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第二十二話:攻城

「あんな口上があるか、馬鹿たれが」

 

 城壁から北に離れた森の上空で、いつもにも増したあきれ果てた表情をしながら、黒羽の主君がため息をついた。

「ふふ、どうせ言葉なんて通じないんだ。あれで十分だろ」

 その主君の叱責を少しも気にしない様子で、最前線から戻ってきた白羽の臣下が不敵に笑う。そして、その手に持っていた何やらびっしりと文章が書かれた紙を、ぽい、と投げ捨てるように、主君の後ろに控えていた眼鏡の男に渡した。

「ああ、せっかく考えた名文句が台無しだ。昨日夜なべして書いた原稿なのに」

 自分の努力をあっさり無にしてくれた同僚に、恨みがましそうな視線を向けながら、その眼鏡の男もため息をつく。だが、それ以上の抗議はしない。最近、やっとこの男に何を言っても無駄だ、という事がわかってきたからだ。……また、蹴り上げられては、かなわん、とその口を噤む。

 

「さてと、宣戦布告も済んだし、いっちょ、やりますかね」

 きゅっ、と伊達男の革手袋が、北風の吹きすさぶ中、小気味よい音を響かせた。

「……おめーら、よろしくな」

 いつもの軽薄な香りを漂わせぬ笑みで、長身の巻き毛の男はその後ろを振り返る。そこには、いずれ劣らぬ鋭い眼光をした兵士数十名。彼らの手には全て、ピンと張った弓が握られている。その中の一人が、昼間だというのに、赤々と灯る松明を高く掲げて部隊の最後方に控えているのが見えた。それを確認すると巻き毛が満足そうに風に揺れる。


「よおし。……こっちは準備万端だぜ、大将」

「頼んだぞ、レギアス」

「任せとけって。俺は借りはきちんと返す、礼儀正しいタイプでね」

 ウインクしながらそう言い放つ幼なじみに、ランドルフは、どこが、と短く言い放ち、苦笑混じりの笑みを漏らした。

 

「オルフェ、あんたの方は?」

 先ほどつれなくした眼鏡の男にそう尋ねながら、リュートは眼下に広がる風景を見下ろす。

 北には今朝方、越えてきた山々。そしてその山裾からルークリヴィル城のある盆地まで広がる冬枯れ間近の森林。その森から幾筋かの白い煙が空に向かって伸びている。

「ああ、配置は十分。火入れもさっきしてきた。火の扱いはあの鍛冶屋たちに任せてある。大丈夫だ」

 そうか、と満足げに笑い、リュートはその視線を城の方へと滑らせた。

 眼下に広がるまだ紅葉がうっすらと残る森の絨毯。それはルークリヴィル城付近まで続いているものの、城壁の手前数百メートルの地点で途切れ、城壁周辺の一帯は短い草だけが疎らに生える荒野となっていた。

 

 ……城攻め対策のため、周囲を焼き払ったか……。

 その何もない荒野を、碧の瞳が睨め付ける。

 確かに、城壁周りに何も隠れる場所がない、というのは攻める方には不利である。眼下に広がる森に隠れて進撃しても、あの荒野を越えなければ城内へは切り込めない。木々の葉という天然の盾、兼、目くらましがなくなれば、その分城壁に配置された弓兵や竜騎士のいい的になるのは必定……。

 

「……痴れたことを……」

 その不利な状況にも関わらず、碧の目はその不敵さをいや増して光り輝いていた。

 

「リュート様、リュート様」

 熊の鳴き声のごとく野太い声が名を呼ぶ。リュートが後ろを振り返ると、青空に、綺麗に剃り上げられた頭が、テカリ、と光っていた。すっかり彼に心酔しきっている、駐留部隊長、ナムワである。

「リュート様、今回の作戦、うちのもん達をどうぞよろしくお願いします。あれ達も貴方と一緒に戦えると朝から張り切っております故」

「ああ。荒くれ共の本領発揮といくつもりだ。存分に働いてもらう。ナムワ、あんたも修練生達のことよろしく頼む」

「はいっ。お任せください。貴方様も御武運を。……ああ、それからどうぞ、ご注文の武器、鍛冶屋達から預かってきています」

 そう言って、丸太の様な腕が布の包みを渡してくる。それを受け取り、布をめくって中身を確認すると、金髪が満足げに揺れた。

「他の兵士にもいくつか渡してあります。いや、しかし、これで本当にあの竜が止まりましょうや?」

 心配げにそう訪ねる禿頭に、にや、と目の前の男の口の端が歪められる。

「安心しろ。……這い蹲らせてやるさ」

 

 

「……準備は、よさそうだな」

 すべてを確認した主君の下に、臣下達が一斉に集結した。青空の下、色とりどりの翼が揺れている。その一つ一つをゆっくり見渡すと、主君は最後の命令を下す。

「皆、いいか。今回の作戦はその疾さこそが要だ。決して止まるな! 躊躇うな!! 振り返るな!!! 勝利のために、全速力で翔け抜けろ!!」

「御意!!」

 ずらり、と並んだ頭が一斉に下げられる。その中の一つの輝く金髪が、主君の目に留まった。

「リュート。お前は、突っ走りすぎるなよ」

「ええ、……なるべくそうします」

 相変わらずの笑みを浮かべたままそう答えるリュートの金の頭に、かつて忠誠を誓った主君の右手が触れる。

「な、何……」

 その行為を訝しく思い、疑問の目でリュートは目の前の主君を見上げた。がしり、とその手に再び力が込められる。

「……帰ってこい。必ず、生きて帰ってこい! いいな?!」

 そこには、ひどく心配げな瞳だけがあった。それを見た臣下は、少し驚きながらも、また笑みを作って一言だけ静かに返した。

「……御意」

 

 

「……さあ、行くか」

 ヒュオ、と風が背後から吹き、並ぶ翼を揺らす。はためく大公旗とともに、兵士達が一斉にその持ち場へと散っていった。

 主君、ランドルフの声が、北からの風に乗って空に響き渡る。

 

「四つ羽の紋章の下に、いざ、全軍、出撃ーーーーーっっっ!!!」

 

 

 その鬨の声を、城の最も高い位置にある主塔の上から『鉄人』サイニー将軍は騎竜もせぬまま、悠々と聞いていた。

 なかなか、あの大将も統率力がありそうだ、と認識すると同時に、全ての黒点が空から消えている事に気づく。

「森に身を隠しての侵攻か。まあ、悪くはない。だが……」

 鉛色の目が、北城壁外に広がる荒野を射抜くように見つめた。

 ……さて、あの荒野、どのように突破する?

 そのまま突っ込めば、城壁に配置した弓兵の餌食になり、北塔に配置した竜騎士達に陣に切り込まれる……。奇策をもって湿地を制したあの白羽の男、まずはどの程度か、お手並み拝見といこう。

 

 ――ぱち、ぱち……。

 

 そう城壁の向こうを試すような眼差しで見つめる鉄人の耳に、何かが弾ける音が聞こえてきた。

「何っ……あれは……!」

 小さくそのように唸る鉄人が、その目をさらにこらすと、荒野の向こうに広がる紅葉の残る森から幾筋かの白い煙が上っているのが見えた。その白い筋はその数を徐々に増やすと共に、その太さを一気に増してゆく。そして、うっすらと残っていた紅葉の朱よりも、さらに赤い色が森に広がっていった。

「……や、焼いておるのか。森を、焼いておるのか……」

 その事実に、鉄人がその眉を少しだけ揺るがせ、驚愕の呟きを漏らす。

 今、隠れている森を焼くなんて、どういうつもりだ、白羽の男め……。これでは、自ら丸裸になるようなものではないか。

 ……何を、考えている……?

 

 


「始まったわね」

 その焼かれる森を、遠くに見ながら、看護婦マリアンは呟いた。

 戦場から少し離れた山裾に、彼女が所属する東部軍の従軍医療班は負傷兵の治療のため待機をしていた。医師、看護婦、その全てが事の成り行きをじっと見守る。

「……リュート、帰ってきてね。お願い……、レミルの所へなんか、行かないで……」

 栗毛の乙女が、その手をきつく握りしめて震えながら祈る。

「大丈夫。きっと、帰ってくるわよ」

 後ろからかけられた声に、マリアンはひどく驚いた様子で、その人物に駆け寄った。ふわ、と薄紫の羽が揺れる。

「姉さん! 寝てなくていいの? ずっと体調が悪いって伏せってたじゃない!」

 その言葉に、姉は青白い顔で首を横に振って答えた。

「いいの。この戦いだけは、この目で見ておきたいの。……今、この目でね……」

 その含みのある言い方と、浮かべられた複雑な表情に、妹はまた黙って姉の姿を見つめるしかできなかった。


 

 

「燃やせ、燃やせ!! 乾燥した落ち葉を火にくべろ!!」

 森では鍛冶屋達の声がひっきりなしに飛ぶ。その計算し尽くされた炎の中で、兵士達が待機して、来るべき合図を待っている。

 ……ふー……っ、ふー……っ。

 熱さのためか、緊張のためか、それとも炎の中の空気の薄さのせいか、兵士達の息づかいは荒い。その息と森が燃える破裂音の世界の中、凛とした声が上空から響いた。それは、ここにいる全ての兵士が心酔してやまない者の声。


「来るぞ!! 風が、来る!!!」

 

 ――ヒュオ!!! ヒュオオオオ……!!!

 

 さらに強い北風が、盆地に吹きすさんだ。

 赤々と燃える森が、北から南へ向かって一気に揺れる。

 ぱち、ぱち……ぱち、ぱち……。

 風にあおられて、その炎が一気に燃え上がり、煙があたり一面に充満した。その灰色の空の中、高らかに命令が告げられる。

 

「今だ!! 翔け抜けろ!!!」

 

 その声と共に、森に隠れていた東部軍が、一気に荒野へと飛び出した。

 旗が、剣が、弓が、その手に高く掲げられる。

 

 その突然の進撃に、城壁上に配置された帝国軍の弓兵たちが、即座に反応する。城壁の狭間に並んだ弓がぎりぎりと一斉に呻る。

「馬鹿め!! 狙い撃ちだ!!」

 最前線の有翼兵に、ぴた、とその狙いが付けられる。だが、次の瞬間。

 その兵士の一団が、一瞬にしてその視界から姿を消した。

「……なっ……!!!」

 

 目の前が、灰色に覆われていた。

 突っ込んできた兵士達も、その下に広がる荒野も、何も見えない。

 感じるのは、北から強く吹く風と、それに乗ったきな臭い匂いだけ……。


 

 

「……煙幕か!!!」

 主塔の上で、鉄人が唸る。

 ……煙で、煙幕を張るために、あの森を焼いたのか……!!! そうだ、確か、今日は北から南への強い風。当然、北の森の煙は南にある城へ流れる……!!


 ――何と、いうことだ!!!

 これでは、風下のこちらが視界を確保できん。と、なれば、あの城壁に配置した兵も……。

 


 

 ――ドスリ!!

 城壁に鈍い音が響いていた。

「へへ、いっちょあがり!」

 煙る最外壁の上、矢をその首に突き立てられたリンダール兵が無惨に転がる。煙幕をぬって現れたレギアスの弓兵隊が、城壁上の弓兵隊を一蹴していた。それに剣を構えたランドルフの部隊が続いて、城壁に残る残党を駆逐する。

 ――ドス、ドス!!

 城壁が、リンダール兵の血で染まる。

 

「止まるな!! 進め、進め! 城壁を越えろ!!」

 煙の中、再び凛とした声が響いた。

 その声に翼を持った軍隊が一丸となって動く。煙幕の中、無数の翼が風に乗り、最外壁を越えて、二重になった城壁の内部、北居館を目指す。

 その動きを、最外壁に建設された北塔の上に配置された竜騎士がすぐに察知していた。

「くそ! 調子に乗るなよ!!」

 小隊数騎が、その手に槍を構えながら、北塔の上から飛び立つべく、その拍車を竜の腹に打ち付ける。そして、城壁内部に入り込んだ有翼軍を後ろから襲いかからんと、その騎竜の手綱を強く引いた。

 

「そうは、させるか!!」

 

 その声と共に、灰色に煙る空に大きな影が差した。それと同時に響く、ゴス、という鈍い音。

「なっっ……!!!」

 叫ぶ間もなく、巨石が一体の竜の頭を直撃していた。

 あまりの衝撃に、ぐらり、とその巨体を揺らして、飛竜があえなく城壁下へと墜落していく。ぐしゃ、という音と共に、その背に乗った騎士の首が砕ける音が、無惨に響いた。

 突然起こった惨劇に、何事が起こったのか、と小隊の竜騎士達が煙る城壁下の荒野に一斉に目をこらす。

 ……何故、こんな石が……。何もない荒野だったではないか……!


 ――きらり。

 煙の中、何かが輝いている。……何だ……。

 そう訝しがる騎士達の耳に、不気味な笑い声が聞こえてきた。

「ふはははは!! どうだ、私が改良した移動型投石機の威力は! この煙で見えずとも、お前達がいる北塔の高さ……この投石機の角度……すべて計算済みだ。覚悟するがいい!! ……撃てぃっっっっ!!!!」

 騎士達は、ようやく先ほどの輝きがなんなのか、確認した。

 ……眼鏡だ。眼鏡の男が車輪付きの投石機数台に囲まれて、地上で笑っている。

 その、なんとも不思議な光景が、彼らが見た最後の光景だった。

 

 ガス、ガス、……ゴス、ゴス……!!

 巨石が一斉に、北塔の上に降り注ぐ。もはや、断末魔の声さえ聞こえない。


「ふっ……、北塔、制圧完了」

 もう薄くなりかけた煙の中、眼鏡が、いつもの七割り増しに輝いた。


 

 

「なんだ、ノリノリじゃねえか、投石部隊長殿は」

 巻き毛の男が、後ろを確認し、そう呟く。……あんだけ戦場は嫌だ、嫌だって俺にまで泣きついてきたのによう、と改めて思い出しながら、傍らにいた兵士の一人に命令する。

「これで後ろの憂いはなくなったな。今の内に城門開けて、外の連中、中へ入れろ!」

 その命令に、兵士が即座に反応するのを確認すると、レギアスは改めて、自分の前に広がる光景をゆっくりと見渡した。

 

 薄く煙る城壁内部、有翼の軍隊の前に、大きくそびえ立つ建物。……ルークリヴィル城第二の要、北居館。

 その屋上にはびっしりと配備された竜騎士団。そして、その中心に騎竜している赤い焔、皇帝、カイザル・ハーン。

 

「うわ……大将がいらっしゃるぜ、どうするよ、リュート」

 レギアスのその呼びかけに、どこからか白い羽が前へと飛び出した。凛として、それでいて不敵な声が耳に届く。


「任せろ。煽ってやるよ。……あとは、作戦通りに」

「……アイ、アイ〜」

 リュートのその言葉を受けて、レギアス率いる弓兵隊はその最前線を離れ、北居館の右に回り込む。その部隊の最後方にいた兵士が、レギアスに持っていた松明を渡し、目で合図をする。それを見て、レギアスはあきれ果てたように、一つため息をついた。


「ホント、うちの弟子は恐ろしいこと考えるよ」

 


 

「白!! 来たか!!」

 城壁を突破し、その最前列へと飛び出してきた白羽の姿を見つけるや否や、皇帝は北居館の上でそう叫んだ。もちろん、リンダール語であるため、相手には何を言っているかわからない。それでも、皇帝は尚も続けて言葉を重ねる。

「お前の首を獲りたくてうずうずしておったわ!! さあ、我と戦え!!」

 すら、とサーベルが皇帝の新しい騎竜の上で抜かれた。その様子を見るなり、隣の壮年の騎士がすぐに皇帝を諫めにかかる。

「陛下! 何を馬鹿なことを!! この場はここでお待ち下さい!!」

「黙れ! セネイ!! 貴様もサイニーも我の事を馬鹿にしおって。我に意見するでないわ!! あれは我の獲物だ! 我がこの手で八つ裂きにしないと気が済まぬのだ!!」

 諫めれば諫めるほど、皇帝の焔の瞳がより一層猛り立つ。

 勿論、蒼天騎士団副団長セネイに主君を馬鹿にしているつもりなどないのだが、この主君はそうは受け取ってくれぬらしい。……閣下が、手を焼かれるわけだ、とセネイは改めてその頭を悩ませてしまう。


 

「くすくすくす……」

 

 突然、嫌な笑い声が、薄く煙る戦場に響いた。

 後ろに有翼の軍隊を従えながら、白羽の男がこちらを見て笑っていた。言葉が通じなくてもわかる、明らかに小馬鹿にした笑い。

「……あれ、皇帝陛下は腰抜けでいらっしゃるのかな」

 その笑いをより一層強め、憎き白羽の男がその美麗な顔を歪める。そして、その何も持っていない右手を手のひらを上にして、皇帝に見せつけるように伸ばすと、その指先をくい、くい、と無言で動かした。

 

 ――来いよ。

 

 その手は、明らかに皇帝を挑発していた。

 一気に皇帝の焔も瞳が燃え上がる。その大きな八重歯をぎりり、ときつく噛みしめ、絞り出すように言葉を紡いだ。

「……白めぇ……!! 覚悟しろ……!!!」


 ドン! と竜の腹にきつく拍車が入れられた。皇帝の騎竜が、それを合図に飛膜を広げ、北居館の屋上をその強い後ろ足で蹴る。

「お、お待ち下さい!! 陛下!! 挑発にお乗りあそばしますな!!」

「黙れ!! 我があれと一騎打ちで負けると思うか!! 邪魔をするでない!!」

 セネイの諫言も、もはや猛りきった皇帝に、油を注ぐだけだった。ぐい、と手綱を引き、その騎竜を一気に前に飛び上がらせる。

「陛下!!」

 

「勝負だ! 白!! 剣を抜け!!」

 サーベルを呻らせ、皇帝が白羽に襲いかかる。それに呼応するように、白羽の男もその翼を勢いよく羽ばたかせ、前へと飛び出した。


 ――さあ、勝負だ!!

 

 だが、その皇帝の期待とは裏腹に、目の前の男の剣は一向に抜かれない。

 代わりに、目に飛び込んできたのは、その口から、べっ、と突き出された赤い舌だった。

 

「バーカ」

 

 くんっ、と親指だけを立てた右手が下を向く。

 

「誰が、お前なんかの相手をするかっての!」


 目の前の男はそう言い放つと、皇帝の竜の頭をドンッときつく踏みつけ、空へと一気に飛び上がった。それに、ナムワの部下の精鋭達、数十名が続く。凛とした声が再び青空に響く。

「一気に翔けぬけるぞ! 続け!!」



「待て! 白!! 逃げる気か!!」

 皇帝はすぐにそれに反応し、その頭上を駆け抜ける白羽を追いかけんとする。だが、その前に、ひゅん、と黒い剣が勢いよく突きつけられた。……柄に、独特の四つ羽の紋章が刻まれた漆黒の剣。

 

「お前の相手は私だ。皇帝」

 

 目の前に揺れる漆黒の髪に、漆黒の翼。その姿を認めるや、皇帝はまた呻るように、目の前の男の呼称を忌々しげに呟いた。


「……黒!!」 


 そう小さく吐き捨てながら、ぎりぎりと、きつく睨め付けられる赤い焔に、黒曜石の瞳は一分たりとも揺るがなかった。静かに、だが、断固たる声音で、皇帝に対して堂々と言い放つ。



「大将は、大将同士、正々堂々と戦おうではないか、皇帝よ」


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