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魔法学園と9刀流の剣士  作者: 藤峰男
9/11

9.言いたいことも言えないこんな世の中は

 俺が休んでいる1週間の間に、聖ビーマ学園内にはいくつかの噂が流れていたらしい。

 『十文字十一郎死亡説』

 『十文字十一郎異世界転移説』

 『十文字十一郎退学説』

 中でも最も有力視され、校内に多く存在する俺のファンたちを不安にさせたのが、『十文字十一郎逮捕説』だった。

 

 柿番曰く、「君ならやりかねないネ」。

 

 入学してからの目に余る問題行為の数々、他生徒への暴力、教員への反抗的態度、違法薬物の栽培、領海侵犯および海賊行為、そして要人の暗殺……。

 確かによく考えてみれば、それ相応の所業を行って来てはいたが、だが十文字家の次期当主であるこの十文字十一郎がそう易々と尻尾を掴ませるわけもなく、こうして1週間たった今、何事もなく聖ビーマ学園に登校していることが、全ての流説を否定する何よりの証拠となっていた。

 

「おはよう、どうしたんだい? 1週間も学校を休んでサ」

 

 教室に入るといくつかの訝しげな視線が刺さったが、俺はそれらを無視して席につく。

 机はすっかり新調し、椅子と合わせて足をボルトで床に固定することで、微動だにしない固縛性を得ていた。

 また、机の表面にはダイヤモンドよりも固い魔鉱石カチカチコーンの粒子を含んだコーティング剤を塗布してあり、ナイフを突き立てようものなら一瞬で刃こぼれを起こさせる。

 

「俺はな、柿番……。いじめとか、弱肉強食とか、そういう言葉が死ぬほど嫌いなんだ……」

 

「……何やら、困っているようだネ。確かに僕もそういう単語とは無縁の人生を送ってきたけど、もしそれらが目の前で行われていたら、今の君のように激昂するだろうネ」

 

 柿番は神妙な面持ちでそう答えると、続けた。

 

「どうかナ? 僕に協力できることがあれば、喜んで力になるけどネ」

 

「いや、大丈夫だ。俺はこの1週間、何も机のDIYに没頭していた訳じゃない」

 

 俺は教室内をぐるりと見回すと、ある人物へと聞こえるように声を張り上げた。

 

「犯人は分かった。そいつの家も、家族構成も、交遊関係も、俺は全てをこの1週間で調べあげた。……クククッ、クハハハハッ……! 笑いが止まらねぇでござる! 自分の大切な妹が今も助けを求めていることも知らないで呑気にクラスメイトと談笑しているところを見ると、笑わないでいられないね!」

 

 クラスメイトの視線が俺に向けられた。会話の内容は今日の天気や授業の内容など下らないものから、俺に対する罵詈雑言へとすげ替えられる。

 

「や、やっぱりクスリで頭が……」

「なに? ドッキリのつもりなの?」

「フム、どうやら十文字氏はこのクラスの何者かに向けて宣戦布告をしているようだね。彼が1週間も学校を休んだのも、その人物が関係していると考えていいだろう。いずれにせよ、十文字氏はこういう冗談を言うタイプには思えない。きっと一波乱起きそうっすでありんすね……」

 

 不安そうな顔でこちらに来る人工知能TYPE:βと四宝院を手で制すると、俺は高らかに宣言した。

 

「おい弱者! 俺はお前を許さない。この十文字十一郎様のプライドを傷付けた代償は、お前の父親でも償えることはないだろう。この十文字十一郎様にちょっかいを出したことを、お前は指を加えて後悔するしか出来ないのだ! クククハハハハハッ!」

 

 悪魔だ……! 

 誰かがそう呟いた。俺が悪魔? ハッ、笑わせるぜ。悪魔とて、無関係の人間に牙を向けるほど暇ではない。悪魔とて、槍で突かれてなあなあで済ませるほど心がないわけではない。

 

「なぁ、そうだろ? 弱者……。お前は俺が妬ましかった。俺とお前はよく似ている。だがお前が持っていないものを俺は持っていた。そしてお前が唯一誇れるものは、正確にはお前のものじゃない。お前は良くできた張りぼてで、その正体は薄っぺらい弱者(よわもの)なんだ……。なぁ、怒らないから、素直に出てこいよ。謝ったら許してやるからさ……」

 

 クラスに静寂が訪れた。俺は心の中で10数える。誰も微動だにしない。まるで肉食獣に睨まれたウサギたちのように、ひたすら自分は無関係だと訴えていた。

 

「……十文字クン、そう言われて出てくる人はいないと思うけどナ」

 

「……ふっ、まぁいい。最後のチャンスだ。放課後、校舎北にある第三用具倉庫にこい。理乃(りの)ちゃん、だっけか。来ないと、中等部三年のお前の妹を俺が可愛がることになるぜ……?」

 

 その名前を出した瞬間、ある人物の表情が強ばったのを俺は確認した。さすがの不穏な空気に、柿番は取り繕うように俺を宥める。

 

「まぁまぁ。落ち着いて、十文字クン。詳しい事情は分からないけど、物事には限度ってものがあってネ……」

 

 俺は柿番の手を振り払うと、最後に一言告げ、教室を後にした。

 

「この世界はな、弱肉強食なんだZE」

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