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青髪少女の恋煩(のろ)い  作者: chuboy
恋煩(のろ)い
6/8

その5

 街灯が光を放ち、小バエが集いはじめた。だが街路にその他に生気を感じるものはない。

 四件目となる連続殺人事件が発生したことで、夜道を歩く人間がいなくなったらしい。この街の住民は噂や事件に過敏に反応する。それも全ては、“瀧本家”の存在感が人々を加圧しているという。


「全然、人がいないね」


 周囲の警戒に怠りのないように、阿田はいろんな隅から隅まで目を配っている。そんなことでは気疲れしてしまう。私はぐぅっと大きく伸びをした。伸縮性の高いパーカーだから全く肩が凝らない。


「人がいないのは、好都合。探しやすいです」


「そうだね。だけど、あまりにも静かすぎると緊張しちゃうな」


「大丈夫です。私も、サルもいるんですから」


「男の僕が励まされてちゃいけないね」


 阿田はハンカチを取り出すと、額の冷や汗を拭いた。どうやら、相当に集中しているみたい。私はどうフォローしていいのか、分からなかった。必死に言葉を探すが、話題は呪いのことしか、出てこない。


「そういえば、阿田さんの実力は私の父も認めてました。瀧本の主としてあなたの実力は保証します」


 私はかろうじて、彼に笑いかけた。父から阿田の実力を聞いたことがある。彼は呪いの解釈に長けていて、非常に賢い。大きな呪いは感じないが相対的に見れば、かなりの有力者だ。

 それは強力な助っ人となり得るが、もし敵となった時は、すみやかに排除しろ、と。


「先代の瀧本様にそんなことを言ってもらえるなんて、嬉しいよ」


 阿田からはほっと笑みがこぼれて、気持ちに余裕が出てきた。すると私の胸騒ぎも落ち着いた気がする。



「おいっ、匂うぞっ」


 すると、先行していたサルが急に立ち止まった。誰よりも周囲に気を配っていたのはサルかもしれない。私はまだ呪いの残滓を少しも感じることが出来ていない。だけど、一体どこから。

 路地をいくら見渡そうと、怪しく人物はどこにも見あたらない。


「下っ!!」


 サルのその声を信じて、私と阿田はジャンプした。すると、アスファルトより遥か下。地表ごと抉られ、怪物が姿を現した。その姿は地を這う蛇の姿で、長い身体はまだ尻尾まで見えない。ニュルッと身体を動かすとアスファルトが簡単に持ち上げられていく。


「――おいで、鳥たちよ」


 すると、阿田は呪文を唱えるように優しい声音を奏でる。すると、黒き微粒子が私たちの前に集まり始めて、宙に浮く床となった。阿田の扱う呪いは、招集型。

 自分よりも弱い呪いを集める呪いだ。ただし、あくまで誘導する力だ。弱い呪いだからといって命令を下せるわけではなく、意図しない動きをすることもある。


「呪いの知識があって、使いこなせる呪い」


 阿田は集中し続けている。この足場を維持するために招集を続けねばならないのだ。足場が消えれば私たち、二人は蛇の餌食だ。というか、うるさいやつがいない。


「ゴルァアアアアっ!!」


 サルは下だと判断しておきながら、回避をしていない。蛇の大きな身体を掴むと押さえつけようとしている。だが、蛇の直径は二〇センチはある。両腕で抱え込むのがやっとなのに、サルはそれが無茶だということを分かっちゃいない。

 蛇がうねると、サルは身体を持って行かれる。強靱な力をもってしても、怪物は止まらない。


「こいつは、強い呪いに侵されてる」


 サルが蛇を締め付けようとしていたのに、蛇の長い身体はサルの身体に巻き付いた。


「くぉおっ!! おぉおお」


 サルの憑依化がどんどんと強くなり、蛇を締め付ける力がどんどんと跳ね上がっていく。が、同時に身体を巻き付けられ身体を砕かれかねない。蛇はサルを中心に丸まろうとどんどん塊が大きくなっていく。


「鳥よ、蛇の元へっ!」


 阿田が血相を変えて念じた。すると、床となっている黒の微粒子。鳥の残滓の一部が蛇に向かっていった。しかし、半数は蛇を恐れて消えてしまった。生前に蛇に対する怨念がある呪いもあれば、蛇に(おのの)く呪いもある。阿田がどんなに念じようと、全てを意のままに操れない。

 それでも、阿田は念じている。サルを助けようと祈っているのだ。蛇の表皮をついばみ僅かではあるが蛇の身体は崩れ始めた。赤黒い身体を持つ蛇に向かう無数の鳥は、一つ一つは小さくとも蛇を削っていく。


「表皮が破れた……。サル、絶対にそいつを離さないで」


 破れた表皮から鳥の呪いは体内に入り込み、中から蛇を食い潰していく。すると、蛇は今までにないほどに身体を蠢かして、暴れまわる。地面に逃げられてしまえば、追いようがない。サルも、蛇の呪いなんぞに、負ける気がさらさらなくて、身体を痙攣させるほどに締め上げている。


「ぐぉおおおおおおおおおおおおお」


 雄叫びを上げるとメキメキと蛇の身体は潰れていった。

 なんと、鳥が蛇を食い潰すまでもなく、サルは蛇の身体を締め千切った。


「俺の勝ちじゃ、こらっ!」


 千切った身体を投げ捨てると、動かなくなった蛇の呪いは夜に溶けていく。

 まだ戦意の迸るサルは肩で息をして、目を充血させている。すると、


「おっと!?」


 床は突然消えて地面に落ちた。怪我をするような高さではなかったが、唐突だった。

 満身創痍、膝に手を付き息を荒げるのは、阿田も一緒だった。


「阿田さん、大丈夫?」


「サルくんが倒してくれなかったら、僕の方が先に力尽きてたよ」


 阿田は息を切らしながら、言葉を繋いだ。今回はかなりの大物だった。サルが苦戦するレベルの呪いなんて、かなり珍しいのだ。私は素直に二人の無事を祝い、労った。


「二人とも、お疲れ様」


 すると、二人は私を見て、目を見開いた。


「三人とも、無事で生きて帰れてよかった」


「これっぽっちも、疲れてなんてねぇんだよっ」


 阿田の頑張りと、サルの強がりが蛇を倒したのだ。私が呪いを使うまでもなかったし、結果的には楽な戦いだった。


「サル。貴方は無茶をしすぎ。敵わないなら一度引く。当たり前のこと」


「だから、余裕で勝てたんだよ」


「余裕で勝てる割には、息が荒い」


 そういうと、サルは口で息をするのを辞めた。鼻がフンフンしていて、どうしても、強がりたいのが可笑しかった。


「ばーか。今日は遅いから解散」


 私はパーカーで声を抑えながら、クスクスと笑った。



 ※※

 私は帰宅すると、シャワーを浴びた。

 父からは今日の外出について、何を言われることもなかったが、それがどうも気に食わない。


「あの人は、一体何を考えている……」


 私が寝間着に身を包み、縁側で涼んでいると、


 ――――ドンッ


 塀に大きな衝撃音がなった。瀧本家を前に物怖じもせず、こんなうるさい音を出せる奴は一人しかいない。私は右腕を硬くしながら、塀の外へと回った。


 すると、予想通りのサルは、予想外にも全身から流血していた。酷い傷だ、常人なら致命的なほどに傷が多い。


「サルっ!!」


 私はサルに駆けよって、ふらふらなサルに肩を貸した。寝間着が赤く染まるのが早い。止血しなければ命を落とす。


「一旦、引いただけだ。俺は負けてな…………っ」


 サルは私の首を元を、掴んでそれだけを言い残した。相当な相手に喧嘩をふっかけてしまったようだ。私は、すぐにサルを家の中へと運んだ。

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