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青髪少女の恋煩(のろ)い  作者: chuboy
恋煩(のろ)い
2/8

嫌いなアイツに笑顔は見せない(1)

 食卓に二人。

 物静かな父と、喋らない私。彼が何を考えているかは未だによく分からない。

 ただ彼は行動で語り、行動で語らせる人だ。彼なら、世継ぎが女に生まれても、男に生まれても瀧本を背負う者として、強く育てるという教育方針に変わりはない。


 私の家族は父一人。私が物心が付く前に母は亡くなってしまった。

 父からは瀧本家の先祖について、十まで教わった。父は穏便派を貫き通した。

 そして、私は齢十八の時に、当主の座を譲り受けた。


「直、今日の予定は?」


 父は私に目もくれず、朝食を摂る。私の発言に果たして関心があるのか汲み取れなかった。


「本日は連続殺人事件の現場に行ってみようかと思います」


 瀧本家のある地域とわかっての犯罪なのか、知る必要があると踏んだ。すると、彼は箸を置く。

 それはカチッと静かな音が響くほど、静寂で強烈な緊迫だった。


「…………。そうか、気をつけるんだよ」


 私の目を見つめると、表情を一つ変えずにそう呟いた。まるで、衣を剥かれ丸裸にされたようだ。薄い寝間着では肌身が、寒く感じるその冷徹な視線に、私は食欲を失った。

 食器を片し、席を立つ。


「それでは、行って参ります」


 私は自室に戻ろうとする。すると、彼はもう一度、口を開いた。


「直はこの若さで瀧本を継ぐ優秀な子だ。心配せず、思うとおりにやりなさい」


 聞こえなかったフリをして、自室に戻る。


「私の気を重くするようなことばかり、言わないでよ」


 私は押し入れを開けると、文句を押し込んだ。今日は瀧本を背負う気分ではない。すると、私は押し入れから洋服を取り出した。和室に合わないラフな格好だ。

 肌触りがすっきりして、動きやすいから好きな服装である。


「うん。今日は、ロック系のコーデしよう」


 鏡の前で、キャップとパーカーを合わせると気分が乗った。だけど、鏡に映る私は堅い。気分が乗っても表情がほとんど変わらないのは、父親に似てしまったのかもしれない。

 私は寝間着の帯を解いた。胸元に締め付けがない分、楽だが不安ではあるのだ。



「――よっしょっ!」


 唐突に塀の外から男の勢いづいた声がする。すると、身長を優に超える塀を余裕綽々にひとっ飛び。宙で一回転すると男は縁側に降り立った。


「よう、(なお)っ」


 男は、破れた黒Tシャツに赤のダメージパンツ。

 対する私は寝間着を解いて、かろうじて、手で隠した半裸状態。

 足音が威張り、男に近付くと右腕を振り切った。野性的で厳つい顔面にどストレートをたたき込む。


「――死ねっ」


 すると、男は後ろに倒れ込んだ。

 縁側ギリギリで石庭に落ちる寸前、地面と水平な状態になって静止した。まるで、壁に立っているような状態だ。親指を縁側の木材に引っかけその指圧だけで身体を支えている。


「おいっ! なんで殴んだよっ。今回は塀も壊してねぇし、ナントカ庭園も触ってねぇ。それにちゃんと裸足で入っただろうがっ」


 男は水平状態で、平然と腕を組んで、納得がいかなそうに怒っている。塀を壊し、石庭の砂利をぶちまけ、土足で部屋に上がり込み、この男の不法侵入は一度や、二度じゃない。

 思い返すだけで、憤りが蘇った。


「着替えの最中に入ってくるなっ! サル」


「んなもん、知るかよっ。お前が隠せばいいんだろうが」


 人の家に無断で入り込み、常識を知らない彼は、古木(ふるぎ) (しん)。通称、サル。圧倒的馬鹿力を持っているが、脳みそも圧倒的バカ。

 彼とは長い付き合いをしているが、深い付き合いをしたことは一度たりともない。


「絶対に覗くなよっ」


 私は刺殺するように、サルを睥睨すると勢いよく襖をしめた。


「わざわざ、覗くかよっ」


 呆れるように、呟くサルの声が癇に障った。

 当主になってからだろうか。自由に生きるようになってから、女の子らしさを表徴する服装や、ファッションに興味をもった。それからなんだか、女性らしい体つきを意識して、恥ずかしいという想いが躍起し始めた。

 自然と自分の胸元を見つめてしまうほどに。


「私は、女なんだよね……」


 さっさと着替え終わると、化粧に手を出した。

 普段は化粧をしないが、サルごときに赤面してしまっている自分を見ると腹が立った。

 化粧の仕方など、教わる相手がいなかったせいか、簡単に頬に肌色を乗せるだけだった。後は、キャップを被ってパーカーを口元まで締める。

 一呼吸を置いて、雑念を払った。そして、静かに襖を開ける。


「取り乱して、悪かったわ。瀧本家へようこそ」


 すると、サルは壁立ち状態から、ようやく地面へと起きあがった。

 そして、私を凝視して、眉をひそめる。


「なんか、直。雰囲気違うよなっ」


 キャップの鍔が、おでこに当たるほどにサルは顔を近づける。私の方が身長が低いため、男の彼は少し猫背になる。息が掛かるのが気に食わなかった。


「私の顔に何か、ついてるかしら?」


 取り乱すこともなく、ぴしゃりと高圧的に言い放った。


「いいや、別に」


 すると、彼は顔を引いて目を逸らした。


「では、お茶を淹れる」


 私は当主として、来客をもてなす義務がある。それがサルであろうと客であれば、もちろんだ。


「おいおい、俺にそれは必要ねぇし。せけん話、なんてしねぇぞ」


 相手が拒むなら、その義務はなくなる。私としては、(はな)からお茶を入れようという気がなかったので、ただの決まり文句だった。性格的不一致の私とサルの共通点は、一つしかない。


「じゃあ、要件は連続殺人のこと?」


 サルのように単刀直入な奴ほど、話が単純。そんな気楽な人間は、私の周りには他にいない。


「れんぞ……ちっ! よく分かんねえけど、人がころされてる話に決まってんだろうが」


 知能は頼りないが、瀧本家に物怖じなく侵入する行動力には太鼓判を押そう。

 私はサルと供に、出かけることとした。

 今回のデレ要素はご想像にお任せします。

 感情の起伏が少ないという描写が積もってませんが、萌え要素にファーストタッチしたかったので、こういった話数とさせていただきました。


 夜更かしした僕らは夢をみない。より、ちゅーぼー。でした。

 作者ページにリンクを貼っていますので、そちらにも、ぜひとも遊びに来て下さい。

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