らした。その様子を見ていたオルフェは、相変わらずのポーカーフェイスで呟く。
「今からその様にため息をついてどうなさるのですか。いつまでも私はあなた様をお助けはできませぬよ」
「……ようわかっておるわ、オルフェ。いずれお前は私の元を去る。そのことは心しておるわ」
「ならば、よろしいのですが」
くい、とオルフェはいつものように、その眼鏡を直す。その澄ました様子に、ランドルフは軽くいらだちを覚えた。
「余計な心配ばかりせずともよいわ。さっさと親父殿のところに密偵でも送る準備でも……」
そこで、突然、ランドルフの言葉が遮られた。
「若様!若様!!ランドルフの若様はおいでか!?」
翡翠館に、壮年の男の声が響き渡った。聞き覚えのある声だが、ランドルフはこの声がこんなふうに荒げられたのを聞いたことがなかった。
ほどなくして、侍女の案内で身なりの良い壮年の男が現われる。
ランドルフの横にいた、オルフェの顔が一瞬にして曇った。
「どうした。お前がこちらに来るなど初めてのことではないか、レンダラー」
珍しく息を切らせ、恭しく礼をしながら、ランドルフの前に進み出たこの男こそ、オルフェの父親にして、現在不在である大公に代わり、ロクールシエン大公領の政務を代理としてすべて引き受けている大公付き秘書長官、ハルト・レンダラーである。片眼鏡をその右目にかけたこの男は、普段はその息子に輪をかけたごとく、無表情で、まるで蝋人形がしゃべっているのかと思うような印象を与える男である。それが、その額に汗をにじませ、息を切らせている様子に、ランドルフはただ事でない事態を感じ取っていた。
「礼なしで許す。申してみよ、レンダラー」
「で、では申し上げます。し、侵攻でございます!」
「リンダール帝国軍、イヴァリー半島へ再侵攻でございます!!」
「な、なんだと!」
驚きを隠せないランドルフ達を前に、ハルト・レンダラーはさらに続けた。
「リューデュシエン南大公代理殿からより、急ぎの書簡が参りました。一昨日未明、突然南洋を渡り、帝国より竜騎士団多数侵攻。すでに三つの城が落とされたもよう。さらにその侵攻はとどまることなく、半島駐留軍と、現在ルークリヴィル城にて交戦中とのよしにございます!」
その言葉に、ランドルフはいきり立つ。
「かの国とは七年前、一切の侵略行為の禁止という条約が結ばれたのではなかったか!」
「無論、一方的破棄でございます!」
「それで、リューデュシエンの方からは何と言ってきておる」
「援軍要請でございます。駐留軍のみでは持ちこたえられそうにないと! 我がロクールシエン大公軍のイヴァリー半島への派兵をお望みでございます!」
もし、このまま南部がおちたら、……次はこの東部だ。ここに侵攻させるわけには行かない!
「派兵せざるを得ないようだな、レンダラー」
「はい、今すでに準備を進めております。ただ問題は……」
ロクールシエン大公、つまり親父殿の不在か。
ランドルフは先にレンダラーの言わんとすることを察する。
「……よい。私が出る」
「若様!」
「各東部諸侯へ私と大公の名で召集命令を! 即日このレンダマルに全軍集結させろ! それからレンダマル副市長に私の市長としての全権を委任すると伝えよ! 私は今より市長職を辞し、派遣軍の先頭に立つ!!」
「ははっ!」
ランドルフの命令に、即座にオルフェが動く。その様子を確認し、再び本邸へ戻ろうとしていたハルト・レンダラーをランドルフは呼び止めた。
「レンダラー、一つ聞き忘れた。相手方の将は誰だ? また、リンダール帝国皇帝か!?」
その問いに、秘書長官レンダラーは厳しい表情で答える。
「皇帝は皇帝でございます! しかし以前虜囚されたギゼル・ハーンではございません」
「それでは……」
「相手の将の名はカイザル・ハーン。リンダール帝国新皇帝でございます!」
――カイザル……。
ランドルフはその名に聞き覚えがあった。七年前に、一度聞いたことのある名前。
そう、七年前、一度だけ目にした、かの国の皇太子の名だった。
『ニクート・ヴェリーサ』
それは、リンダール語で『ごきげんよう』といった意味の言葉である。
だが、その上品な言葉も、意味がわからない有翼の民にとっては、ただの恐怖の呪文にしかなりえない。
侵攻より、丸二日。
イヴァリー半島最南部に位置するエルダー城では、今日もその言葉とともに殺戮が繰り返されていた。
一人のミラ・クラース兵が、また広場に引き出される。その顔一面に広がっているのは、底知れぬ恐怖の色だ。
「ニクート・ヴェリーサ(ごきげんよう)」
広場の一番高いところから声がかけられる。上品にそう声をかけられても、引き出された兵士は、恐怖に凝り固まり、その顔を上げることすらできない。
その様子を見た声の主は、ためらいもせず、一言冷たく言い捨てる。
「ヴァレ(よい)」
その声を聞くや否や、兵士の首に斧が落とされた。
血が噴水の様に吹き出す。
その様子を声の主は、眉一つ動かさず見つめていた。
今更、一人分の血が増えたとて、たいして変わらないからだ。すでに、城の広場の敷石はそのほとんどが血で紅く染まっていた。そしてその隅には、首と胴が離れたミラ・クラース兵の死体が山と積まれている。
また、一人、目の前に恐怖の色に染まった兵士が引き出された。
声の主は、もはや上品な挨拶すらしなかった。
「ヴァレ」
ふあああ、と間延びしたあくびとともに、また血飛沫が飛んだ。
「のう、サイニーよ。我はいつまでこのような退屈な『選定』をせねばならんのだ」
声の主の隣に控えていた壮年の男が、それに答える。
「このなかにも『希少種』がおるやもしれぬと思いまして・・・」
「ふん、次から次へと情けない顔ばかりの奴らだ。『希少種』なんぞおらぬわ」
声の主は、そう言うとすっくと立ち上がり、そのマントをひるがえす。そのまま紅い広場を背にすると、城門の方へと歩みを進めた。それを先程の壮年の男が慌てて追う。
「陛下! どちらへ?!」
ようやく追いついた城門前で、ギャア、と一つ獰猛な鳴き声が響いた。
「こんなくだらぬことをしている暇は我にはない。のう、エルマ」
声の主の前に巨大な鼻先が現われる。その下にはすべてを切り裂くような鋭い牙がぎっしり並んでいるにもかかわらず、声の主は少しもためらう事無くその鼻先を撫でる。
グルル、と一つ喉を鳴らすと、それは鼻先だけでなく、顔そのものを主に甘えるように擦り付けた。黒く分厚い鱗に覆われたその顔に、赤いルビーの様な瞳だけがぎらぎらと輝いている。
それは、このセンブリア大陸には生息せぬはずの生き物だった。
南洋を挟んだ、リンダール帝国の山脈にのみ住むという、伝説的な生物、飛竜。
全身が固い鱗で覆われ、その背の翼で空高く翔るこの生物こそ、リンダール帝国が誇る竜騎士団が操る騎竜であった。
「エルマよ、まだ飛べるな」
主人のその言葉に答えるように、エルマはその背の羽を広げた。太い骨の間に張られた飛膜が、ピンと張りつめる。そして、エルマはその太い後ろ足だけで、その巨体を支えると、その長い首を天に向けて、また一つ咆哮してみせた。
主人はその様子に満足気に頷くと、エルマの背にしつらえられた鞍に、軽やかにマントをひるがえし、飛び乗った。
「お待ちください! 陛下!我らもお供しますゆえ! おい、私の飛竜も早く持って来い!」
壮年の男が慌てて部下に指示する。それをおもしろそうに、声の主はその愛竜の背から眺めた。
「我に遅れをとるな、リンダール竜騎士団よ! このまま、あの忌まわしきルークリヴィル城まで落としてやろうぞ!」
風が巻き上がる。エルマがその羽をゆるりとはばたかせていた。同時にその著しく筋肉が発達した後ろ足で、地を蹴る。
ふわり、とその鱗に覆われた巨体が浮かんだ。さらに翼をばさばさと勢い良くはばたかせ、その高度を上げる。
高度が上がるにつれ、風の乱れは一層強くなった。その風に、エルマの背に乗った主人の赤い髪が激しく揺れる。燃え立つような赤毛だ。その下には、これまた炎を宿したような鋭い赤目が輝く。
「先帝の汚名、今こそ注いでくれようぞ! この新皇帝、カイザル・ハーンがな!!」
若き新皇帝は、高らかにそう宣言すると、勝利を約束するかのごとく、その剣を抜き、一直線に北を指し示して見せた。