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少女の問い

「やめて下さいっ!私はどうしても良いですからっ、どうかっ、この子だけは!」

「…。」

ジリ、ジリ、と。

「お願いしますっ!お願いしますっ!」

1歩ずつ。

「気にするな。幼子(おさなご)を殺ると寝覚めが悪い。」

「え?」

影は近づく。

「まだ空白のある幼子は期待値があるからな。」

「…っ!」

顔色1つ変えず。

「幼子には手は出さぬ主義だ。」

「なら、私達は…」

その手に持ったある物をギラつかせながら。

「誰が貴様にも手は出さぬと言った?」

そう言い放ち。

「っ!?」

嗚咽にもならぬ、とある母親の悲鳴。

「大人はもう手遅れなのさ。」

音にならぬ悲痛な叫びが、石畳に染み込む。

「余白が無いなら、もう用済みでな。」

「っ…っ…」

驚愕する顔を、月光がほんのり照らす。


「散れ。」


その一言を最後に聞いて、母親は2つになった。

「…ぅ…っ……ぅぐっ…ぅ…」

目の前で母親だったものが砕け、幼子は嗚咽を漏らした。

「………貴様は失望させてくれるなよ。」

どこか悲しみを帯びたその目は、真っ直ぐに幼子を捉え、そして上を見上げた。

煉瓦(れんが)製の壁に囲まれた路地の隙間から、(あお)い空に浮かぶ赤い月が覗いていた。






「どいつもこいつもまともな奴が居ねぇ。」

彼は失望していた。

どこか気だるそうに歩きながら、旧街道を歩いていた。

日は傾きかけているが、まだまだ空は赤く染まりそうにない。

『なぁ、お嬢ちゃん。一緒に遊ばないかい?』

「ん?」

ふと、礼儀の無さそうな声が聞こえた。

「あの、止めてくださいっ!」

「なぁ、良いだろう?俺らと一緒に遊ぼうぜ?」

見れば、少女が野蛮な男に絡まれていた。

まぁ、綺麗な子だ。だが、男のやり方は正しくは無さそうだ。

「なぁ、何やってんだ?」

「ア?んだテメェ?」

男は苛立った表情でこちらを睨む。

「俺の事はどうでもいい。貴様は何やってんだと聞いてんだよ。」

「はァ?つべこべるっせぇんだよ失せろ!」

男は急に殴りかかってきた。かなり気が立っているようだ。

「…。」

しかしこちらは冷静な状態だ。男の拳を右手で(はじ)く。

「んァ?テメェやれるやつか?おもしれぇ、やろうじゃねぇか。」

一撃を冷静に弾かれたからか、男の目が変わった。それと同じく、構えも変わった。

この構えはボクシングに近いだろうか。両腕を正面に構えている。

ならばこっちもそれなりにやろうではないか。

「ウラァ!!」

手始めに直線で右腕が飛んでくる。左手が外側に動いたのを見逃さず、次に攻撃が来ることを考え左手で防御する。

「…。」

案の定、左のアッパーが来たので右手で逸らしてそのまま左手で腹に一撃。

「ッ?結構やんじゃねぇか。テメェ、ナニモンだ?」

怯みというものを一切見せず、男はこちらに向き直ってきた。

「ちょっとした処刑人だよ。」

「…?」

それを聞いた少女は首を(かし)げた。

「なに、君は知らなくても良い事さ。」

「…?」

やはり少女は首を傾げ、こちらを覗いた。

「オイオイ、よそ見してんじゃねぇぜ?」

ニヤけながら男が思いっきり殴ってくる。

「俺がいつよそ見した?」

襲ってきた男の腕を掴み、そのまま地面へと投げる。

背負い投げ、といった具合か。

「ナっ!?」

不意を打たれたのか背面を強打した男は(しばら)(うめ)き、よろめきながら立ち上がった。

「テメェ、やるな?今度あった時はちゃんと本気でやってやんよ。覚えてな。」

男はそう笑って背を向けた。

あの体格なら何かしら武術をやっていたのだろう。

所々の筋肉が隆起し、まるでゴリラのような後ろ姿だ。

「ったく、ロクな奴が居ねぇもんだ。」

まぁ、どんな武術を使うところでこの鎌を使えばすぐ終わるのだが。

それでは少し面白くない。

「あ、あ、あの、ありがとうございます。」

少女が礼を述べた。

そういえば居たっけな。

「あぁ、気にすんな。俺はあの男が気に入らなかっただけだ。」

「は、はい。」

全く、下品な人間だ。もう少し礼儀をわきまえる事はできなかったのだろうか。

「ふむ、少々動いたせいで腹が空いたな…。どうしたものか。」

その言葉に少女がビクッと反応した。

「あ、で、では、よろしければお食事を…」

「結構だ。礼は受け取らぬものでな。」

「は、はぁ。………?」

少女は不思議そうな目でこちらを見上げる。

音を鳴らす自らの腹をさすり、少女に問いかける。

「先程の男とは知り合いなのか??」

余計に不思議そうな目をして、少女はうろたえる。

「え?あ、いや、そうじゃないですけれど…。」

「そうか。」

しばらく、音の無い時間が過ぎる。

旧街道の石道には、何一つ通るものは無く、静かな虫の声だけが響いていた。

「………あの、」

「ん?」

「……………幸せ…ってなんでしょう?」

「………」

「………」

「さぁな。もう忘れちまったな。」

「…。」

いつの間にか日は落ちてきて、空は(あかね)色に染まっていた。

沈みゆく太陽を尻目に、東へと足を進め始めた。






悲鳴はもう飛び交っていなかった。

先程まで高周波の騒音を撒き散らし、駆け回っていた塊も、今は破片となり、床を赤黒く染めていた。

「はぁ、ようやく静かになってきたな。」

あちこちには白い棒が転がり、濡れた絨毯(じゅうたん)に靴が浅く沈む。

「臓器」と呼ばれていた色とりどりの塊は、今では床のアクセントとなっており、踏む度に「グチュリ」という音を出していた。

身の丈を優に超す大鎌に刺さったままの肉塊を引きずりながら、最後の1つへと歩み寄る。

「もっと静かに散れぬのか。」

「っ…ぁ………ぁぁ……………」

「全く、騒々しいのは苦手なのだが?」

「……ぅ………ぁ……………ぁぅ……………」

「最期に言うことはあるか?」

「………ゃ………」

「あぁ?」

「…いやだ……まだ死にたくない……………っ」

「知るかよ。うるせぇんだよ。」

「っ………!?」

「さっさと、」


「散れ。」


「~~~~~~!!!!!」

声にならぬ悲鳴が、(やかた)に響く。

振り上げられた鎌先は、弧を描いて塊に刺さり、2つの破片へと変えた。

引き抜いた刃先には紐切れが絡まっており、ほどこうとすると内部からえぐり出た。

「ったく、汚ぇな。」

流れ出た液体が絨毯に染み込み、周囲が鮮やかさを増す。

「グチャ」という音と共に白い棒の飛び出た肉が床に落ち、またインテリアの1つとなった。

「幸せか…。……………いつから忘れたかな。」

窓からは赤い月の光が差し込んでいた。


リグドラ-end-

リグレテッドドラゴン -ルクドラ番外編- を呼んで頂き、誠にありがとうございます。

こちらは、ルッキングフォードラゴン!(ルクドラ)の世界で、とある青年が主人公となるお話となっております。

この作品は、作者の気分により続編が出る可能性があるので、一応「連載」として投稿しております。

この作品、若干のグロ要素を含んでおりますので、一応R-15となっております。ご了承ください。(というかこれは読んだ後に言っても意味無いですね)

今作で主人公となった青年は、本編にもチラッと登場予定です。

鎌を持った暗い雰囲気の青年…勿論この青年にはモチーフが。

しかしなんでも言っては面白くない。という事でこの後書きでは言わない事にしましょう。

実は、こういうちょっとグロめの作品、書いてみたかったんですよねぇ。

なんか新鮮で執筆してて楽しかったです。

さて、書くことが少ない為に後書きが短い番外編ですが、なんとこの作品も後書きが短いです。

まぁ、書くことがあまり無いんでね。

というか本編の後書きはクイズでめっちゃ長くなる。(笑)

さて、ホントに書くことが無くなったのでここで終わりとさせて頂きます。

では、ここまで呼んで頂きありがとうございました。

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