第二十八話:老獪
趣味がいい、というのはこういう事を言うのだろう。
侍女の案内で通されたロクールシエン邸の中を舐めるように値踏みしながら、リュートは一つそう感じていた。
いつぞや、半島で会った豚の装いの比ではない。その室内の装飾はシンプルにしながら、よく見ると細かい意匠が施され、見れば見るだけその品質の良さを無言で語っている。ごてごてとありったけの装飾品で飾り立てたあの大貴族の豚など、この館の前では下品の極みに過ぎない。
……ふうん、流石は大公であられるだけの事はあるか。
館の値踏みは、いつしかその持ち主の値踏みに変わっていた。
かつてクレスタに手紙を寄越して、自分をレンダマルまでいざなった男……。その後、その張本人は地元にさっぱり帰ってくることなく、まさかこのような形でこちらから尋ねることになろうとは思いもしなかったが。
……何か思惑があってのことか。それとも……。
「リュート様」
大公の部屋への道すがら、そう思案していたリュートに、女の声がかけられる。先に庭で出迎えてくれた侍女の声だ。
「リュート様……でしたわよね? ええ、申し訳ないのですが、あなた様だけ少々こちらへ来て頂いてもよろしいでしょうか?」
そう言って、扉が薄く開かれた一室に、その上品に揃えられた指を向ける。
「おい、タミーナ。どういうことだ、これは私の臣下だぞ。これにここで待っていろと言うか。確かにこいつは元平民だが、今はれっきとしたクレスタ伯の養子だぞ? それを……」
納得のいかない案内に、そう憤るランドルフに、再び侍女はにっこりとした上品な笑みを浮かべる。
「いいえ、若様。大公様は後でこの方にきちんとお会いになるおつもりですよ。この方にはその準備をして頂こうと思いまして」
「……準備?」
「はい。すぐにできますので、どうぞ、若様はお先に大公様にお会いになってくださいまし」
有無を言わせぬような侍女の言葉を待たずして、部屋の中にいた他の侍女達が、白羽の男をその部屋の中へと引っ張り込む。
「ちょ、ちょっと、何だよ! 離せって……うわっ……」
「リュート!」
「……大丈夫ですわ、若様。ええ、それより大公様がお待ちですよ。さあ、どうぞこちらへ」
そう言いながら、侍女は廊下の突き当たりにある一際美麗な意匠の扉に手をかけた。
その重々しく開かれる扉に、ランドルフ、レギアス、オルフェの三人は、その緊張を飲み込むようにして、ごくん、とその喉を鳴らす。その中で、一人、クレスタ伯ロベルトだけが、静かに、何かを待つようにして、その目を閉じていた。
ギィ、と重厚な音を響かせ、目の前の扉が開く。
「ああ〜、旦那様に会うのも久しぶりだぜ。緊張するよなあ〜」
そう、ランドルフの横でいつものようにレギアスが軽口を叩いた、その時。
レギアスの顔が、突然、激しく歪んだ。
「くおの馬鹿息子がぁ!!!!!」
その怒声と共に、レギアスが吹っ飛ぶ。
隣で起こったあまりの惨劇に、ランドルフはただただその黒い瞳を丸くして、その怒声のする扉の方を見つめるしか出来ない。
そんな大公の若君を尻目に、堂々たる体躯をした壮年の男が扉から姿を現していた。その姿を認めるなり、吹っ飛んでいたレギアスが涙目になって叫ぶ。
「お、親父!!!」
「レギアス!! この放蕩息子が!! 貴様、何をしておったぁ!!!」
有無を言わさず、壮年の男の頭が、レギアスの額に叩き落とされる。
「貴様、聞けば若が矢傷を負われたというではないか!! お前が付いていながら、何という失態だ、この色惚け息子めぇ!!」
頭突きを食らって、怯むレギアスの腹に、今度は大きな右の拳がめり込む。
「そのしょぼくれた体と根性、たたき直してくれるわ、このボンクラ息子がぁっっっ!!」
そして最後には、とどめとばかりの踵落とし。
「親父!! 親父!! もう、もう勘弁してくれぇっっっ!!!」
いつもは腑抜けていても、いざとなったら滅法強いはずのレギアスが、まるで手も出せずに、ボロ雑巾のごとくにぶちのめされていく。その恐ろしい光景に、ランドルフとオルフェはあわあわとその唇を振るわせ、事態を傍観するのみである。
「ギリアム、もうそれくらいにしておけ。それ以上やったら、レギアスが原型を留めていなくなってしまう」
突然、扉の中から発せたれたその声によって、壮年の男の攻撃がぴたりと止んだ。
そして、その右手に息子の襟元をきつく握りしめたまま、扉の方向を向いて、一つ礼をする。
「これは、殿下の御前でお見苦しいところを」
はらり、と壮年の男の肩から、レギアスによく似た巻き毛がこぼれ落ちた。
「若様におかれましても、当家の愚息めが大変お見苦しい真似を致しました事、重ねてお詫び申し上げます。どうぞひらに、ご容赦のほどを」
呆気にとられて言葉もない大公家の若君に、そう恭しく頭を垂れて挨拶するこの男こそ、レギアスの父親にして、大公家に代々その護衛として仕える武官の家柄、ファー家の当主、ギリアム・ファー、その人である。
「さあさ、若様。どうぞ、中へ」
にっこりと若君に笑いかけながら、武闘派としての誇りを体現するかのような、よく鍛え上げられた腕が、かつてその息子であったボロ雑巾を部屋へと引きずり込む。その様子を見るなり、部屋の中で何かガラスの様なものが、一つキラリと光った。
「まったく、ファー家の輩は野蛮極まりない。これだから武官は嫌なのだ」
それは、部屋にいたもう一人の壮年の男がその右目にかけた片眼鏡の輝きだった。その男が言い放った嫌味に、ファー家の当主は少しも動じることなく、一言冷静に言い放つ。
「貴殿のような文官が大公殿下を御守り出来るものか、このひょろひょろのモヤシめ」
「モヤシで結構。無駄な筋肉をつける労力があるなら、その分知識を蓄えた方が遥かに有益というもの」
また一つ、キラリと片眼鏡を光らせて、口周りの筋肉しか動かさずに、壮年の男はそう応酬していた。この無駄な筋肉をまったく動かさずに淡々と喋る壮年の片眼鏡の男の存在に、オルフェの顔が忌々しげに歪む。
「……父上。お久しぶりです」
そのオルフェの挨拶に、父親たるハルト・レンダラーは、まるで人形が喋るが如く、無表情で答える。
「おや、私には息子などいないはずだが? 若様一人御諫め出来ぬ、無能者な息子など、な」
「な、何を……!」
父親の暴言に、珍しくその水晶の様な瞳を怒りに燃え立たせ、オルフェが食ってかからんとした時だった。
「やめんか。ハルトもギリアムも若造共で遊びすぎだ」
鶴の一声、とでもいうべき、威厳のある声が響いた。
その声に、部屋に居合わせた者すべてが、その姿勢を正す。その中で、ただ一人、ランドルフだけが、声が投げ掛けられた方向を忌々しげに睨め付け、一言静かに言い放った。
「お久しゅう存じます、父上」
「……ほんに、久しいな、愚息よ。聞き及んでおるぞ、お前の半島での痴れぶりをな」
そこには、堂々たる黒羽の大貴族が座っていた。
その息子にも増した切れ長の目と、峰の張った鷲鼻、そしていくらか尖った頬骨。その全体的に鋭い印象を与える顔に、さらに威厳を加えるかのような頬から顎にかけての髭。
それは押しも押されぬ、王国第二位の地位、『大公』を有する大貴族にして、『東部の鷹』の異名をとる老獪なる為政者、ガンダルフ・ロクールシエン。他ならぬランドルフらをここまで導いてきた張本人、である。
久しぶりに会った父親の容貌に、息子が挨拶代わりに一つ嫌味を吐き捨てる。
「おや、髭をたくわえられましたか。……まったく、似合っておりませんが」
にや、とあざ笑うその息子の言葉にも、父である大公は余裕の笑みを一つ漏らすだけである。
「そうか。似合っておらぬか。それは最高の褒め言葉だな」
そう言って、何か含むような笑いを浮かべて、その髭を一つ撫でた。
「……それはそうと、父上。先の痴れぶり、とは些か暴言が過ぎるのではないですか。我々が半島で成し遂げた事、まさかご存じない訳ではないでしょうね」
東部軍を率いての要所ルークリヴィル城の奪回と皇帝の本国帰還。ランドルフはその輝かしいまでの武勇をもって、この父に対抗せんと、その机の前まで詰め寄った。
……そうだ、お前が出来なかった事を私は為し遂げたのだ。さっさとその椅子、私に譲れ、この老害めが。
そう、自らの手柄を誇り、その父親に取って代わらんとするそのランドルフの自尊心と自負心を、目の前の大公たる父親は、一笑のもとに切り捨てていた。
「勿論。嫌と言うほど聞き及んでおるわ。貴様の蛮勇と愚行の数々。まったく、我が息子ながら愚鈍の極みだ」
「なっ……!! ぐ、愚鈍とはなんですか、愚鈍とは!! 我々がどれだけ命を賭して懸命に戦ったと思っておるのですか!!」
「……それが愚かだというのがわからんか、この痴れ者が。貴様、自分の立場がどのようなものか、未だわかっておらぬのだな」
怒り立つ息子に対して、父親はその座った椅子から少しもその腰を上げることもせず、ただ淡々とその息子を罵倒する。
「貴様はこの大公家の跡取りであるのだぞ。それが、何か。命を賭して懸命に戦っただと? ……何を血迷っておる。お前にその資格があると思うてか」
「な、何を言っておるのです! 皆、命がけで戦場に出ておるのですよ? 私自らが戦わなくてどうするのですか!!」
その父親のあまりの言い様に、さらにランドルフは抗った。しかし、それもいとも簡単に大公に一蹴されてしまう。
「愚か者! 貴様、それで万一戦死でもしたらどうするつもりだった。え? 聞けば、皇帝にその肩、射られたそうではないか。あそこで貴様が死んでおったらどうなっていた。残された東部軍は? そしてこの東部の長たる大公家は? ……お前、一体どうするつもりだったというのだ。答えてみろ」
父親のその指摘に、ランドルフはすぐに言葉が出てこない。……無論、死ななかったのだからいいではないか、という結果論など通じないことは分かっているからだ。
その息子の沈黙に、またも父親がばっさりと切り捨てる。
「誠に愚かしい。後先考えずに突っ込んで手柄を立てても、それは武勇とは呼ばん。蛮勇というのだ。覚えておけ」
「ち、父上! そうは仰いますが、あの場はまさに生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたのですよ? 南部など、どれほど竜騎士らに蹂躙されていたか! それを我々は見捨てておけるはずが……」
尚も言葉を紡いで反抗する息子の姿に、ちっ、と軽く大公の舌打ちが飛んだ。
「まだ、その阿呆ぶりを披露するか、愚息よ。よいか、人の上に立つ長たるもの目の前の不幸にただ流されて、その本質を見失ってはならんのだ。お前の肩には東部幾万もの民の命と生活がかかっておるのだぞ。それを余所の民の不幸の為に、失おうというのか。どうせ阿呆の貴様の事だ。私が送金を止めなんだら、まだ半島で戦いを続けるつもりであったのだろう? それでずるずると南部におって、どうするつもりだったのだ? ……貴様は戦争屋か? 将軍か? 違うだろう。貴様は東部を治めるこの大公の息子、次期大公ランドルフ・ロクールシエンだろうが! それが分からぬか!!」
その父親の叱責に、堪らぬ、と行った様子でランドルフはさらに反論する。
「……し、しかし、父上! 南部軍から救援要請が来たのは事実で……。軍を出すことも大公の重要な仕事の一つではありませんか! それはハルトも父上も納得の上で、私を救援に行かせたのでしょう?」
「その通りだ。救援、そこで留まっておけばよかったのだ。それを貴様は何だ。ずるずるずるずると最前線まで行ったかと思えば、ルークリヴィル城までその手で落とすなど出過ぎた真似を。あれは南部大公の城だぞ。あれの奪回など南部の者に任せれば良かったのだ。それを貴様は出しゃばって、しかもその奪回の手柄を意気揚々と鼻にかけおって。下らぬ若造の粋がりこそ甚だしく滑稽であるわ」
その鷲鼻にありったけの皺を寄せて、大公はその息子の反論を切り捨てていた。そしてそれだけ言うと、その視線を息子の後ろに控えていた、骨折している髭の臣下に向ける。
「愚かしいといえば、貴様もだな。クレスタ伯ロベルト。何の為に貴様を同行させたと思っている。この阿呆共を止める為だろう。それをただ傍観するかの如く若造共に流されおって。……あのカルツェ城の戦いの前にこいつらを帰せと言うたであろうが」
その聞き捨てならない言葉に、再び息子が食らいつく。
「な……! あ、あそこで帰らせるおつもりだったのですか!? か、カルツェ城の戦い前と言ったら、まだ何も……それこそただの後方支援だけで……」
「それでよかったのだ。それでも救援は救援だろう? あとは南部軍と国王軍に任せて、役目は果たした、はい、さようなら、と帰ってこればよかったのだ。まったく、お前は東部がどのような立場にあるか未だに分かっておらぬようだな」
……東部の立場……?
ランドルフはその言葉をよく噛みしめる。
「お前、何故東部に救援要請が来たと思うておる。……嫌がらせだよ、嫌がらせ。先の統一戦争において、最後まで王家に臣従しなかった、反骨者の東部への中央と南部からの嫌がらせだよ」
……い、嫌がらせ……。あの派兵が嫌がらせ。そう言うか、この糞親父は。
あまりの事実に、ランドルフはその口から二の句が継げない。
「その証拠に北と西の大公軍には救援要請が行っておらん。まあ、国王軍が出るのは当然として、だ。この東部軍に白羽の矢が立てられたのは、いつまでも国王に反抗する勢力と見なされている我ら東部の力を削ぐ目的だ。……まったく、百年も前に王家には臣従を果たしておるというのに、まだ嫌われて、割を食わされておるのだよ、我が東部は」
「……な、なんという……き、汚い……」
ただ唖然として、そう呟く息子に、大公たる父親は毅然として言い放つ。
「そう、汚い権力闘争だ。……それを戦い抜くのが貴様の仕事だ。戦争をやるのが貴様の仕事ではない。割を食っている東部の為に、粉骨砕身戦い抜く。貴様はそのために存在しておるのだ。それが分からぬか、この痴れ者の愚息!!」
一度も、その腰を椅子から上げる事なく、大公はその息子を一刀両断にしていた。その様子に、先に罵倒された髭の臣下が深々とその頭を垂れる。
「……申し訳ございませんでした、殿下。全ては私めの至らぬが故。この私、ロベルトがその咎を全て追います故、なにとぞ若様の勇み足につきましてはご容赦のほどを……」
その申し出に、髭に隠されていた大公の口から、ふん、という息が漏れる。
「貴様の首一つで贖えるものではないわ、ロベルト。……まったく、何故こ奴を戦わせたのか……。貴様の考えることは相も変わらずわからぬな、元中央貴族よ」
その言葉にも、ロベルトはその頭を上げない。ただ、粛々として大公の罵倒を甘んじて受けるのみだ。
「ランドルフよ。そして、レギアス、オルフェよ。……此度のこと、その若気の至りとして特別に許してやる。だがな、覚えておけ」
切れ長の、鷹の様な鋭い目線が三人の若者に突き刺さる。
「若さというものは、誰でも一度は簡単に有することができる。そのようなものに価値はないのだ」
その言葉に、三人の目が少しだけ揺るいだ。まるで、自分たちの事を見透かされている。そんな目だったからだ。
「……歳をとれば耄碌し、ただ害悪になるとでも思っているか、若造共よ。……違う。歳を経た経験、というものは若さとは違って、誰にでも手に入れられるものではないのだ。ただ安穏と日々過ごしているだけの人間には、到底手に入れられないものなのだよ」
最後に、大公は若者達をその椅子から見下しながら、きっぱりと言い放った。
「お前達は、我々に取って代わろうとする前に、もう少し覚えておいたほうがいい。『老獪』という言葉をな」
……完全に、……踊らされている。
来るべき未来に心躍らせ、意気揚々と凱旋をした三人の若者の思いは、今、その言葉に全て集約されていた。
……くそっ……くそっ……。
老獪なる父親達を前に、息子達は言葉もなく、ただその内心で歯噛みするのみである。
その自尊心は、悔しいまでに見事に叩き潰された。それが、何よりも恥ずかしくてならない。
三人全て、言葉もなく俯いた、その時。
「大公様。ご準備ができました」
突然、その殺伐たる親子の空間に、女の声が響いていた。
先に案内した侍女の声だ。
その声を聞くなり、大公はその口元を緩め、何かを呼ぶようにその手をぱんぱん、と鳴らした。
「おお、出来たか。よい、入ってもらえ」
「かしこまりました」
その女の声と共に、若い男の声が扉の向こうから聞こえてくる。ランドルフ達がよく知った者の声だ。
「な、何だよ、こんなの……。もう、窮屈で堪らないんだけど。何でこんな格好しなきゃいけないんだよ……」
「失礼致します。リュート様、ご準備整いましてございます」
侍女のその言葉と共に、再び扉が開かれた。
そこに立っていた人物に、ランドルフ、レギアス、オルフェの三人はただただ絶句し、その目を見開かんばかりに丸くする。
そこには、まるで一級品の黄金を思わせるが如く、艶やかに撫でつけられた金髪。そしてその髪と羽の色に合わせたかのような、最高級の光沢のある白の絹の地に、上品な金襴の刺繍が施された長衣、その首元にはそのエメラルドのごとき瞳を引き立たせるかの様な白貂の毛皮の襟飾り。そして品の良い小ぶりの腰飾りに、艶やかななめし革のブーツ。
そこにいたのは、まさしく、神すら羨む程の、押しも押されぬとびきりの貴公子、だった。
その輝かんばかりの気品に溢れた容貌とは裏腹に、いつもの調子で男が言葉を紡ぐ。
「……何だよ、こんな高そうな服着せられてさ。動きにくいったら……。うーん、これいくらで売れるんだろ……?」
「りゅ……リュート……。な、な、な……」
常々、こいつは磨けば光るな、と思っていたランドルフでさえも、そのあまりの貴公子ぶりにまともに言葉が出てこない。
そんな息子の様子など、毛ほども気にせず、大公がその手で臣下達に合図を送る。
――ザッ……。
一斉に、部屋にいた男達と侍女達の膝が、大理石が艶やかに光る床に折られた。
ギリアム、ハルトは勿論、リュートの義父ロベルトまでもだ。その膝を折っていないのは、ランドルフ達三人と、今だ椅子に座ったままの大公、それだけである。
その様子に、さすがに碧の瞳も怪訝な色を示す。
「な……何だよ。みんな、どうしたっていうんだ……」
その言葉を受けて、白羽の真正面にいた大公がようやく口を開いた。
「ようこそ、王都へお帰りになられました」
そして、恭しくも、一つ驚愕の言葉を紡ぎ出す。
「七大選定候がお一人、シュトレーゼンヴォルフ家御当主、リュート・シュトレーゼンヴォルフ様」
修正報告です。
これまでに書かれた『教会』を全て『神殿』に修正しました。これは、今後出てくるであろう帝国側の宗教との違いを明確にするためです。すみません、私のミスでございます。